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異世界のコラプス  作者: のこ
1章 ダンジョン脱出
1/41

1話 これは転移であって転生ではない

 目を開けると、何もない空間が広がっていた。


「大丈夫ですか?」


 はて? 何もない空間のはずなのに声が聞こえる。


「こちらです」


 その声が聞こえた方向へと目を向けると、この世の者とは思えぬ美女がいた。


 髪は流れるようなストレートのブロンドで、布一枚では隠し切れないグラマラスなボディ。絹のように滑らかな肌は触り心地がよさそうだ。


 触ってもいいだろうか。


 いや触ろう。


 ゆっくりとその肌へと手を伸ばす。


 ……うん、滑らかだ。さらっさらしてる。ほのかな温かさがグッドである。


「あ、あの、よろしいですか?」


 美女は困惑しているが関係ない。


 次は二つの山を触ってみよう。きっと柔らかいんだろうなぁ。


 両手でその山を鷲掴みにした。


 ――こ、これはッ!! 今まで生きてきてこんなに気持ちのいい柔らかさは体験したことがない!! もっとだ! もっと!


「そろそろ放してくださらないかしら」


 俺が鼻息荒く美女の胸を揉んでいたら本人に止められてしまった。しょうがない。


 俺は名残惜しくも美女の胸から手を放した。


「他の方はこうはならなかったのですが」


 美女は慈愛に満ちた目をして少し困った顔で微笑んだ。とても神々しい。周りに何かこう、キラキラしたものが飛んでいるようにさえ見える。……いや飛んでいるな……。


 とりあえず美女が何か話したがっているみたいだ。ここは紳士として静かに聞こう。


「あ、よろしいみたいですね。それでは気を取り直して」


 美女はそう言って、コホンと一つ咳をした。そして深くお辞儀をした。


「この度は私の信者がご迷惑をおかけしました」


 そう言われても何も心当たりがない。一体何のことだろうか。


「戸惑われるのも分かります。端的に言いますと、私の信者があなたを殺めてしまったのです」


 な、なんだってー! ……でも俺ここに生きてるよ?


「いえ、あなたは少し前にバスの事故で死んでしまいました」


 ……そうなのか。あぁ、そうだった。思い出してきた。


 あれは雨の日だったから、バスに乗って学校に向かってたんだ。雨の日のいつも通り、途中で葉月が乗ってきてくだらない話で盛り上がって、そして――


「はい、その後バスが事故に遭いました。二十五人ほど乗っていたのですが、ほぼ全員死んでしまいました」


 ほぼ全員ってまさか葉月も……。


「あなたの幼馴染の葉月さんも亡くなられました」


 そ、そうか……。


「あまり気を落とさないでください。今回は私の信者がそちらの世界でご迷惑をおかけしてしまったので、私の権限でこちらの世界に転生できることになりました」


 こちらの世界だとかそちらの世界だとかなんだ? それに転生って。


「そちらの世界とは、あなたたちがいた地球の……地球は惑星の名前でしたね。世界の名前がないですね。よく考えたら私の世界にも名前がありませんね」


 美女があらあらと言いながら首をひねって頬に手を当てている。


「まぁいいです。とりあえず、私の世界のとある信者が、そちらの世界に転生したらしく、その信者が私の世界に戻ろうとしてあのバスの事故を起こしたみたいなのです。まったく、そんなことをしたからといってこちらに戻ってこられる訳ではないのですが……。そういうことがありまして、あの事故で亡くなった方全員をあなたたちのいた世界で転生させることはできないので、代わりにこちらの世界に転生させる運びになりました」


 なりましたって、なっちゃったのか。なっちまったのなら仕方ない。


「はい、なっちゃいました」


 俺の気持ちが戻ったためか、美女のノリがいい。


 というか今更だけど俺の考えてること分かるのな。


「それは分かりますよ。これでも神ですから」


 それも今更だけどやっぱり神なのか。


「神だから転生させられるんですよ」


 そりゃそうだ。


 あ、そうそう、転生させられる世界ってどんな感じなの?

 

「簡単に言えば剣と魔法の世界です」


 あー、ファンタジーな感じね、魔物がいて、ダンジョンがあって、ハゲの王様がいる。


「あなたが考えている通りでおおむね合っています、ハゲの王様はいませんが。それとこちらの世界ではギフトというものがあります。何か大きなことを成し遂げたときに私や他の神によって与えられるものです。ギフトがあれば魔法が使えなかった人も魔法が使えるようになったり、病弱な人でも武術の達人になれます」


 ほう、そんなすごいものがあるのか。


「はい。今回は転生する人全員にギフトを一つ与えることになっています」


 おぉ、それは願ったり叶ったりだ。それで俺のギフトって?


「あなたは……運魔法ですね」


 なんじゃそりゃ。


「運魔法とは、元素魔法の上位に存在する魔法でして、火、水、風、地の四大元素魔法に加え、光、闇魔法を内包しています。しかしどの魔法が使えるかは毎回何かしらの運要素の絡む媒体を使う必要があります」


 例えばサイコロとか?


「そうなります。人によって違いますが、そう思ったのならあなたの場合はサイコロになると思います」


 あらら、サイコロになっちゃったよ。それだったらイカサマのできそうなトランプとか考えとけばよかった。


「それとなのですが、その運魔法にはもう一つ問題点がありまして、例えばサイコロですと、サイコロを作るときどの目でどの魔法が発動するか決められるのですが、どれかの目に必ずデメリットを設置しないといけません。それが運魔法の法則なのです」


 それはなんというか、大変なものをもらってしまったな。デメリットで死んでしまうとかないだろうな?


「あ、大丈夫です。そこまでひどいデメリットを設置しなくても発動はするので。でも厳しいデメリットのほうが便利な魔法が使えます」


 便利な魔法ね。ハイリスクハイリターン、ローリスクローリターンか。


「そんな運魔法にもいいところがありますよ。MPの消費がサイコロを作る分だけなので少ない消費で済むのです」


 MPが存在するのか。ということはHPとか筋力とか敏捷とか、そういったステータスも存在するのかな? レベルまで存在してたりして。


「ありますよ。試しにステータスオープンって念じてみてください」


 マジかよ。ゲームみたいだな。ステータスオープンっと。


 ──

 名前:灰寺ハイデラ メグル

 レベル:1

 HP:63(63)

 MP:5(5)

 筋力:9

 耐久:7

 器用:12

 敏捷:10

 魔力:1

 幸運:5

 ギフト:運魔法

 ──


 幸運が5なんだけど、運魔法息してるか?


「確認できたみたいですね。簡単に説明しますと、名前はあなたの今の名前です。転生した後は転生先の親が決めます。そちらの世界ではレベルがなかったのでレベルは1ですね。魔物を倒したりしますと上がります。HPはヒットポイントです。これがなくなってしまうと死んでしまいます。筋力×耐久で決まります。MPはマジックポイントです。これを消費して魔法を使います。魔力×5で決まります。そちらの世界では魔法がなかったので最低値ですね。括弧内が最大値です。筋力、耐久、器用、敏捷、魔力、幸運はそれぞれ10が一般的な男性の平均です。筋力が腕力や脚力などの純粋な力です。耐久が頑強さや頑健さです。器用が手先の器用さです。敏捷が速く走ったりする素早さです。魔力はMP保有量と一度に使える魔法の規模です。幸運が運の良さです」


 なるほど、つまり俺は器用と敏捷だけは一般男性以上なのか。特に体を鍛えてたわけじゃないから他の数値は納得なんだけど、う~ん、幸運の低さが怖いな。


「大丈夫です。転生しましたらステータスは変わりますので心配ありません。今見ましたステータスはそちらの世界での肉体のステータスですので、転生した新しい体では異なります」


 それなら転生先の体に希望を託そう。


 そういえば、ステータス見て思ったけど、ギフトってもうもらってるのな。


「はい。どういったものなのか実際に使っていただいたほうが分かりやすいかと思いましたので」


 ステータスみたいに運魔法って念じたらできるのかね? ……できないね。サイコロ! 出ないね。


「運魔法はしっかりと媒体を想像して、サイコロですとどの目にどんな魔法を設置するか、デメリットは何かを決めます。設置した魔法はデメリットによって規模が変わります」


 魔法かぁ。どんなのがあるんだ?


「簡単なものですと元素名でファイアとかですね。その上が指向性を持たせたボール系です。さらにその上ですと速さや貫通力のあるアロー系ですね。光と闇は補助系の魔法ですのでライトで光を出して、キュアで傷を癒したり、ダークで辺りを暗く、シャドウで影を操ります。その他にもありますが、それは転生先で学んでください。あ、魔法名は被らないようにしてくださいね。でないと不発になりますから」


 なるほどなるほど。じゃあ元素名でダークは抜かしてデメリットは……どうしようか。髪の毛一本なくなるとか。


 そして六面体のサイコロを想像した。すると手の中に四角い何かを握り込んでいた。


「できたみたいですね」


 手を開いて確かめると、確かに一センチメートル四方のサイコロがあった。想像した通りなら一の目から順番にファイア、ウォータ、エア、アース、ライト、髪の毛一本分なはず。


 さて、見せてもらおうか、髪の毛一本分の魔法の威力とやらを。

 

 美女が気を利かせて机を出してくれた。


 適当に机の上にポイッとサイコロを転がした。


 何がでるかな、何がでるかな、フフフフンフンフフフフン。

 

 机の上を転がるサイコロは数回転したあと五の目で止まった。その瞬間、サイコロが消え、その位置から豆電球の光よりも小さい光が現れた。そして一秒して消えた。


 お、おぅ。まぁ髪の毛一本分なんてこんなもんか。幸運が低いから、もしかしたら一発目からデメリットの目になるかと思ったけどそうでもないな。


 あ、一応ステータスも確認しよう。


 ──

 名前:灰寺ハイデラ メグル

 レベル:1

 HP:63(63)

 MP:4(5)

 筋力:9

 耐久:7

 器用:12

 敏捷:10

 魔力:1

 幸運:5

 ギフト:運魔法

 ──


 MPが1減ってるな。これってどうなんだろうか。効率いいのか?


「あの程度の規模ですと、普通は発動しません。MPを一消費したのなら普通はもっと強く長く光ります」


 普通は発動しない規模の魔法が使えるっていいことなのだろうか。効率を考えるとデメリットをもっと厳しくしないといけないな。そうなるとちょっとした傷とかかな。ちょっとずつデメリットを厳しくして何回か試してみるか。


 その後数回サイコロを振って魔法の規模がどうなるか確かめていたが、ふと、俺のMPすでにゼロじゃね? と思ってステータスを確かめてみたら。


 ──

 名前:灰寺ハイデラ メグル

 レベル:1

 HP:63(63)

 MP:5(5)

 筋力:9

 耐久:7

 器用:12

 敏捷:10

 魔力:1

 幸運:5

 ギフト:運魔法

 ──


 なんか5に戻ってる。あれ?


「何度も試せるように回復させておきました」


 あぁ、なんだ。神様のおかげか。それじゃ遠慮なくもうちょっと試してみよう。次は記憶とかいってみるか。消したいような恥ずかしい記憶もあることだし。とりあえず三年前のリアル中二病だったころの台風の日に外に出て風の声を聴いていた記憶でもかけてみるか。それとライトじゃなくてダークも見ておこう。


 サイコロを出して振る。出たのは三の目。エアか。


 そう思った瞬間、突風がふいた。机が破壊され、俺は後ろに吹き飛ばされた。


 起き上がると、美女と机は何事もなかったようにそこに存在していた。


 どうやら修復してくれたようだ。俺のほうも痛みなどはない。


 エピソード記憶であの威力か。意味記憶と手続き記憶も気になるな。記憶という分類で一緒くたにされているかもしれない。それにしても、消したいような記憶でもあの威力なのか。大切な記憶だったらどんな威力になるんだろうか、試したいとは思わないが。とりあえず意味記憶と手続き記憶を試すか。意味記憶は惑星の名前でいいか。どうせ転生したら使わないだろうし。そういえば転生したら記憶ってどうなるんだ?


「転生後も記憶はそのままです」


 それならよかった。まぁそうだよな。記憶なくなるんだったら今やってること意味ないし。それじゃ改めて、惑星の名前をかけてサイコロ作るか。


 サイコロを出して振る。出た目は……六だ。


 あ、マジか。俺がいた惑星の名前が思い出せない。


 本当になくなっちまった。これも修復してくれないだろうか。


 チラっと神様を見るが、ニコッと微笑まれた。ダメみたいだ。まぁいいか。


 規模も見れてないし、もう一度意味記憶でサイコロ作るか。う~ん、もっといらないものがいいな。


 ……よし、小学生だったときに嫌いだった斎藤君の名前にしよう。それじゃサイコロ作ってポイッと。


 二が出てバシャっとコップ一杯分くらいの水が出た。こんなもんか。


 てかよくよく考えたら記憶の何が要因で規模が大きくなるか分からないんだからやるだけ無駄な気がしてきた。それを調べるのにどれだけ記憶をなくせばいいか分からんし。惑星の名前を無駄にしたな。


 とりあえず俺の中二記憶の規模はすごいってことで。そろそろいいか。


「確認は終わったようですね。それでは他の人への説明も終わったようですし、一度みなさんを集めます」


 なんで全員いっぺんに説明しなかったんだろう。ギフトの説明で他の人の迷惑になるからかな。それとも変に喧嘩になるとか。まぁ他の人がすごいギフトだったら羨ましいしな。実際俺の運魔法ってどうなんだろう。自分では微妙すぎるんだが。


 少しすると突然周りにいろんな年齢の男女が現れた。


 みんなそれぞれ表情が違った。納得している者、怒っている者、喜んでいる者、泣いている者。そして俺の隣にいる葉月は、笑っていた。


「あ、巡」


 笑ってはいるが、泣いたような跡がある。


「葉月、大丈夫か?」


「はは、……ちょっとダメかも」


 葉月は笑っていた顔を力なく歪めた。


 そりゃ確かに親や友達にもう会えないもんな。そう考えると俺もなんだか悲しくなってくる。さっきまでは転生やらなんやらで興奮してたけど、もうあの世界では生きられないんだよな。


「あっちに行ったら必ず会いに行く。だから心配すんな」


 今の俺にはこんなことしか言えない。


「ふふっ、うん、わかった」


 さっきまで泣きそうな顔だったが、少しだけ笑顔が戻った。


「そうだ、同じ親から生まれたらわざわざそんなことしなくても一緒だ。神様に頼んでみよう」


「それは嫌だな」


 葉月は考えるような仕草をしてそう言った。


「え?」


 まさか拒否されるなんて。


「そうじゃなくて。そうしたら、け、結婚できないでしょ」


 葉月は手を振って慌ててそう付け足した。


「そ、そっか……それじゃあ近くで生まれるように頼んでみよう。それならいいだろ?」


「……うん」


 お互いに顔が赤くなっている、と思う。


「あ、そういえば、葉月のギフトはなんだった? 俺のは運魔法って言ってさ、いろんな魔法が使えるんだ」


 俺は気恥ずかしさに耐えられず話題を変えた。


 デメリットはどうせ転生するし今すぐあっちの世界に行くでいいか。一から順にファイア、ウォータ、エア、アース、ライト、そして六の目にデメリットをセットしてサイコロを出す。


 どんな規模の魔法になるか分からないし、離れたところに投げよう。用心して誰もいない方向へ勢いよく投げた。


 さて、どの目が出るかな?


 サイコロが遠くに落ちて転がっているのが見える。小さいから何が出たか見えないな。魔法が出てからのお楽しみってか。


 そう考えているとサイコロが止まったようだ。そして――視界が急にぶれた。


 最後に聞いたのは葉月が俺の名を叫んだ声だった。

お読みいただきありがとうございます。

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