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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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三貴子集結

「ふざけんなッ!」


 アマテラスを始め、他の天津神達が見惚れている中……スサノヲだけが納得がいかないかのように声を荒げる。


「昼の責はともかく! コイツはあろうことか逃げようとしたうえに多くの天津神を倒しているんだぜ。そんな危ない奴を放っておける訳ねぇだろうが!」


 自身のことを棚に上げて話すスサノヲ。

 だが、彼の言うことも最もであった。

 コウが夜に逃げたこと、天津神達を倒していることは事実……そのことを指摘されたオモイカネ達は悔しそうに唇を噛む。

 それに関しては弁解の余地が彼らには無い。

 アマテラスは静かにスサノヲの意見も聞き、少し思案した後……彼を宥めた。


「でも、何か事情があったかも知れません。それに今はこう大人しくしているのですから…………昨夜のこと、何かあったのではありませんか?」


 優しくコウに向かって尋ねるアマテラス。

 しかし、コウは固く口を閉ざしたまま何も語ろうとしない。


「ほら、見ろ! やっぱり、やましいことがあるから何も言えねぇんじゃねぇか! 姉上、やっぱりコイツは殺―――」


「やましいことを自分でしておいて、よくもまぁそう口が達者でいられるなぁ」


「あん? …………ッ!?」


 突如言葉を遮り、馬鹿にする声が辺りへ響き渡る。

 その声に対してスサノヲは反射的に喧嘩腰となるが、その主の姿を見せた途端……信じられないものを見たかのような表情となる。

 いや、スサノヲだけでは無い。

 他の天津神達やアマテラスさえも驚いている。

 コウも同様だ。


「身内として恥ずかしい限りだよ」


「ツクヨミ!? お前……どうしてここに!?」


「やぁ、昨夜振りだね。アラハバキ」


 その場に現われたのはツクヨミであった。

 コウはその姿を見て驚くが、彼以上に驚いていたのは周りの者達であった。


「ツクヨミ様と知り合いだなんて……」


「昨日来たばかりの国津神だぞ!?」


「ア、アラハバキ殿。ツクヨミ様をご存知なのですか!?」


 驚きのあまり言葉が途切れるシオツチに向かってコウは頷く。


「あぁ。昨夜知り合った。ところで、どうしてそんなに驚いている?」


「い、いや……ツクヨミ様は滅多に姿をお見せになられなくてな……しかもこんな朝早くからなど、我々天津神も初めて見る」


「そうなのか?」


「それにツクヨミ様は……スサノヲ様の兄君でありアマテラス様の弟君なんだ……」


「ほぅ……ん?」


 ツクヨミが女であることを唯一知るコウは違和感を覚えるが、それ以上にオモイカネの言葉の意味にある疑問を持ち、彼に尋ねる。


「ちょっと待て。兄君であり弟君ってことは……」


「そう。ツクヨミ様も三貴子であり、この高天原でアマテラス様に次ぐ全ての権限を持つお方だよ」


 三貴子……最も貴いと称される神々。その三柱がこの場にいる。

 特別な時以外でこの三柱が集まる所を天津神達は見たことが無い。

 それがまさか、たった一柱の国津神の行末を決める為だけに揃ったのだ。

 これは異常と言わざる負えない。


「……あなたがこんな所に来るなんて珍しいですね。ツクヨミ」


「まぁ、姉様はボクの顔なんて見たくないとは思うけど……だけど、今回はボクの落ち度が引き起こした事態。故にこの場に参上した」


「落ち度?」


 訝しむスサノヲに対してツクヨミは不敵な笑みを浮かべる。


「彼の脱走の件さ。実は噂の国津神がどれほどのものか試してみたくてね。彼を解き放って、天津神達を差し向けたのさ」


「なっ! おい、ツクヨミ!」


 事実無根の話しを急にされたコウはツクヨミを止めるも彼女は片目を一瞬だけ開閉して応える。

 任せろ、ということなのだろう。


「あぁ、もう気にしなくていいよ。キミには他言しないように言ったけど、こうなったら仕方がないからね」


 しかもあろうことか、コウの発言と態度を利用して工作している。

 コウは諦めたかのように口を閉じた。


「……なぜそんなことを?」


 アマテラスはもうその話しを信じてしまっているのか先を促す。


「スサノヲをも殴る勇猛さ、そしてそれに違わぬ実力……それを確かめたかったのさ。もし、それらがまことならば姉様専属の従神になってもらいたいと思ってね」


 ツクヨミの言葉を聞いたアマテラスとスサノヲは驚き、天津神達はあまりの内容に騒ぎ始める。

 だが、誰よりもその内容に驚いたのはコウであった。

 ツクヨミの話しがその場を取り繕ったものだとしても、それは過大なものであったからだ。


「待て、ツクヨミ! そんな話しは聞いていないぞ!?」


「だから言ったでしょ? “試した”って……こっちの思惑をキミに伝えたら素のキミを見れないじゃないか」


「待てよ、兄上! たとえ兄上が試したとしてもコイツは天津神達を倒して―――」


「黙れ、愚弟。お前がとやかく言う筋合いなんて無いんだよ。これはボクが決めたことだ」


 コウに話す時とは対称的にスサノヲには冷たく言い放つツクヨミ。

 その目には明らかに怒りの炎が宿っている。


「……最終的に決めるのは私ですが……でも、確かにスサノヲの言う通りです。その者は天津神達を倒した……それにそんなことを勝手にやったあなたにも多少の不満がありますが?」


「やったのは夜だ。夜はボクが治める世界……いくら高天原の主宰神とはいえ、夜のことまでは干渉出来ない筈だけど?」


 ツクヨミの反論にアマテラスは何も言い返せず、無言で応えた。

 それを見たツクヨミは頭を掻きながら僅かに顔を俯かせて言葉を続ける。


「……確かに、姉様が暴力や争いが嫌いなのは分かる。スサノヲに手を出したアラハバキを傍に置きたくないということも……でも、彼は手を出さざる負えなかった。そうしなければ姉様が一番悲しむことが起こっていたからだ。それはこのタケミカヅチ達も申し上げた通りさ。それに、今この高天原と中つ国とでは天津神と国津神の戦が起こっている。もし、万が一にも国津神がここまで攻めてきた時……その時に必要なのは天津神ではなく信用出来る者だ。……昨夜、ボクも彼と刃を交えてようやく確信した。このような神が必要だと……だからお願いだ。ボクの要求を呑んで欲しい。無論、スサノヲを殴ったことや天津神達を倒した償いの方法については既に考えてある」


「……一体、なんですか?」


「それは……彼に姉様の従神となってもらうことの他に天津神達の要望に応える万神よろずがみになってもらおうと思っている」


「万神?」


 ツクヨミの言葉に今度はコウが尋ねた。


「万神というのは神々の要望を聞き、解決する神のことさ。アラハバキには償いとして神々の要望を聞き、それを解決してもらう。依頼した神はアラハバキに何らかの報酬を与え、アラハバキはその報酬の一部を姉様に献上する。……そういうのはどうだろう? キミは実力も勇猛さもある。それに中つ国で得た知識を生かせば解決出来ないことは無いと思うんだけど?」


 ツクヨミの考えた案に天津神達は各々感心したように頷く。

 そんな中、アマテラスは沙汰を下す為に目を閉じて考えに耽っていた。



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