高天原の名所
神州ヶ原を進むコウ達は途中でオモイカネを混じえ、高天原の中心を目指して進んでいく。
その間、コウはオモイカネにここに来るまでの経緯を簡単に説明した。
「……なるほど、つまりアラハバキはワタツミ様が遣わした国津神という訳か」
「まぁ、そういうことになるな。ところで……オモイカネ、お前はどうしてあんな場所にいたんだ?」
「ちょっと薬草を探していてね……天香具山に無かったからここには生えているんじゃないかと思ったけど……結局、見つからなかったよ」
「天香具山?」
聞き慣れない地名が出てきた為、コウは思わず話しの腰を折る。
「あの山だよ」
その疑問に答えるようにオモイカネはある一点を指差す。
神州ヶ原の遥か向こう……青々とした峰が見える。
「高天原の北にある山で高天原で一番と謳われる山さ。あそこには様々な草木や木々、果実までもが実っていて多くの動物達が暮らしている。彼らも元は国津神の眷属だったけれど諸々の事情により現在は天津神が保護しているんだ」
「諸々の事情……というと、戦や異心の嫌疑を掛けられた者達か?」
「あぁ。もしかしたら、君のことを知っている者もいるかも知れない」
それはそれで厄介だ、と心の中で苦笑するコウの前に今度は別の山が見えた。
大きな岩肌が特徴のその山はまるで番をするかのように立ち塞がっている。
「この山は天金山。高天原で唯一、鉄の採れる山で山頂へ行くに従い、より純度の高い鉱石が手に入る。……とはいえ、見ての通り急な山だからあまり上まで行く者はいないんだ。この山の近くに行けば高天原の中心が見えるよ」
「……なんだか。中つ国とほとんど変わらないな。天上にあると聞いていたからどんな場所かと思っていたが……」
「ははは、そりゃあ地上から来ればそう思うだろうね。でも、人間がいないことを除けばここは地上と大して変わらないよ。なんせ、中つ国はここを元に創られたのだから」
「……それもそうか」
恐らく、その部分がミズチ達国津神の気にする所なのだろう。
中つ国は後から創られた……その事実がそこに住む者に劣等感を与える。
だが、オモイカネの振る舞いや彼の話しを聞く限りではそうでも無いようにも思える。
「……まぁ、だから今日でも国津神と天津神の争いが絶えないんだと思う。彼ら国津神が言うように天津神であることに横暴な態度や偏見を持つ者もいるしね。でも……その天津神の中にも国津神と中つ国を憂いている者がいることも忘れないで欲しい」
「あぁ、分かっているさ」
「……ありがとう。さて、アラハバキ。どうやら話し込んでいる内に君の行く場所が見えてきたみたいだよ」
そう言ってオモイカネが前を促すとその先には幾つもの建物が見えるとても大きな“まち”が見えた。
見たことも無いような通り……中央には八尋殿とは比べ物にならない程の殿がそびえ立っている。
「あの御殿は?」
「高天原に座す主宰神、天照大御神様の住む神殿だよ。君がこれから挨拶に行く所じゃないかな?」
「……広い河もあるんだな」
神州ヶ原と高天原の境にある大きな河川を見てコウは呟く。
まるで故郷の河原を思い出すかのようだ。
「天安河だよ。大事なことは大抵、あそこで決めるんだ」
「神殿じゃないのか?」
「あぁ。神殿はアマテラス様のお住いだからね。それにアマテラス様は最終的な決定をなさるに過ぎない……それまで他の神々はあそこで話し合いを行うんだ。……さてと、じゃあ僕はもう少しこの辺りで薬草を探してみるよ」
「大丈夫か?」
「あぁ。今度は高天原も近くに見えるし大丈夫だよ、ありがとう。それじゃあ、またどこかで……」
オモイカネはそう言ってその場を去って行った。
コウはその後ろ姿を見送る。
「……行ってしまわれましたな」
「あぁ。だが、ここにいればまた会えるだろう……さぁ、シオツチ。先を行こう」
コウがそう言ってシオツチに先に行くことを促した時、今まで袖の中で黙っていたネネが口を挟んできた。
「アラハバキ様、アラハバキ様」
「ネネ、よく黙っていてくれたな。どうした?」
「少し喉が渇いてきました……申し訳ありませんがどこか水場のある所に行けませんか?」
そう言われたコウは自分達の目の前を流れている天安河を見る。
幸い、神は一柱もいないように見えた。
「もう少し行けば水場がある。シオツチ……悪いが少し休んでも良いか?」
「ほっほっほ、構いませんよ。息抜きも必要ですからな」
「すまない……ネネ、もう少しだ」
コウは彼女のいる袖の中に向かってそう語り掛けると天安河を目指し、歩き始めた。




