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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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盟約

 ヤタ達と話しを終えたコウは夜にも関わらず、その足でショウシの家へと向かった。

 彼の家の前に着くと、家の外でネネがただ一柱、空をジッと眺めている。

 コウは丁度良い、とばかりに彼女に近付いた。


「よぉ、ネネ」


「あっ、コウ様! この度は色々とありがとうございました! ところで……こんな夜更けにどうしたんですか?」


 コウに気付いたネネは丁寧な挨拶を述べた後、コウが来た理由を尋ねる。

 彼は要件を伝えた。


「あぁ、ちょっとお前の父に用があってな。取り次いでもらえるか?」


「分かりました。暫しお待ち下さい」


 ネネはそう言うとすぐに中に入り、ショウシを呼ぶ。

 すると、程なくして中から彼が出てきた。


「どうしたんだ? わざわざ足を運ばなくても呼べばこちらから伺ったぞ?」


「夜遅くにすまないな、ショウシ。少し話したいことがある」


「そうか……なら、中に入ってくれ。夜風は身体にさわる」


「いや、せっかく子供達とゆっくりしているんだ。これ以上、奥方に心労は掛けられない。それに……話すことはスイについてだ。内容としては…………幼い子らの耳にはあまり入れたくない。お前が構わないなら少し顔を貸してくれないか?」


「……なるほど、そういうことか。分かった。我も丁度、その詳しい内容を聞きたいと願っていた所だ」


 ショウシの了解を得たコウは彼を家の近くにある高倉の裏の呼び出し、自身のこれまでの経緯を詳細に語り出した。




 ※※※※※※




「……つまり、スイ様はそのお前の仇であるカグツチという天津神に襲われ、命を落としたという訳か?」


「あぁ、そうだ。にわかには信じられないと思うが……これが事実だ」


「ううむ……」


 コウの話しを聞いたショウシは唸りながら考え込んでしまった。

 いきなり告げられたことに頭がまだ追いついていないのだろう。

 だが、暫く考え込んだ後にようやく口を開いた。


「それでお前は今度は天津神達の座する高天原に行こうというのか……」


「あぁ。もうじき行くつもりだがな」


「危険過ぎる!」


「承知の上だ。だがもう中つ国を巡り、探したが俺の欲するものは見つからなかった。もう他に行く所はあるまい?」


「そうだが……しかし……!」


「貴重なものや旨いものだって簡単に採れやしない。言わばこれはそれと同じだ。ただ手をこまねいて眺めるより自ら行く方が良い……俺はそういう奴だ。それにここを留守にする心配はもう無くなった。ここにはお前達一家やヤタ達が居てくれる……やはりどんな神であれ居てくれればこれほど心強いことは無い。お陰で安心して行くことが出来る」


「コウ……」


「それにこれ以上、シオツチを待たせる訳にはいかない。俺を選んでくれたあいつやワタツミ殿の顔が立たないからな」


「……さっき、ヤタ達と言ったが彼らもここに残るのか?」


「あぁ。当然、今まで付いてきてくれた分渋りはしたがな……高天原へ行く際に供が居ればあいつらの身に危険が及ぶかも知れないだろう?」


「なるほど……最もだ。ならば、今度は彼らに代わり我が娘がその務めを引き継ごう」


「えっ?」


 ショウシがそう言うと上からネネが降りてきてコウとショウシの間に降り立つ。

 コウは彼女の存在に気が付かなかったので大いに驚いた。


「ネネ!? いつの間に……」


「高倉の屋根の上から……初めから聞かせて頂きました」


「鼠とは小さい故にどんな穴にも潜り込み、そして気付かれぬものだ。それに我ら、相手の力量は計りかねるもあらゆる災いは敏感に感じ取ることが出来る…………ネネよ、聞いていたな? これからお前はコウと共に高天原に潜り込み、ヤタ達に代わってコウを支えるのだ」


「はい!」


「ちょっと待て! 確かに気配には気付かなかった。だが、その姿じゃ天津神の目には入るだろう?」


「案ずるな。ネネよ、見せてやれ」


「はい」


 ネネはそう言うと眼を灰色へと変えた。

 すると、彼女の姿はみるみる小さくなり……最後には普通の鼠と同じ大きさとなった。


「これはお前の紡技同様、それほど影響の無い荒御魂だ。これなら文句はあるまい?」


「確かに……これなら文句は言えねぇな。だが、どうして娘を死地へ送るような真似をする? 大切では無いのか?」


「いや、大切だからこそお前に預けるのだ。コウ」


 ショウシは真剣な眼差しをコウへと向けた。

 その眼には今までとは違い、強い光が宿っている。


「お前はこの地の人々という大切なものを我らに預けた。これは言わば人質のようなものだ。ならば、我らも同様に大切なものをお前に預けなければならない。つまり、ネネは我らにとっての人質だ」


「……じゃあ、もしネネに何かあったらお前はこの地の人々を殺すのか?」


「いや、そんなことはしない。ただ、お前の所に預けていれば我らも気が引き締まり下手なことはしないだろう。言わばこれは戒めだ。だから、もし我らがこの地の人々に何かしたら遠慮なくネネを好きにすると良い」


 ショウシの態度からコウは彼の強い覚悟のようなものを感じ取った。

 これを断るというのは無粋というものだろう。

 ショウシはショウシなりにコウを信じての行動なのだから。


「それに……ネネには色々なことを見て学んで欲しいのだ。ましてや、高天原なんて滅多に行ける所では無いからな」


「フッ……そっちが狙いか。なら、良いだろう。……ネネ、これからよろしく頼む。お前にとっては過酷かも知れないが……」


「いいえ、元より過酷なことには慣れております。それよりもネネは今少しだけ心が踊っています。あの天にあるといわれる高天原に行くことが出来るんですから!」


 元の大きさへと戻ったネネはこれからのことなど露知らず、嬉しそうに空を見上げる。

 その様子を見たコウも心の中で安堵し、新たな旅へ向けて思いを馳せていた。



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