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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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脱走

「止まれ! 止まらんと斬るぞ!」


 二柱の天津神は剣を向けながらそう叫ぶもコウにそんな脅しは通用しない。

 彼は走る足を止めず、代わりに手に持っていた太刀を天津神達目掛けて投げつけた。

 剣は持つことによって初めて武器となる……そう教えられてきた天津神達にとって彼のとった行動は予想に反したものだった。


「うわッ!?」


 空を斬りながら先に迫って来る太刀に対して驚き、思わず二柱の天津神は避けようと身を屈めてしまう。

 けれども、飛んできた太刀は彼らに当たる寸前に消えてしまった。

 その代わり、太刀の後に続いてきたコウが足を突き出して飛んできた。


「どりゃあ!!」


「ごふっ!?」


 勢い良く跳躍してからの蹴りを受け、天津神達の内一柱が強く突き飛ばされる。

 そうして、先程までその天津神がいた場所にコウが納まった。


「この―――ぐふッ!?」


 それを目の前で見ていた残りの天津神は持っている剣でコウを斬ろうとするも怯んだ状態からの対応が遅かった為、顔を殴られて地面に倒れ込む。

 二柱の天津神達はそれぞれ気を失い、立ち上がる様子は無い。

 それを袖の中から見ていたネネは感嘆の声を上げた。


「おぉ~! 見事な手際ですね! でもどうして太刀を使わなかったんです?」


「逃げ出したことに加え、斬り殺したらもう元も子も無いからな……太刀は奴を斬る時だけで良い」


 そう言うとコウは再びカグツチを追い始める。

 幸い、遠目からではあるものの姿はまだ捉えていた。

 だが、もうすぐ高天原の“まち”へと入る……まだ土地勘が無い状態で裏道などに入られたら見失ってしまう。

 コウは息を乱しながら足を早める。

 残念ながらスサノヲに掛けられた酒はもう乾いてしまい、泳ぐ魚のような動きは出来ないがカグツチとの距離は少しづつ縮み始めた。


(もう少し!)


 前を行くカグツチがついに高天原の“まち”へと入る。

 少し遅れてコウも“まち”へと入った。

 道はまだ大きく小道らしきものも見当たらない。

 このまま行けば追い付ける……そう思った時だった。


「ん? お、お前はッ!?」


 コウはたまたま建物の中から出てきた天津神と出くわしてしまう。

 だが、気にしてなどいられない……そのまま通り過ぎようとするもそう簡単にはいかなかった。


「おい、誰かぁ! 国津神が逃げるぞぉッ!」


「チッ……余計なことを!」


 舌打ちをするコウだったが時既に遅く、天津神の声を聞いた他の天津神が建物の中から続々と出て来た。

 先程、声を上げた者を含めれば五柱程だろうか……ようやく近付くことが出来たのに彼らが行く手を塞ぎ、カグツチの背が遠くなる。


「お前ら……そこをどけぇ!」


 立ち止まり、自分を囲む者達に怒号を浴びせるコウ。

 それを受け、囲んでいた天津神達は一瞬怯むがすぐに各々剣を手に取って構えた。


「どうなっても知らねぇぞ!」


「うおぉぉぉぉーッ!!」


 身構えるコウに彼の目の前にいる天津神が剣を高く掲げ、迫って来る。

 コウは両手に拳を作り、身体を低くしながら天津神の前にいち早く出るとその剣が振られる前に彼の両の膝頭をそれぞれ強く打ち付けた。


「ッ!」


 膝頭を打たれ、思わず身体を崩した天津神の顎を更に拳で突き上げた後、コウは宙にいる彼の腹部目掛けて強く拳を入れ込んだ。

 打たれた天津神は息を大きく吐き出して殴り飛ばされ、声を出す暇も無いまま後方にいた他の二柱の天津神を巻き込んで地面に倒れ込む。


「この―――!」


 それを見ていたコウの背後にいた天津神は彼に近付いて剣を振る。

 だが、コウはその場で回って振られた剣を避けると天津神の背目掛けて蹴り飛ばした。


「がはっ……」


 地面に倒れ、残る天津神はあと一柱……その天津神は倒れ行く仲間を見ていたため、もう既に恐れを抱いている。

 剣を持つ手が震えていた。

 コウはそんな天津神に近付く。


「ひ、ひぃ!」


「もう既に戦意を失った奴には何もしたくないが、ここで見逃せばお前の後の立場が悪くなるだろう……許せ」


 ただ独り無事に残って、後に仲間から干された者を多く見てきたコウは容赦なくその天津神を殴り飛ばす。


「ぐはッ!」


 倒れる最後の一柱を見届けたコウは辺りを見渡す。

 倒れた天津神達は呻いてはいるものの、もはや立ち上がることは出来ない。

 それを確認したコウはカグツチの行った先に目を向ける。

 もはやそこに彼の姿は無い……けれども、コウは諦めが悪かった。


(いや、まだそう遠くには行っていない筈だ!)


 そして再び足を動かしてその場を離れた後、途中で小さな小道を見つけた。

 このまま進むべきか、今見つけたこの道へ行くか……道を誤ればカグツチを見失ってしまうかも知れない。

 暫く、その場で思案した後……コウはその小道を行くことを選んだ。

 このまま先に進めば多くの天津神達がいる天安河に出てしまうからであった。

 これ以上、時を無駄にする訳にはいかない。


(今度は逃さねぇぞ……カグツチ!)


 先に行った仇に心の中でそう叫びながらコウは暗がりの小道をひたすら進んで行った。





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