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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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宿敵との再会

 スサノヲを殴ったコウはその場で瞬く間に周囲の天津神達によって取り押さえられ、タケミカヅチによって荒縄で縛りあげられる。

 その際、コウは抵抗せず大人しく従った。

 逆に縛ったタケミカヅチの方が悲痛な表情をしている。

 そうして、夜……捕らわれたコウは高天原の北にある天香具山の麓まで連れて行かれ、そこに生えている木に縛り付けられた。


「全く……来て早々にいきなりなんてことをしてるんですか!?」


「……別に俺は後悔はしていない」


 袖の中に隠れていたネネがコウを咎めるも当の本人の耳にはまるで入っていない。

 現在、コウの周りには他の神々はいない……高天原の“まち”へ続く道は一本なのでその入口に見張りがいるのだ。

 ましてや、中つ国へ降りる為の“天の浮橋”は天香具山とは反対の方角……逃げようと思えば嫌でも天津神達の目に入るという訳だ。

 だが、コウは逃げるつもりは無かった。

 反省はしていないとはいえ、自身のやった行いについては自覚があったので大人しく処罰は受けるつもりであった。


「本当に逃げないんですか? ……今なら私が元の姿に戻って縄を解くことくらいは出来ますよ?」


「……ここで俺がこれ以上何かしたらシオツチやワタツミ殿に申し訳が立たない」


 そのシオツチは今、天安河の河原にて天津神達相手にコウの恩赦を願い出ている。

 コウにとってもこれ以上、シオツチに迷惑を掛ける訳にはいかなかった。

 因みに殴られたスサノヲはというと、今は神殿に運ばれて寝かせられているらしい。よっぽど、強く殴られたみたいで目を覚まさないようだ。


「言っただろう? ……覚悟は出来ている」


 そう言って目を閉じるコウ。

 だが、その時……何者かがこちらに近づいて来る音がした。

 コウはゆっくりと目を開け、その者を見る。

 すると、その瞬間彼の目は大きく見開き、驚愕の表情へと変わる。

 その者は漆黒の神衣に身を包み、手には十拳剣を持っている。

 けれども、異様な雰囲気はそれだけでは無かった。

 その者は口をすぼめて曲げたような奇妙な面を付け、顔を隠していたのだ。

 そして、コウはその面を忘れはしない。


「なっ……お前はッ!?」


 面の神は十拳剣を構えると縛られて動けないコウへと迫る。

 コウを縛っている荒縄は特殊なもので作られているらしく、彼は神力を使うことが出来ない。


「アラハバキ様! どうしたんですか!?」


「ネネ、お前だけでも逃げろ! ……スイを殺したカグツチが目の前にいる!」


「えっ!?」


 カグツチと呼ばれた面の神はコウの前まで来ると握っている剣に力を込める。

 何も出来ない状況の中、コウはただ睨みつけることしか出来ない。


「早く逃げろ! ……俺はここまでみたいだ」


「そんなのは嫌です!」


 今まさに剣が振り下ろされようとした時、袖の中に隠れていたネネはとある物を口に咥えて飛び出す。

 そして、カグツチとコウの間で元の姿に戻ると咥えていたそれをすかさず手に持ち、カグツチの剣を受け止める。

 ネネが手にしていたのはポイヤウンペがコウにくれた小刀マキリであった。


「うあぁぁぁーッ!!」


 ネネは叫びながら気合でカグツチの剣を弾く、そして離れたのを確認すると振り返ってコウの縄を切った。


「誰かが犧牲になるなんて嫌です! さぁ、早く今の内に逃げましょう!」


「ネネ……すまない」


 縄が解かれたコウはネネに礼を言って立ち上がると、自身の太刀を手に宿らせて彼女を庇うように前に出る。

 ここで仇と出くわすとは思いもよらなかったものの、コウの目的に場所や時は関係無い。

 彼はカグツチを鋭く睨みつけた。

 すると、カグツチは何を思ったのか……十拳剣を収めると高天原の“まち”に向かって走り出す。


「なに!? 逃げるつもりか……待てッ!」


「ですがアラハバキ様……あの向こうには天津神の見張りが……」


「それはここに来る時にもいた筈だ。今更、見張りなど意味は無い。それに今はあいつが優先だ。シオツチには重ね重ね悪いがな……行くぞ、ネネ!」


「……はい!」


 どんなことであろうが付いて行く……改めて自身にも覚悟を決めたネネは再び野衾の姿になり、袖の中に隠れるとコウと共にカグツチを追う。


「なんだ、さっきの叫び声はッ!?」


「あの国津神のいる方から聞こえてきたぞ!」


 先程のネネの声を聞いた見張りの天津神達がそう話し、コウの元へ来るのが分かる。

 だが、そうなればカグツチの存在も彼らに知られるだろう。

 そう思っていたコウだったが、カグツチが天津神達と接触しようとする時……カグツチの姿は突然、常闇と同化し身を晦ました。


「なにッ!?」


 何が起こったのか分からないコウは辺りを探す。

 すると、そうしている内に彼は見張りの天津神達に見つかってしまった。


「なっ……どうやってあの縄を!?」


「今はそんなことどうでも良い! 早くこいつを捕らえるんだ!」


 二柱の天津神達は揃って剣をコウへと向ける。

 状況は最悪だ。

 だが、そんな中……コウは彼らの遥か後方にカグツチの背を見つける。

 どうやって通り過ぎたのか?

 そんな疑問は浮かぶものの今はそんなことを考えている場合じゃない。

 まだ姿が見える内に追い掛けなければならない。

 これ以上の事態の悪化は避けるべきだろうが、元々コウはカグツチを追ってここまで来た。

 ここでカグツチを討てば全てに決着がつく。

 コウは即座に腹を決めた。


「邪魔だぁ! そこをどけぇ!」


 気迫の込もった言霊を放ちながら彼は対峙する天津神達へ向かって行った。



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