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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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収束

 コウはポイヤウンペを肩に担ぎ、遠くにいる人々とその人間達の傍にいたヤタの元へ歩み寄る。


「コウ様!」


「ヤタ、すまないな。皆の所にいてもらって……」


「いえ、本当は私も一緒に戦えればよろしかったのですが……」


「気にするな。お前が居てくれたお陰で人々を心配せずにショウシ達と戦えたんだ。礼を言う」


 ヤタはこれまでのコウの行動から彼の大切に思っている人間達を守ることを優先させ、戦いには敢えて参加しなかった。

 更に、ポイヤウンペが乱入してきたことによりコウが不利だった状況が無くなったのでヤタ自身も大丈夫だろうと感じていたのだ。

 戦ったコウ程ではないが、シオツチやアイヌラックルと共にポイヤウンペの実力を見ているのでヤタも彼の武勇は分かっている。

 もしかすると、ポイヤウンペはヤタよりも強いかも知れないのだ。

 だからこそ、自らの勘を頼りにヤタは傍観することに決めたのだった。


「そういえば……クジはアイヌラックルに伝えてくれただろうか?」


「はい、人々を上手く導いていましたよ。妻やシオツチ殿も共に女、子供を守っていたようです」


「そうか」


「ところで、コウ様。あの者達は……」


 ヤタはそう言うとちらりと倒れているショウシとネネに目を配らせる。

 襲撃してきたとはいえ、このまま野放しにはして置けないだろう。

 かといって、放って置いたらいつまた襲ってくるか分からない。

 それにコウは彼らとまだ話し合ってすらいない。


「……何か事情があったみたいだしな。それにこの戦いはあいつらに聞く耳を持ってもらう為のものだ。……少し手荒いかも知れないがショウシの持っている縄の牙を外し、それで縛っておいてくれ」


「分かりました」


 ヤタはコウの言葉に反論する訳でも無く、すぐに返事をするとショウシ達の方へと向かう。

 それを見ていたポイヤウンペは代わりに尋ねた。


「……良いのかよ? また襲ってくるかも知れないぜ?」


「その時はまた倒すだけだ。それにここにはヤタやセキレイ、シオツチといった他の神々の他にお前の親父だっているんだ。もう下手な真似はしないだろう」


「……それもそうか。なぁ、オジキ。悪いけど、おれをオヤジの所まで連れて行ってくれないか? 今は足が動かなくてさ……」


「それは良いが……戦果を報告しに行くのか?」


「いや、そうじゃない」


 ポイヤウンペはそう言うと、一旦言葉を区切り顔を反らした後……呟くような声で理由を話した。


「オヤジの……オヤジの姿を見てみたいんだ……アイヌモシリじゃこんなこと起きなかったから、こういう時のオヤジの姿を見たいんだ……」


「フッ……そうか。……あぁ、良いぞ行こう。火事も落ち着いたからな」


 口元に笑みを浮かべ、それだけ言うとコウはポイヤウンペを肩に担いだままアイヌラックルがいると思われる方へ向かった。




 ※※※※※※




「いやぁ~、しかし見事なものですなぁ……」


「えぇ、流石はコウ様と旧知の方……」


 集落の外……クジと共に人々を誘導していたシオツチとセキレイはアイヌラックルの手際の良さに感心していた。

 クジから事情を聞いたアイヌラックルはすぐにそれを承諾すると、素早く風向きを見たうえ集落周辺の地形をクジに伺い、火の手から逃れる方角を決めると人間達へ声高らかに指示を出した。


『女性はセキレイ殿と共に! 子供は老人と共にシオツチ殿と共に川を目指して進め! 若い者達は俺と共に集落へ残り、火の手が広がった際はその先にある家を壊した後、逃げる! コウさんより皆の命は俺が預かる! 絶対に死なせはしない!』


 その堂々とした姿がコウと重なって見えたのか人々はアイヌラックルの指示通りに動き、無事に難を逃れた。


「まるでコウ殿がいるかのようでしたな」


「はい。それにしても……コウ様達は大丈夫でしょうか?」


「あぁ、お二方。ここにいましたか!」


 セキレイがシオツチと共にコウとポイヤウンペを心配する中、ようやく集落の外に出てきたアイヌラックルが二柱を見つけ声を掛ける。

 そこには安堵の表情が出ていた。


「おぉ、オキクルミ殿。お疲れ様ですな……どうでしたか?」


「幸い、火は高倉のある場所で済んだみたいです。火の手が見えなくなりましたので、恐らくコウさん達が何とかしてくれたんでしょう」


「そうですか、良かったです……」


「全くです。一時は延焼を防ぐ為に家を壊すことも覚悟しましたが……そうならずに良かったです」


 ホッと胸を撫で下ろす一同……そんな中、集落の方から「お~い!」という声が聞こえる。


「この声は……ポイヤウンペの声!」


「じゃあ、コウ神様も!」


 アイヌラックルとクジは互いに顔を合わせると我先にとばかりに集落へと戻る。

 それを見たセキレイとシオツチ、人々は慌てて追い掛ける。

 茂みを掻き分け、彼らが集落に戻るとそこには傷だらけのコウとポイヤウンペの姿があった。


「ポイヤウンペ! どうしたんだ!? 酷い怪我じゃないか!」


「オヤジ……悪い、少ししくじってな」


「コウ神様も酷い怪我……」


「俺の方は慣れているから大丈夫だ。……アイヌラックル、ポイヤウンペはよく戦ったぞ。何度も俺を助けてくれたし、荒御魂を使う国津神を倒したんだ」


「なんと……ポイヤウンペ、無茶したな。……けれど、よくやった」


「オヤジこそ……あんなに大勢の人達を救ったんだな。すげぇよ」


 アイヌラックルの背後から来た人々を見て、ポイヤウンペは感嘆の声を漏らす。

 そんな中、シオツチとセキレイも合流してきた。


「コウ殿、ポイヤウンペ殿よくご無事で……!」


「まぁ、なんて酷い怪我! 急いで手当を―――」


「爺ちゃん、全然無事じゃねぇよ! そっちの姉ちゃんの反応が普通だろ!?」


「こら、ポイヤウンペ! シオツチさんになんて口の利き方を……」


「まぁまぁ……セキレイ、先にポイヤウンペを手当てしてやってくれ。見た目はそれほどじゃねぇが、俺より酷い」


「はい、分かりました」


 コウは肩に担いでいたポイヤウンペをセキレイに渡す。

 その際、ポイヤウンペはコウに声を掛けた。


「なぁ、オジキ……」


「ん?」


「あの鼠の神の親子……どうするつもりなんだ? 今は捕らえたままだけど、あのままって訳にもいかねぇだろ?」


 ポイヤウンペの言葉にコウは黙り込み、周囲も静かになる。

 事情があるにせよ、これだけ大事になったのだからタダでは済まないだろう。


「……殺すのか?」


「そうはしない。……決め兼ねてはいるがな」


「だったら、一つ。おれに頼みがあるんだ。良いか?」


「……お前はクジを救い、皆をこの地を守ってくれた……今更無下にはしないさ。勿論だ」


「だったら―――」


 ポイヤウンペがその内容を口にし、周囲が驚く中……うっすらと朝日の暖かな光が集落を包み始めた。



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