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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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新天地への旅立ち

 ネネの準備を待って三日……コウ達はいよいよ旅立ちの時を迎えていた。

 この三日間、ネネは家族と過ごす時を長くし今までに無い程の幸せな日々を過ごしていた。

 一方のコウは普段と変わらず、クジと遊び、共に働き、飯を食べて寝るといった日々を過ごしていた。


「コウ様……もう会えなくなるかも知れないというのに、まるで普段と変わらない様子だ」


「寧ろ、それが良いのかも知れませんね」


「というと?」


「何気ない日々というのはそれだけでかけがえのないものです。これからコウ殿はそんな日々とは無縁の場所に向かわれる……だからこそ、では無いでしょうか?」


「……なるほど、そういうことですか。ならば、私達は見守るしか無いですね」


 ヤタとセキレイはシオツチの言葉を理解し、この三日を見守っていた。

 そして、いよいよ出立の朝。


「魚の神のコウ様。この度は色々と私達家族の為にありがとうございました」


 ようやく床上げとなったショウシの妻がコウへ開口一番挨拶をしてくる。

 コウはやっとまともに話すことが出来るようになったショウシの妻へ声を掛けた。


「いや、大したことはしていない。それより、子らと共に健やかにな……ネネのことは安心しろ、何があっても絶対無事に返す」


「はい」


「ヤタ、セキレイ、ショウシ、皆のことくれぐれもよろしくな」


「はい」


「お任せ下さい」


「あぁ。……ネネ、気をつけてな」


「はい! 父上、母上、皆……行って参ります!」


おさ、今度は俺以外の神々がこうして居てくれる。何か困ったことがあったら彼らに言ってくれ」


「アラハバキ様……いつもありがとうございます!」


「クジ……また戻ってきたら遊ぼう。今度はいつ帰ってくるか分からないが、絶対だ」


「うん、分かってる。コウ神様、気をつけてね」


 多くの人々に見送られながらコウとネネとシオツチは海へ向けて歩き出す。

 この地はコウにとっての出会いの地であり別れの地……何度も経験してはいるが、やはりこみ上げてくるものがある。

 離れる度に遠くなる筈の声がどんどん内で大きくなり、何度も足を止めそうになる。

 けれども、前に進まなければいけない。

 これこそがコウの選んだ道なのだから。


(中つ国で出会ったかけがえの無い者達……ありがとう。俺はお前達のことを決して忘れない!)


「……コウ様、泣いているんですか?」


「…………いや、泣いてなどいないさ。ただ少し悲しくはあるがな……お前は寂しく無いのか?」


「そりゃあちょっとは……でもでも! 自分が今まで行ったことの無い場所に行けるんですから少しだけ……気持ちは浮いています。それに自分だけじゃなくコウ様もいますしね!」


 ネネの様子にコウは目を丸くした。

 親元から離れるから気持ちは沈んでいるのでは無いかと思ったが、気持ちが沈んでいたのはコウの方だったらしい。


「そう……だな」


 独りじゃない―――ネネの言葉にコウは元気をもらった。

 そして、これから行くであろう新天地についてシオツチへ尋ねる。


「シオツチ、高天原への道があるオノゴロ島へはここからどれほど掛かる?」


「そうですなぁ……普通なら船で一月ひとつき程でしょうか?」


「一月!? そんなに掛かるものなんですか!?」


「……すまないな。俺のわがままのせいでだいぶ時を使ってしまった」


「ほっほっほ、気にすることはありませんよ。普通ならです。今回はワタツミ様の御力により海を自在に操ってすぐに着きましょうぞ。潮を操ることが出来る儂もおりますから三日程で着きましょう」


「……今度はえらく早いな」


「ほっほっほ! 海ならば手間を取らせませぬ。さぁ、船が見えてきましたな」


 そんな話しをしている内にコウ達は以前船を置いた海岸に辿り着いた。

 やはり長い時を経た為か船は少しばかり傷んでいる。

 だが、キンマムンが丈夫な木々で造った為か、直せばすぐにでも出航出来そうだ。


「ほぅ、流石はキンマムン殿の生み出した木々……あれほどの時を経てもこの程度とは……」


「出会った者達に助けられてばかりだな……よし、ネネ。お前は船に使えそうな丈夫な材木を集めてきてくれ。あまり大きく無くても良いが、数があれば良いな」


「分かりました! でも、コウ様……」


「なんだ?」


 勢い良く返事をしたネネだが、その一方で何かを懸念するように空を見る。


「なんだか、嵐が来そうな気配がします。今は晴れていますけど生温かい風が沖の方から吹いています。シオツチ殿達は海を操ることは出来ますでしょうが、天を操ることは出来ませんでしょう? 急ぎの旅とは思いますが、ここは一応様子を見るのがよろしいかと……」


「ふむ、確かにこれは嫌な風ですなぁ。確かに、儂らは早く渡航することは出来ても嵐に見舞われたら敵いません。一応、ワタツミ様の海なので落ちた際は問題は無いのですが……船が壊れたら元も子もありますまい。コウ殿、儂もネネ殿の意見に賛同です」


 二柱の神々の進言により、コウはその日は船の修繕と食料集めのみ行った。

 かくして、夕暮れ時……ネネの言った通り、海岸に嵐がやってきた。

 もし、これが海の上ならもっと早くに遭遇し為す術が無かっただろう。

 コウはネネの眼力に感心した。


「大したものだな。鼠はあらゆる災いを感じ取る……ショウシの言った通りもあるが、ネネは特別なようだ」


「いやぁ~、それほどでも~……もっと褒めて伸ばして下さい」


 頭を掻きながら照れるネネの姿を見て、コウはショウシがとんでもない神材を自分に預けたことを知った。

 そして、翌朝……朝焼けの空が海岸を照らす中、コウ達はオノゴロ島に向けて出航した。




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