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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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聖と邪の力

 コウから湧き出た神気はツクヨミが覆った神気をいとも容易く覆し、場の空気を元へ戻す。

 その神気を受けたツクヨミはあまりの禍々しさに思わず、持っていた矛を振って神気を祓う。

 すぐさまコウの神気は振り祓われたものの、まともに受けたツクヨミは心の鼓動が激しく鳴っていた。

 理性によって生まれる威圧の恐怖とは違い、ツクヨミが感じたのは野生が持っている本能による恐怖……初めてそんな恐怖を感じたツクヨミは何がなんだか分からずにコウを見る。

 そして、彼の姿に驚愕した。

 コウの素肌には魚鱗が鎧のように纏われ、両の腕には魚の鰭らしきものが付いている。その上、彼の背から下へは何かが伸びている……魚の尾だ。


「魚の……尾?」


 そう疑問に思ったツクヨミであったが、その直後にコウの姿が消えたことにより反射的に両手を合わせる。

 目に見えない強い衝撃がツクヨミを中心に一気に放たれ、石や木の葉、河の流れすら親の言うことを聞いた子供のように退いていく。

 そんな中、コウはツクヨミの目の前……あと一歩という所で衝撃を受け、止まっていた。


「くっ……っ!」


(いつの間に!?)


 衝撃を受けたコウは暫くして吹き飛ばされたが、その行動はツクヨミを大いに驚かせた。

 今は無意識のまま両手を合わせて排斥の力を使ったが、もう少し遅れていたらどうなっていたか分からない。

 ツクヨミの背に冷たいものが走る。

 同時に吹き飛ばされていたコウは魚の尾を巧みに使い、身体を止めた。

 ―――先に仕掛けるしかない。

 優位な筈のツクヨミは数々の嫌な予感を受け、矛を後ろに引いて大きく構える。

 そうして自身の神気を矛に纏わせ、神力を宿らせた。


「させるか!」


 対するコウは傍にある河に向かって紡糸を放ち、糸を通して自身の身体を水で濡らす。

 その行動に何かを感じたツクヨミは素早く、矛を横薙ぎに振った。

 すると、矛から強い衝撃が放たれ、目に見えない巨大な波となってコウに向かう。

 河原の地面や石は全てひっくり返されるように巻き上げられ、半ば土の津波と化している。

 コウはそれを見て、自身の折れた太刀を強く握り直し、ツクヨミと同じく神気を纏わせた。

 神気を纏った太刀の折れた部分からは無数の細かい紡糸が出ている。

 そんな太刀を握ったコウは瞬時に河の浅瀬に移動し、折れた部分を水に浸す。

 そして、そのまま土砂の津波目掛けて思いっきり太刀を振った。

 その途端、太刀の折れた部分と河の水が繋がり、巨大な水の剣となって土砂の津波を衝撃ごと断ち斬った。


「なっ!」


 これには流石のツクヨミも声が出なくなる。

 水の剣は土砂の津波を斬ると再び河の水として戻っていったが、その間にコウの姿はツクヨミの前から消えていた。


「今度はどこに…………!」


 辺りを見渡すツクヨミであったが直後に殺気立った気配を背後に感じ、すぐに振り返った。

 そこには背後に回り込んだばかりと思われるコウが手を翳していた。


「受けてみろ!」


 コウは自身の腕から魚鱗を吹雪の如く、ツクヨミへ放つ。

 ツクヨミは咄嗟に自身の周りに残っていた石を浮かせて集め、即席の盾を作り出すと辛くも魚鱗を防いだ。


「チッ……ならば、これはどうだ!」


 魚鱗は防がれたものの石の盾の強度が即席故に弱いことを見破ったコウはまだ自身の身体に付いている残り僅かな水滴を紡技で集め、掌に玉として作り出した後にそれを勢い良く放った。

 水の玉は脆い石の盾を砕き、ツクヨミへと命中する。


「ぐあっ!」


 ツクヨミはそれを受けて吹き飛ばされる。

 コウは息も絶え絶えになりながらも両足に力を込め、留まる。

 いつもならすぐに追撃に移る所だが、荒御魂を解放してもツクヨミから受けた傷は深く、上手く身体が使えない。

 そんな中、吹き飛ばされて倒れていたツクヨミは立ち上がると矛を自身の肩ほどの高さまで上げて構える。


「……ッ、はあぁぁぁ!!」


 ツクヨミは上げた矛を後ろに引いてコウ目掛けて投げつけた。

 そして、両手を合わせて排斥する力と共に投げた矛を後押しする。

 強い衝撃で押された矛は一気に加速し、コウの目にも止まらない速さで彼の脇腹を貫いた。


「ぐ、ぐがあぁぁぁーッ!!」


 魚鱗の鎧を砕き、脇腹を貫かれたコウはその場にうずくまる。

 矛は彼の後ろにあった岩に突き刺さった。


「……さて、これで最後だ」


 ツクヨミはそう言うと手を翳す。

 恐らく今度は引き寄せる力で後ろから矛で貫く気だろう。

 コウの背後で矛が岩から抜ける音が聞こえる。

 だが、今の彼にツクヨミまで行ける力は無い。

 コウはゆっくり息を吸ってから目を閉じ、静かに息を吐く。


(諦めたか……)


 ツクヨミはそれを見て、抜いた矛をコウを通るようにして自身へ引き寄せた。

 抜けた矛が回転し、コウの背目掛けて襲い掛かる。

 けれども、当たると思われたその寸前……コウは目をカッと開き、横へ身体を倒した。

 矛はコウの身体を擦るようにして通り過ぎる。


「なっ……なんだって!?」


 ツクヨミは驚きの声を上げるが、すぐに考えを巡らす。


(いや、待て……避けられたとしても再び戻ってきた矛を投げつければ…………!)


 冷静に次の手を決めたツクヨミであったが、コウはその考えを早くも壊すような行動を取る。

 避けた直前に矛目掛けて紡糸を放ったのだ。

 矛は紡糸に絡まり、回転を止める。

 けれど、引き寄せる力により主の元へ帰ることは止められない。するとどうなるか?

 矛は自らの動きを止めに掛かったコウごと連れてツクヨミの元へ向かう。


「なにッ!?」


 このままでは矛と共にコウがツクヨミの元へ来てしまう。

 かと言って、引き寄せるのを止めたら矛をコウに奪われてしまう。

 矛にはまだツクヨミの神気が纏っていた。

 神には自身の気や力を込められたものを自身の一部として抵抗なく受け入れる性質がある。

 つまり、排斥する力こそは宿っていないものの、もし矛がコウの手に渡ったら矛に纏っている神気でツクヨミの神力を相殺することが出来るのだ。

 それだけは何としても避けたい。

 矛とコウが迫る中、ツクヨミは頭に浮かぶ幾つもの考えを駆け巡らせ、最善手を模索する。

 そうして思案した後、一つの手を思いついたツクヨミは覚悟を決めてコウに真っ向から対峙した。

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