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ジンダイ  作者: 吉田 将
第三章 高天原
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思慮の神

 悲鳴の元に駆け付けるとそこには気の弱そうな男神が頭を抱えてうずくまっていた。

 そんな彼の周りには数体の黒い煙に包まれたむくろが手に錆びた剣を持ち、舞い踊っている。

 そこに到着したコウはその異様な光景にも臆さず、骸達へと呼び掛けた。


「おい!」


 骸達はその声に反応し、踊るのを止めて一斉に虚ろな目で彼を見る。


「何してやがる。こんな良い日に気分悪くするようなことしてんじゃねぇよ」


 そんなコウに構わず骸達は彼目掛けて襲い掛かってきた。

 いきなりであったが、長年培った勘によりこうなることを予測していたコウはすぐに身構えて手に太刀を宿らせる。


「何も言わずに襲い掛かるか……慣れてはいるが、容赦はしないぜ?」


 そうして、骸達が近付いてくる前に一瞬姿を消して彼らの後ろにすぐ姿を現した。

 その途端、骸の内の一体の首が宙へと跳ねた。

 突然の出来事に骸達の動きが止まる。


「悪いな、ここに来た途端に霧雨を浴びてきたからな……お前らに俺の動きは見えねぇぜ。……あと三体か。まぁ、運が悪かったと悔やんでな」


 太刀の刃を煌めかせ、そう吐いた瞬間……水の中を泳ぐ魚のような速さでコウは残りの骸達の首を刎ねた。

 骸達は音を立ててその場に崩れ落ちるも身体である骨は黒い煙と共に消えてしまう。


「なんだったんだ……こいつらは……」


 跡形も無くなったその場を見た後、コウは未だに震えている男神へ声を掛けた。


「おい、大丈夫か?」


「……えっ?」


 声を掛けられた男神はようやく頭から手を離し、恐る恐る周りを見る。

 そして、あの骸太刀がいないことを確認するとようやくコウの方に向き直った。


「……もしかして、君が追い払ってくれたのかい?」


「追い払ったというより倒したがな……もし、さっきのが天津神だったら俺はマズイことをしたか?」


「ははは、大丈夫だよ。さっきのは天津神じゃないから」


 コウの言葉に笑って答えた男神はゆっくりと立ち上がる。

 清楚な身なりに髪は短く切って整えており、端正な顔立ちをしていた。

 見るからに優男といった風貌である。


「まずはお礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう。僕の名は八意思兼ヤゴコロノオモイカネ……オモイカネと気軽に呼んでくれて構わないよ」


「そうか……俺はアラハバキだ。ところで、オモイカネ……さっきの奴らは一体なんなんだ?」


「……彼らはここ最近、高天原に現われ始めた者達さ。詳しいことは残念ながら僕にも分からない」


「ここ最近?」


「あぁ。ちょうどスサノオ様が乱暴狼藉を始めた頃辺りかな? ……って、君も天津神なら知ってるんじゃないのかい?」


「残念ながら俺は天津神じゃない」


「えっ?」


 オモイカネの言葉を少し似せて返したコウの言葉に彼は疑問の声を上げる。

 そんな最中、先程置いてきたシオツチがようやくコウに追いついた。


「こ……いえ、アラハバキ殿! 何があったんですか?」


「遅かったな…………どうやら、この高天原にも琉球にいた奴らと似たようなものがいるみたいだぞ」


「えっ?」


「あ、あの……アラハバキ殿、この方は一体?」


 コウとシオツチの会話にオモイカネが申し訳なさそうに入ってくる。


「アラハバキで構わないぞ」


「あぁ、申し遅れましたなお若い方……儂はワタツミ様の従神をしております。塩土老翁神シオツチノオジノカミと申す者です」


「えっ!? シオツチ殿といったらあの知恵者で有名な……!」


「ところで、あなたは……?」


「あっ、えっと……すみません、申し遅れました! 私は八意思兼と申す者です!」


 緊張した面持ちでオモイカネはシオツチへ自らを紹介する。

 それほどまでにすごいのか、とコウは無言でその様を眺めていた。


「ほう! ということはお噂に聞くタカミムスビ様のご子息でありましたか!」


 シオツチのその反応にオモイカネは笑って返すが、その笑みはどことなくぎこちない。

 コウはその瞬間を見逃さなかった。

 そんな彼に対し、シオツチはオモイカネの詳細を語る。


「アラハバキ殿、このオモイカネ殿は高天原では有名な知恵者なのですよ」


「ほぅ……だからシオツチと気が合った訳か。確かに似たものを感じる」


「そのうえ、オモイカネ殿は高天原の最高司令神、別天津神ことあまつかみ高御産巣日タカミムスビ神様のご子息なのですよ!」


 シオツチがそう言ったと同時にオモイカネの顔は彼らの見えない所で曇った。

 しかし、そんなことは知らないコウはただ一言だけ言った。


「……誰だ、それ?」


「……えっ?」


 コウのその言葉にシオツチは元より顔を曇らせていた筈のオモイカネまでもが声を上げる。

 そんな彼らの様子を見たコウは頭を掻きながら続けた。


「なんだその意外そうな顔は……仕方ないだろ、俺は国津神なんだ。高天原の最高司令神だか別天津神だかなんだか知らないが、そう興奮気味に語られても困る。俺はただシオツチやワタツミ殿の頼みでここに来た。それだけのことだ。誰が誰の子であろうが知ったこっちゃ無い」


 コウのその言葉に曇っていた筈のオモイカネの顔に明るさが戻ってきた。

 その一方でシオツチが慌てたように語り始める。


「いや、それは知っておいた方がよろしいですぞ。別天津神とは―――」


「あぁ、今はいい」


 話し始めようとするシオツチをコウが面倒な様子で止める。


「なんだか、話しが長くなりそうだからあとで聞く。それにこれ以上、先方を待たせる訳にもいかない……先を行こう」


 そう言って歩き始めたコウの後ろ姿をオモイカネは安堵した様子で見ていた。



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