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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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沙汰

「……分かりました」


 暫く目を閉じて考えに耽っていたアマテラスはやがて何かを決心したのか目を開け、コウを見つめる。

 その視線にコウは黙って応じ、他の天津神達は一斉に静かになった。


「アラハバキ、あなたの咎は逃げようとした際に追ってきた天津神達を倒したことにあります。ですが、その原因となったのが我が弟、スサノヲにあるというのであれば私はあなたに謝らねばなりません。……申し訳ありませんでした。それ以外の咎については私は責めません」


 アマテラスはその場でコウに対して頭を下げる。

 その行動に天津神達はざわついた。

 高天原の主宰神ともあろう者がまだ高天原に来てから日も浅い国津神に頭を下げる……これは異例なことであった。


「お、おい姉上!」


「静かにしなさい、スサノヲ。立場があるとはいえ此度はあなたが悪い。タケミカヅチやツクヨミの言い分が正しいです。……ですが、あなたの言い分もまた一理あります。このままお咎めなしとなれば皆も不安になりますでしょう。何より、これから高天原に在するアラハバキも肩身の狭い思いをするでしょう。ですから、ここはツクヨミの意見を取り入れて、アラハバキを万神に任命します。よろしいですか?」


「俺は構わない。一度は逃げたが、今度はもう逃げない……好きなようにしてくれ」


「……分かりました。では、アラハバキ。あとで神殿の中で会いましょう。……では今朝のこの件はこれまでとし、今日も各々務めに励んで下さい」


 アマテラスはそう言うと神殿の中へと入り、姿を消していった。

 スサノヲも苦々しくコウを睨みつけながら、アマテラスの後に続いていく。


「さて、じゃあボクもこの辺で……アラハバキ、あとから通りの裏に来てくれないか?」


「あぁ。……世話になったな」


「なに言ってんの……大変なのはこれからだよ。それじゃあ」


 ツクヨミもそう言って、その場を離れる。

 三貴子の姿が完全に見えなくなった時……場の空気はようやく張り詰めたものから柔らかいものへと変わった。


「……ふぅ、三貴子の方々がお見えになった時はどうなるかと思いましたが……なにはともあれ無事で良かったですな! アラハバキ殿」


 溜め込んでいた空気を一気に吐くように溜め息をした後、シオツチはコウの縄を解き始めた。


「すまないな、シオツチ。タケミカヅチ、オモイカネもありがとう。アンタ達もすまなかったな」


「いえ、そもそも私が原因でこんなことになってしまいましたから……あ、そういえばまだ名乗っていませんでしたね。ナキサワメと申します」


「いやいや、そもそもはスサノヲ様が悪いんでしょう。あっ、あたしはアメノウズメだよ~。よろしくね」


「あぁ」


「しかし、アラハバキ殿。貴殿がツクヨミ様と知り合っていたなんて驚いたぞ」


「僕もだよ。高天原に来てまだ二日しか経っていないのに……」


「それは俺も驚いた。まさか三貴子の一柱だとはな……」


 ようやく縄から解放されたコウはゆっくりと立ち上がる。

 取り敢えず、助かったは良いもののはぐれたネネを探さなければならない。


「すまない。本当はゆっくりと礼を言いたいんだが用事がある」


「あぁ。ツクヨミ様に呼び出されたんだっけ? それなら早く行かないとね」


「確かに……今度また三貴子相手に失礼なことをしたらタダじゃ済まないだろうからね。それじゃあ、アラハバキ。また……」


 そう言うと、タケミカヅチとオモイカネ、ナキサワメとアメノウズメは揃ってその場を去って行った。

 残ったシオツチはコウと真正面から対する。


「それでは、儂もそろそろワタツミ様の元に報告も兼ねて戻りますかな」


「シオツチ……色々とすまなかったな。俺と一緒にいるのはさぞ大変だっただろう?」


「いいえ。逆にこの老いぼれが様々な所に赴くことが出来て楽しかったですぞ。やはり年を取ると独りで旅をするのは辛いものがありましたからな……お陰で若い内に出来なかったことをさせて頂き、感謝しております」


 恐らく、ずっとワタツミに仕えていたのだろう。

 コウはシオツチの言葉を聞く度にそう思わずにいられなかった。


「あなたはあなた自身を務めの無い神だと恥じているように思えますが、儂から見れば羨ましい限りですぞ? 若い内は色々なことを見聞きし、経験するのが一番ですからな。年を取ってからではしたいことも出来ますまい。ですから、どんなことであっても自分のしたいことを思うがままにして下さい。それが後のあなたの助けになるでしょう。芸とは身を助けるものですからな……それに案ずることはありません。世の中には後に大成する方だっていらっしゃるのです」


 シオツチはそう言うと軽く頭を下げた。


「あなたの目的は暗く虚ろなもの……無論、それを止めるなど儂はしませんが今のあなたならまだ道を変えることだって出来る。その分岐となるのがここ高天原でしょう。……もう一度、よくお考え下さい。あなたなら真の進むべき道を見出すことが出来る筈ですぞ。では……またいずれ会いましょう。息災に……コウ殿」


 コウの真名を呟き、シオツチは背を向けて歩き始める。


「……ありがとう、シオツチ。その教え、俺の心に刻んでおく」


 コウはシオツチに向かって呟くとその背が見えなくなるまでその場で頭を下げ続けた。

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