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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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蝕む御魂

 ツクヨミの思いついた手は矛を手元まで引き寄せコウより先に回収し、その直後にコウを排斥する力により吹き飛ばすというものであった。

 危うい賭けだが、もはや動くことすらままならないコウ相手に早く得物を回収するなど造作も無い。

 それを見越しての考えであった。

 矛はもう目の前………ツクヨミはそれに手を伸ばし、穂先を掴んだ。

 同時に矛に紡糸を巻きつけたコウは柄を掴む。

 己の手が血で汚れることも厭わないまま、ツクヨミは刃の穂先を掴んだ手に力を入れる。

 そして、そのまま手前まで引き寄せると代わりに空いているもう片方の手をコウへと翳し、神力を放った。


「来るなぁ!」


 排斥する強力な力が衝撃となりコウへと襲い掛かる。

 コウはそれに耐えるかのように柄に力を入れるも、手の力なのか衝撃によるものなのか矛の柄は耐えきれずに折れてしまい、彼は後方へと強く吹き飛ばされてしまった。


「ぐあぁ!」


 身体を何度も地面に打ち付けて倒れるコウ。

 その手には柄の折れ端を持っている。


「はぁ……はぁ……」


 何とか矛を奪われずに済んだツクヨミであったが、身体の傷よりも心労による疲れなのか息が乱れていた。

 あまり慣れていない実戦……それは深手以外で心に重くのしかかる。


「終わった……か?」


 倒れてから未だ動かないコウを見てツクヨミは呟く。

 あれだけの傷を負い、攻撃を受けたのだからもう気を失っていてもおかしくは無い。

 だが、そんな予想に反してコウはゆっくりと立ち上がった。


「まさか……」


 もはやツクヨミは絶句するしかない。

 普通ならもう死んでいてもおかしくは無いし、強者ならば意識はあれども立ち上がる気力は無い筈だ。

 それでもまだ立ち上がるのは執念によるものか、それとも荒御魂による力なのか。

 けれども、立ち上がったコウはどこかおかしな様子であった。

 今までの態度とは裏腹に顔は引き攣り、手足が震えている。


「う……うぅ……!」


 ついには両膝を地面に付き、頭を押さえて呻き始める。

 コウに何らかの異変が起きているのは明らかであった。


「一体、何が……?」


 それを見ていたツクヨミはその異様な事態に攻めることも忘れて、様子を伺う。

 そんなツクヨミとは対称的にコウはある危機に直面していた。


(マズイ……呑まれる!)


 荒御魂を使い過ぎると理性を失い、獣になる……それはすなわち自我を失うということだ。

 だからコウは今まで荒御魂を使う時は短期で決着をつける時にしか使わなかった。

 しかし、今回は相手との相性が悪かった為か思ったよりも決着がつかない。

 時が経つにつれて、コウの心が次第に怒りや憎しみといった感情に蝕まれていく。

 それに呼応するかのように蒼眼の輝きも煌めきから怪しげな眼光へと変わっていった。

 自身でも分かる。

 眼が震え、目つきが鋭くなっていくことが分かる。

 いつもなら自身の強い心で抑え込むことが出来るが、今は深い傷を負っている為か集中することが出来ない。

 そうした中、コウの意識は深い闇の中へ沈み始める。


「うあぁぁぁーッ!」


 頭を抱えながら突如叫ぶコウにツクヨミは思わず身構える。

 そして、力なく両手を垂れ下げたコウは顔を下げるがやがてすぐに顔を上げた。

 その眼にはギラついた光が宿っている。

 それを見てツクヨミは息を呑んだ。

 今まで対峙していた者とは何かが違う……そう感じた途端に目の前にいたコウは突如その場から姿を消す。


「させない!」


 ツクヨミは咄嗟に排斥する力を自身を中心に放つ。

 すると、案の定……放たれた強い衝撃はツクヨミの眼前で襲い掛かろうとするコウを捉えた。

 空気の圧力がツクヨミを守るかのようにコウを押し出す。

 だが、今回ばかりは少し違った。


「はあぁぁぁーッ!」


 コウの叫び声と共に突然、彼を押し出していた排斥の力が無風になるかの如く掻き消える。

 そして、コウは拳をツクヨミの胸元目掛けて殴りつけた。


「なっ……ガハッ!?」


 殴り飛ばされるまではいかなかったものの、強く殴られたことによりツクヨミは大きく息を吐き出しながら持っていた矛を手放し、その場でうずくまってしまう。

 何がなんだか分からず、ツクヨミがコウを見ると彼の拳の中には何かが握られている。

 先程、ツクヨミに吹き飛ばされた際に奪い取った矛の柄の折れ端だ。


(やはり……ボクの神気が残っている柄を……利用されたか……)


 危惧した通り、コウはツクヨミの神気を利用し排斥の盾を突破してきた。

 だが、それは恐れていたこととはいえ予想していたことだ。

 けれども今、ツクヨミは別の予想していなかったことに直面している。


「…………キミは……本当にアラハバキ……なのか?」


 まるで、全てが一変したかのような目の前の者にツクヨミは問い掛けた。

 コウは何も言わずに落ちていた矛を奪うとそれをツクヨミに突きつける。

 その眼にはいつの間にか蒼色の他に紅色の輝きも混じっていた。


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