質実剛健なる武神
高天原の“まち”に入ったコウ達は天津神達から歓迎を受けていた。
とはいえ、それは良い意味では無い。
遠くからヒソヒソと彼らを見て話すその光景は歓迎というよりも洗礼といった方が良いだろう。
その為、皆彼らを避けるように道を開ける。
「……申し訳ありません。気分の悪い思いをさせてしまって……」
シオツチが天津神達の行ないを代わりに詫びるが、当のコウはあまり気にしていない様子であった。
「なぁに、避けられるのは慣れている。気にするな。それよりも道が拓けてだいぶ歩きやすくなった。これなら……思ったよりも早く神殿に着きそうだな」
逆にそう言って、あろうことか通りの真ん中を歩いて向かう。
あまりにも豪胆だ、とシオツチは言葉を失った。
そうして、いよいよコウ達は神殿の前に到着する。
すると、そこには行く手を遮るかのように一柱の男神が立っていた。
風貌は肩鎧に短甲、腰には剣を下げ……兜こそは着けていなかったものの見るからに武神である。
更にはその雰囲気までからも強者の香りが漂う。
「待て。ここは天照大御神様の居られる神殿……貴殿、ここらではあまり見ない顔だが、どこから来た?」
「葦原の中つ国から来た、名をアラハバキ。知神であるワタツミ殿のお声掛けにより参上仕った。怪しい者では無い。この高天原を治める主宰神、天照大御神様にご挨拶を申し上げたく、ご無礼ながら……取り次ぎをお願い致したい」
臆することなく堂々と声高らかに武神へ伝えるコウ。
その様子に周囲にいた天津神達はざわつき、武神は面食らったように目を見開く。
「なるほど、貴殿がワタツミ様の認めた国津神……確かに良い面構えだ。しかし、残念ながらアマテラス様への謁見は叶えられない」
「なぜだ?」
「先も申した通り、この神殿はアマテラス様が住まわれる場所……我らがそう安易に立ち入ることは出来ない。この中に入ることが出来るのはアマテラス様からお許しを頂いた者のみか、弟君であるスサノオ様とツクヨミ様のみだ」
「……なるほど、よく分かった。ならばどうすればお目通り出来る?」
「アマテラス様は日が昇り始める刻と日が沈み始める刻にこの神殿の外に出て姿を見せられる。……次、姿をお見せになられるのは日が沈み始める刻だ。それまでもう暫し掛かる……待たれよ」
どうやら、大神ともなるとそう簡単には会えないらしい。
余程、尊い神なのだろう。
その武神の話しを聞いたコウはとある行動に出た。
「そうか……ならば“この場”で待つとしよう」
そう言うと大勢の天津神達が周囲から見ている中、突然その場に座り込んでしまった。
これを見たシオツチと武神は驚く。
「アラハバキ殿! 何をなさっているのですか!?」
「そうだ、ここはアマテラス様が居られる神殿の前なのだぞ!?」
「だから、こうして待っているんだ。定刻に姿を見せるということはその刻に合わせて多くの者達が来るということだ。もし姿を見せる刻までの間にどこかへ行ったら一番後ろで姿を拝むことになってしまう。そうなったら多くの者を掻き分けて前に出なければならない。それは嫌だ。それに初めて会うアマテラス様にも申し訳ないだろう? 今ならまだ他の神々は集まっていない……ここを陣取れば一番前でその姿を拝める」
「確かにそれならば一番始めにアマテラス様の姿を拝むことが出来るだろう。だが、貴殿は国津神だ。天津神達の好奇な目に晒されるかも知れないんだぞ?」
「……お前、優しいな。だが、心配は無用だ」
座ったまま見上げるようにコウは武神を見る。
「始めに後ろにいようが前にいようが……どの道前に出るのだから同じだ。その時でも好奇な目は向けられるだろう。ならば俺は始めからその目に晒され、一番前で……一番近くでアマテラス様に会おう。この高天原に行くと決めた時から色々な覚悟は出来ている」
コウのその態度に武神は心の底から賞賛の声を上げた。
これほど清々しい者はそういない……寧ろ、天津神の男神にも見倣って欲しい程だ。
そう感じた武神はコウに興味を抱き、コウの器量を測ることにした。
「その覚悟、見事なり。されど、礼節を重んじるわりには神殿の前で座り込むなど失礼では無いか?」
「神殿の“中”ならまだしも“外”なんだから問題は無いだろう?」
「ならば、なぜ正面から見据えるように座り込む?」
「もし万が一にも早く姿をお見せした場合、背を向けていたら失礼にあたる。なので、姿を見せられるまでは正面を向く」
「……なるほど」
武神の問いにコウは迷いもなく答える。
その姿に武神は満足気に頷いた。
「……アラハバキ殿、見事なり。貴殿の覚悟、この建御雷之男神がしかと見た。流石はワタツミ様の推した神だ」
タケミカヅチと名乗った武神は座り込むコウに向かって手を差し出す。
「私は認めよう、貴殿のことを……他の天津神達には私から言っておく。これからよろしく頼む、アラハバキ殿」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む」
差し出された手を取り、立ち上がるコウ。
だが、その直後……彼らの耳に大地が揺れ動くような不気味な轟音が届いた。




