10話 エルフの戦士たち
朝食を食べ終え、ターニャに案内された場所は里長がいた建物の隣だった。
ここへと来る間、里のエルフたちからの視線があまり感じられなかった。すでに俺のことは里に知らされているのだろう。それでも感じられる視線は好奇心からか、それとも信じられないからか。
どちらにしろ、こちらから関わらないようにした方がよさそうだ。
建物内に入ると、深手を負ったエルフが木のベッドに横になっており、軽度な怪我を負っているエルフは床に雑魚寝状態でいた。
何人かは痛みに呻いている。
それらの人を看病しているエルフたちが忙しなく動いている。
あまりにも忙しくて俺たちが入ってきたことに気づいていないようだ。
ターニャが「少し待ってて」と俺に言い、奥へと消えた。
俺が入り口で待機していると、新たに怪我人が運ばれてきた。怪我したエルフは一人で立てないほどの傷を受けているようで、左には支えるエルフがいてベッドへと運ぼうとしている。
「ほらあんた邪魔だよ。どいて!」
さっきまで他のエルフを看病していた年若いエルフの女性が俺を押しのけて、外から来た怪我人の右側を支えてベッドへと運ぶ手伝いをした。
二人のエルフは礼を言ってベッドへゆっくりと向かった。
怪我人がちょうどベッドにたどり着いたとき、ターニャが戻ってきた。その隣には少し恰幅のいいメガネをかけたエルフがいる。そのエルフは白衣のようなものを着ている。
「この人がここの診療所をまとめているマリアンネさん」
「君がダンジョンを攻略してくれた人族の子だね。ありがとう。早速なんだが、怪我人を治療してくれるらしいね。お願いするよ。私たちエルフは光魔法が使える者が少なくてね。使える者も得意ではないんだ」
マリアンネと呼ばれたエルフはお礼を早々に、捲し立てるように言った。
忙しい中わざわざ俺のところまで来たが、すぐにでも怪我人の治療をしたいのだろう。
「あぁ、分かった。どのエルフから治療すればいい?」
「……MPはどのくらいもつ?」
マリアンネは一度周りの状況を確認してから俺に言ってきた。
MPを確認すると最大の65まで回復している。これならここにいる三十人くらいなら全員にキュアが使えるだろう。
だが一人一人キュアを使うのは面倒だな。
何か一気にやる方法はないのだろうか。
「MPはここにいる全員分はある。だが一人一人キュアを使うのは手間がかかるな」
「全員分ってすごい魔力だね、君。それならキュアサークルは使えないのかい?」
キュアサークルとは何だろうか。
話の流れから察するにキュアの範囲系魔法だろうか。まぁ名前さえ分かれば使えるだろう。
「あなた魔力はあまりないんだからキュアサークルなんて使えないわよ」
ターニャが横から言ってきた。
キュアサークルを使うには俺の魔力じゃ足らないのか。運魔法には関係ないだろうが。
「そうなのかい?」
マリアンネが訝しげな表情になる。
「いや、大丈夫だ」
俺がそう言うとターニャが何か言いかけたが、それを無視してサイコロを創り建物の中央に放った。
するとサイコロから何やら魔法陣のようなものが広がり建物全体を覆った。
マリアンネとターニャだけでなく診療所にいたエルフたちが驚いている。
魔法陣が消えると痛みに呻いていたエルフたちが静かになり、怪我人たちが身体を起こして調子を確認し始めた。
看護していたエルフたちはそれを見て何が起きたのか分からず唖然としている。
「こりゃすごい……」
メガネがずれ、思わずといった風にマリアンネが呟いた。
「すごい! すごいよ!」
ターニャは無邪気に俺に飛びついてきた。
今までは元OLだけあって年上の落ち着いた雰囲気があったけども、今は現在の年相応な雰囲気だ。それに俺は少し気後れした。ふわっと香る花のいい香りと女性特有の柔らかさ。胸の柔らかさはないが……。
「分かったから落ち着け」
俺はターニャの肩を掴んで諌める。
「ご、ごめん……」
「ははっ、あのターニャが子どもみたいに喜ぶなんてね」
メガネのずれを直しながらマリアンネは言った。
近くでターニャの大声を聞いたからすぐに気を取り戻したのか。
「もう、マリアンネさん言わないでよ」
マリアンネに指摘されてターニャが顔を赤くして怒った。
それを見ていたらなんだか彼女との思い出が重なった。
あれは確か彼女が引っ越ししてから猫を拾った日、彼女の家に持ち帰ったときに彼女の両親が反対をしたんだ。ペットを飼うのは簡単じゃないと。だけど俺と彼女は懸命に説得してどうにか飼うことが許可された。そのときの彼女の喜びようと彼女の両親のやり取りが、ターニャとマリアンネに重なって見えた。
それに思わず笑ってしまった。
「なんだい、さっきまで怖い顔してたけど、笑うと案外いい男じゃないか」
マリアンネが俺の顔を覗き込んでそう言った。
怖い顔、してたのか。
ダンジョンで死にかけてから、ずっと殺すか殺されるかだったからな。
無意識に出ていたのか。
「確かに……ってまた怖い顔になっているわよ」
怖い顔になるようには意識していないのだが、もうこの表情が張り付いてしまったのだろうか。
そう思って表情を緩めてみた。
「今度は変な顔だし」
ターニャが笑いながら指摘してきた。
……まぁ表情なんてどうでもいい。
「また怖い顔になっちまったね」
「あ、機嫌悪くさせたみたい、ごめん……」
いつもの表情に戻したらまた怖い顔になったようだ。
気分を害したと思われ上目づかいでターニャには謝られてしまった。
「いや、気にしてない」
そう答えるも、ターニャはまだ不安そうに見てくる。なぜだ? そんなことを考えているとエルフの男が近づいてきた。
「君がみんなを治してくれたのか?」
こちらのやり取りを聞いていたのか、エルフの男が話しかけてきた。
「あぁ」
「そうか、助けられた、ありがとう」
エルフの男は深々と頭を下げて礼を言った。
「あまりのことにお礼を言うのを忘れていたよ。ありがとう」
マリアンネも礼を言い、ターニャもそれに続いて礼を言ってきた。
エルフの男が顔を上げると、みんなが助かったはずなのにいまだ張りつめたような顔をしている。
ここに運ばれてきたエルフは助かったかもしれないが、ここに運ばれずに助けられなかった者もいるだろう。
それにまだ原因が解決してない。
放置すればまた怪我人が続出する。
「すまないが、君の力を見込んで魔物退治を手伝ってほしい」
エルフの男が再度頭を下げてお願いしてきた。先ほどの光魔法を見てこちらの力量を悟ったのだろうか。元々ターニャに頼まれているから引き受けるつもりだ。
そう答えようとしたとき。
「大丈夫、すでに巡くんには頼んでいるから。巡くんに任せておけばすぐに終わるわ!」
なぜかターニャが自分のことのように無い胸を張る。
「そういうことだ」
「そうか、それでは頼む」
エルフの男は右手を差し伸べてきた。生憎だが俺には右手が無い。
動かない俺を見て、エルフの男はハッとなり謝罪しながら左手を差し伸べ変えた。
俺はそれに応えた。
「話が付いたみたいだし、まだフラついている者もいるだろうから私は戻るよ」
マリアンネはそう言い残していまだ動けない者のところへと向かった。
光魔法での回復は怪我を治すことはできるが、失われた血までは戻らない。軽度の怪我を負っていた者はすぐに動けるだろうが、重度の怪我を負っていた者はまだ動けないだろう。
「それでは今日は現状を確認し、戦える者を編成する。明日、戦いに参加してほしい。一気に攻めて一匹残らず殲滅する」
「分かった。明日だな」
昨日ターニャに頼まれたから今日にでも動こうかと思ったが、俺が一人で動いたとしても魔物を取り逃がすかもしれない。
後々を考えるのならできるだけ多く殺し、殲滅したほうがいいだろう。
そう考え、エルフの男の言葉に従った。
しかし、そうなると今日の予定がなくなってしまったな……。
お読みいただきありがとうございます。
キュア~~ってなるとプリキュアしか出てこないです。
みんなの心をつなぐ一筋の光! キュアサークル!