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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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父子

 朝を迎え、集落は夜の騒々しさとは裏腹に落ち着きを取り戻していた。

 コウとポイヤウンペは傷の手当てを受け、クジの家で共に休んでいる。

 その間、集落のとある家では捕らわれたショウシとネネが縛られたまま目を覚ました。

 その家はコウが現在彼らの為に借りており、アイヌラックルが監視として付いている。


「……ここは―――」


「お前達が襲った集落の中にある家だ。コウさんが特別に持ち主に頼み込んで借りている」


「……殺さないんですか?」


「コウさんはそんなことはしない」


 憮然と言い放った後、アイヌラックルはショウシとネネを真っ直ぐに見つめた。


「……アンタ、父親として恥ずかしくないのか? 娘をこんなことに巻き込んで」


「……娘本人が望んだことだ」


「じゃあそこの君に聞くが、人間の……しかも子供に止められて恥ずかしくないのか?」


「…………あの子は……どうなったんですか?」


「聞いているのは俺の方だ」


 冷たく言い放つアイヌラックル。

 その目はいつもの彼には感じない怖さが宿っていた。

 ネネはその様子に答えることが出来ず、ショウシが割って入ってくる。


「やめろ! 娘は―――」


「アンタには聞いていない!」


 ネネを庇うショウシに一喝し、激情に駆られたアイヌラックルはその場で立ち上がった。


「アンタ達を止めたあの子はああ見えても俺の息子でね。実の子ではないが……相応の愛情は注いでいるつもりだ。そんな息子が酷い怪我を負って戻ってきたんだ! 本人は元気そうに振る舞っていたが、親である俺は怒りの炎が内で巣食って仕方ないんだ! アンタも子を持つ親なら分かるだろう!?」


「……ッ!」


「……今回は大恩あるコウさんと息子の頼みでこうしているが、もしこれが俺の治める地であったならアンタのその娘を目の前で同じような目に遭わせていたかも知れない。……強情を張るのもその辺りにしておくんだな。仮にも立場というものを理解しているならな」


 思いの全てを吐き出したアイヌラックルは冷静になり、その場に座り込んだ。

 同じ父親としてその言葉を聞いたショウシは意気消沈となり、無言になる。


「アンタ達の沙汰は今夜、正式にコウさんと俺の息子のポイヤウンペが決める。それまで変な気は起こさないことだ」


「何ッ! この地を治める魚の神のコウが決めるんじゃないのか!?」


「……本来はそうだ。コウさんとこの集落の長が決める。だが、今回はポイヤウンペ本人からの希望でコウさんもここの長もそれを許した。この地を救った功績として……」


「あの子が……」


「人間の子供が神のこれからを決める……普通では考えられないが、今のアンタ達にはそれを拒絶することは出来ない。大人しくしていろ」


 そう言ったきり双方互いの空気は静寂に包まれた。

 ショウシは歯を食いしばり、ネネは沈痛な面持ちで身動き一つせずじっとしている。

 これからを考えてだろうか? だが、それにしては先程までの覇気は嘘のように消え失せている。


(……そういえば、ヤタさんは彼らに何か事情があるようだ、とコウさんから聞いたって言っていたな)


 見張りをヤタと交代する際、彼から聞いたことを思い出したアイヌラックルは改めて何かあると思い、ショウシとネネを見る。

 ショウシは未だ悔しそうな顔をしており、アイヌラックルの視線に気付いていないようだが隣にいたネネはそれに気付き、ジッと見返す。

 アイヌラックルは彼女なら何か話してくれるのではと思い口を開きかけるがまたショウシに止められては叶わないと思い直し、向こうから話し掛けてくれるのを待った。

 無言になって暫く、永遠とも感じられる程の時が流れた後……ついにネネは口を開き、話し掛けてきた。


「あの……」


「ん?」


 アイヌラックルがそれに気付くとネネは急に口を閉ざした。

 また、怒られると思ったのだろうか……そう捉えたアイヌラックルは急かすようなことはせず黙って待つ。

 すると、ようやく彼女が続きを始めた。


「あなたはあのポイヤウンペっていう子の父親なんですよね?」


「あぁ、そうだけど……?」


「なら、厚かましいようで申し訳無いのですが彼と魚の神のコウ様にお伝え下さいませんか?」


「何を?」


「……私の首は落としても構いません。ですから父上と母上……そして弟、妹達を助けて頂けないでしょうか!」


「コラッ、ネネ!」


「お願い致します!!」


 ショウシの制止も聞かず、縛られたまま床に頭を擦り付けて懇願するネネ。

 その様子には流石のアイヌラックルも慌てた。


「ちょ……待ってくれ! まだ何も決まっていないし、それに事情を話してくれ!」


「はい……」


「待て! ネネ、それは―――」


「父上はお黙り下さい! このままでは母上達の命が!」


 声を荒げて遮る娘の言葉にショウシは水を打ったかのように静かになる。

 どうやら、事態は急を要するらしい。


「……詳しく話しを聞かせてくれないか?」


 改めて座り直し、アイヌラックルは彼女の話しを聞く体勢を作って耳を傾ける。

 そうして彼はシオツチが交代に来るまで彼女の話しを聞いた後、人知れず集落を出てとある場所に向かった。



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