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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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天安河会議

 コウが高天原の“まち”を駆け回っている頃、天安河では神々が集まり、彼の処遇を決めていた。

 誰の目から見てもコウの言動が悪いとは言えない、しかし手を出した相手が悪かった為彼の処分は未だに決まらずにいた。


「お願い致します! アラハバキの咎をどうかお許し下さい!」


 シオツチは河原にて大勢の天津神達に頭を下げる。

 このままでは……コウが死をもって償うのは必須。

 シオツチは己が命を賭す覚悟で嘆願する。

 そんな中、彼の傍に控えていたタケミカヅチが徐に口を開いた。


「……此度の件については私がその場にいたにも関わらず、このような事態を招いてしまった。よって、この件はアラハバキ殿の非にあらず、非はこのタケミカヅチにある。……どうか今回のこと、皆々様目を瞑ってはもらえないだろうか?」


 手を地面につき、頭を下げるタケミカヅチを見てシオツチや天津神達は驚く。

 高天原では名の知れた武神がこのような態度に出るなど思ってもいなかったからだ。


「タケミカヅチ殿……」


「シオツチ殿、すまなかった……本当ならあの時、私が真っ先にスサノヲ様を止めていれば良かったのだ。もし、アラハバキ殿が止めていなければあの女神は無惨に殺されていただろう。そうなったらアマテラス様は大層悲しまれる……スサノヲ様に手を出したのは確かに悪いが、結果こうして誰も死なずに済んだのだ。それだけでもありがたい。もしも私がスサノヲ様を殴るとしたら……あの女神が殺された直後だ。それをアラハバキ殿は先にやってくれたに過ぎない……あの者が責められる道理は無いのだ」


 静かに語るタケミカヅチの言葉を聞いた神々は無駄に騒ぎ立てるのを止め、今一度冷静に話し合いを始める。

 そんな中、シオツチとタケミカヅチの隣にもう一柱の天津神がやってきた。


「そのアラハバキなる神の咎、このオモイカネからもお許し願います」


「オモイカネ殿……」


 そこに来たのはコウ達が神州ヶ原で出会ったあのオモイカネであった。

 彼は高天原一の知恵者としてこの場に呼ばれていたのだ。


「私は昼間、神州ヶ原で危ない所をそのアラハバキに救って頂きました。皆様のお話しに出てくるスサノヲ様に無礼を働いた現場には居合わせませんでしたが……少なくとも安易に軽率な行動をする者では無いと見ました。それに捕まった際も抵抗をしなかった所を聞くと償う気持ちは十分にあるのでは無いかと思われます。……どうか今一度よくお考えのうえ寛大な処置をお願いします」


 またもや有力な神の助命嘆願により周囲がざわつきを起こす中、シオツチはオモイカネにそっと礼を述べる。


「ありがとうございます。オモイカネ殿」


「いえ、私は何も……それにしてもシオツチ殿、大変なことになりましたね」


「いやはや、全くです。アラハバキ殿は真っ直ぐ過ぎる故に赤子より目が離せませんからなぁ……ですが、お二方のお陰で何とか命だけは助かりそうです。ありがとうございます」


「……だが、未だにアラハバキが不利なのは明らかだ。ここでもうひと押し、何かがあれば……」


 安堵するシオツチにまだ油断がならないことを伝えるタケミカヅチ。

 その言葉にはオモイカネも頷いた。


「そうですね……まだ安心は出来ません。せめて、アラハバキに助けられたという件の女神が来てくれれば……」


 これからを懸念して今ここでの最善策を口に出すオモイカネだったが、その言葉が届いたのか突如一柱の女神が声を上げた。


「はいはい、皆ぁ注目! ここはさぁ、そのアラハバキに助けられた子にも聞いてみたら?」


 そう言いながら皆の前に躍り出てきた女神は着崩れた神衣を身に纏い、腕や首に綺麗な御統みすまるを付け、髪に枝葉の髻華うずを挿し、妖艶な雰囲気を醸し出している。

 そのあまりの姿にタケミカヅチやオモイカネを始めとした天津神の男達は目のやり場に困って視線を逸らす。

 そんな中、高齢のシオツチは意にも介さずその女神へ尋ねた。


「聞いてみたら……申しますとあなたはその女神とお知り合いなのですか? 鈿女ウズメ殿」


 ウズメこと天鈿女アメノウズメ……彼女もまた高天原では名の知れた神である。

 あらゆる芸能に精通し、楽しいことが大好きで自ら祭事を起こしたりしている女神だ。

 そんなウズメはシオツチの言葉に頷いた。


「うん! あたしもたまたまその場に居合わせたから分かるんだけど彼が助けたあの子の名前は泣沢女ナキサワメ……あたしとは友達だよ! だからさ、その子にも聞いてみたらどうかな? だって彼女は被害者なんだからあたし達があーだこーだと言っても仕方ないでしょ? ここはアラハバキとスサノヲ様が揉めた当事者に来てもらわないと……ナキサワメちゃんの意見をアマテラス様にそのまま伝えた方が一番だと思うけどなぁ~」


 ウズメの言うことにも一理あると考えた天津神達は互いに頷き合う。

 見た目は派手でも情に厚い……姐御肌のウズメの言葉には説得力があった。


「それに~……あたし、ああいう強い男って好きなのよねぇ~」


 恍惚な目でそう語るウズメに周囲は静まり返る。

 それを見たウズメはしれっと答えた。


「あ、今皆……あたしが惚れたからあの国津神を助けたいんだ! って思ったでしょ? そりゃあね、もしあたしが決めて良いならとっくに無罪放免にしてるわよ」


 その発言に周囲からは「やっぱりか!」「今の話しは無しだ!」と声が上がるも彼女は臆せずに言い放った。


「でも、そう出来ないってことはあたしにも分かっている。だからナキサワメちゃんに来てもらうって言ったじゃない。だから明日まで待って、ね?」


 ウズメはそう言うも天津神達の騒ぎは収まらない。

 その収拾のつかない様子にタケミカヅチは頭を悩ませるが、そんな中……突然一柱の天津神が息を乱しながら会議の場にやって来た。


「た、大変です!」


「どうした? そんなに慌てて……」


 ただならぬ様子に天津神達は静まり返る。

 それを見て駆けて来た天津神はタケミカヅチへ報告した。


「かの国津神……アラハバキが天香具山を脱しました!」


「な、なんだと!?」


 タケミカヅチは急な事態に言葉を失う。

 ―――大人しく捕まったのに、この期に及んでなぜ?

 そんな疑問が頭の中を駆け巡る。


「しかもアラハバキは見張りの神二柱を倒し、そのまま高天原の“まち”へ侵入……その直後に五柱の神がアラハバキを囲むも瞬く間に打ち倒されました! 現在は小道や裏道に入り込み、その都度神々が交戦しておりますが……誰も止めることが出来ません!」


「……誰か死んだ者はいるか?」


「いえ……何を思っているかは知りませんが、アラハバキは武器を手に持たず素手で打ち倒しています。その為、死者は出ていませんが代わりに倒された者が……」


「多いのか?」


「……始めに話した七名を含め、現在二十の神々が倒されています」


 それを聞いた天津神達は驚きの声を上げ、その場を溢れさせた。


「二十!?」


「たった一柱でか!?」


「ひゅう~! 強ぉ~い!」


 騒ぎ立てる神々の中でウズメだけが口笛を吹き、なぜか喜んでいる。

 そんな神々達を尻目にタケミカヅチは即座に伝令の天津神に伝えた。


「……分かった、私が行こう。皆にはあまりアラハバキと戦わないように伝えてくれ」


(……アラハバキ殿、一体何を考えているのだ! もう少しで全てが収まりそうだったのに!)


 心の中でコウに苦言を吐いたタケミカヅチは戦うことを覚悟しながらその場を離れる。

 だが、この時……この場にいる者はおろかカグツチを追っているコウでさえ気付かないことがあった。

 それは―――


「……はぁ~、一体誰なのさ。こんな静かな夜に暴れて…………夜はボクが治める世界。その世界で暴れるということはボクに刃を向けることと同じこと……その意味が分かるよね?」


 もう一柱……強大な力を持つ者が胎動し始めていることに……。

 そして、目を付けられている本人はまだそのことを知らずに高天原の“まち”を駆け回っていた。




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