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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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荒神の戦い

 ポイヤウンペ達が高倉の中に入ったのを見たコウは目の前にいるショウシに集中する。

 一方でショウシは燃える高倉へ入った娘が気になるのか、ふっと息を吐いた。


「……ネネよ、我を気遣ってくれたのか」


「……お前もやはり親だな。娘が気になるなら俺の相手をせずに行ったらどうだ?」


「……フッ、笑わせる。どうせ行かせてはくれないのだろう? それにネネなら大丈夫だ。まだ幼いながらも荒御魂が使えるのだからな。お前こそ、追わなくて良いのか?」


「生憎、あいつは知り合いの所の悪童でな……忠告なんて聞きゃあしないのさ。それにあいつの強さは拳を交えて戦った俺の方がよく分かる。人間だからって油断すると痛い目を見るぞ?」


 コウは足に力を込め、いつでも動けるように準備をする。

 ショウシの方も持っている縄を回し始め、いつでも戦えるように構えていた。


「なら、早くお前を倒して行かねばな」


「同感だな。だが、それは俺が言うことだ」


 夜風が燃えている高倉から吹き付け、火の粉が二柱の間を舞う。

 熱気と緊迫した空気が張り詰め、暫し互いに睨みを効かせた後……コウは気迫の込めた言霊を放った。


「行くぞぉ!!」


「来いやぁ!!」


 ショウシも負けじと声を張る。

 先に動いたのはコウであった。一気呵成の如く、ショウシ目掛けて駆け出す。

 それを見たショウシは回していた縄を彼に向かって投げつけた。

 コウは縄に連なっている獣の牙に太刀を当て、それを弾くと隙だらけのショウシ目掛けて斬りつけた。

 しかし、ショウシは瞬時に手元の縄を自らの手首に巻きつけ連なった牙を腕輪のようにして一撃を防ぐ。


「やるな……」


「この程度、造作も無い」


 冷徹に呟いたショウシはコウの太刀を持っている手首を掴み、腹部へもう片方の手を当てると彼を頭上へと持ち上げ、地面に勢い良く叩きつけた。


「がっ……!」


「こんなものでは無いだろう! コウ!」


 叩きつけられ苦しそうに息を吐くコウに追い討ちを掛けるようにショウシは拳を作り、顔目掛けて振り下ろす。

 コウは咄嗟にそれを転がって避けるがその直後、ショウシの拳を中心に地面が大きく窪んだ。

 もし、直撃していたらタダでは済まなかっただろう。けれどもコウは驚きを表に出さず、すぐさま起き上がって手元の太刀を消し、殴り掛かった。

 これほど、近くにいる場合は太刀は邪魔だと感じた為だ。

 ショウシはコウの拳を受け止めるがその途端に今度は腹部に向かって蹴りが放たれ、彼は大きく後ろへ蹌踉よろめく。

 その隙を見逃さなかったコウは僅かに跳躍し、身体を宙で一回転させると渾身の力を込めてショウシの頭を地面に叩きつけるように蹴り落とした。


「があぁっ!」


 顔から地面へと沈むショウシ。

 コウは構えを解かず、それを見下ろしながら息を整えた。


「はぁ……はぁ……!」


「っ……うおぉぉぉぉ!!」


 だがショウシはそんな休む間も与えず、力の限り叫ぶとコウの懐目掛けて突っ込み、そのまま彼を掴んで押し出し始めた。

 コウはその行動に意味があると感じ、後ろを見るとそこにはまだ燃えていない高倉が見えた。

 どうやら、その高倉の柱にコウをぶつけるらしい。


「チッ……うおらぁ!」


 コウは懐に突っ込んできたショウシの背目掛けて肘を強く打ち付ける。

 しかし、ショウシは止まらない。

 このままでは柱にぶつかる……コウは何度もショウシの背に向かって打ち付けた。


「おらおらおらおらぁ!」


「……ッ! ……グホッ!」


 柱へあと僅かという時……ショウシの口から息が漏れ、掴んでいた力が緩む。

 コウはその機に気付き、ショウシの頭を掴むと自身は横に逸れてその勢いのまま彼を柱へぶつけた。

 そして、身体をその場で回転させて回し蹴りを追い討ちとして背中に打ち込んだ。


「があぁぁ!!」


 ショウシの叫び声と共に高倉全体が揺れる。

 その場で膝から崩れ落ちるショウシに対し、コウは諭すように声を掛けた。


「まだやるつもりか? お前達にどんな事情があるか知らないが襲撃が失敗した今、こんな戦いに意味など無いだろう」


「黙れ!」


 柱に手を掛け、よろよろと立ち上がるショウシは鼻や口から血を流しつつもコウを正面から睨みつける。

 その眼はいつの間にか灰色になっていた。


「意味とは戦う前だけでは無い! 戦いの後にも見出すことが出来る! お前に……お前にその意味を決めつける資格は無い!」


「確かに……意味を持つのは俺ではなくお前だったな。俺が決める筋合いじゃ無かった。……だがな、その意味がお前にとってどれほど崇高なものだとしても他者を犧牲にして良い意味は無い筈だ! そんな大層な口を利く前に神としての己の立場に恥を知れ!」


「黙れぇ!!」


 怒号と共にショウシの身体全体が短い毛で覆われ始め、尻には細長い尾が現れる。


「どれほど綺麗事を述べても! 神も人間も己が窮地に陥った際はなりふり構わず非情になる! 今の我のようにな! 魚神、お前こそ己の吐いた言葉の軽さに恥を知るが良い!」


 そう叫んだショウシは身体を預けていた柱に向かって噛み付く。

 すると柱は一噛みで大きくえぐれ、あっさりと折れる。更にその柱は高倉を支えていた足だったので高倉は大きくコウに向かって傾き始めた。


「なんだと!?」


 コウは高倉の倒壊に巻き込まれないよう、大きく後方へと跳躍する。

 その直後、高倉ははコウのいた場所に倒れ込み、辺りに粉塵を撒き散らした。


「なんて事を……しかし、一度噛んだだけで柱を壊すとはな。流石は鼠の歯といった所か……!」


 唖然としつつ、ショウシの歯の強さに警戒していたコウだったが突然背後から吹き付ける強風に違和感を感じる。

 夜風にしては強すぎる……かといって倒壊した際に起こった風圧にしては方向が逆であった。

 よく見ると風はショウシのいる方へ集まるように吹き、その風によって倒壊した木材や粉塵が集まっていく。

 ようやく、粉塵が晴れ始めた頃……コウはその風の正体を知った。

 ショウシが頬を大きく膨らませて息を吸っているのである。


「食らうがいい!」


 コウが視界に捉えたと同時にショウシも彼を視界に捉えた瞬間、ショウシは吸っていた息を大きく吐き出した。

 強烈な突風が一直線に向かってコウに放たれる。


「グッ……!」


 咄嗟に両腕で顔を覆うように突風を防ぐコウ。

 もはや吐かれた息は雪の無い吹雪と言っても過言では無い。

 だが、事は吹雪の方がまだマシであった。

 突風に混じって先程吸い込まれた木材が飛んできたのだ。


「ぐっ……ぐあぁぁぁー!!」


 流石のコウも木材までは防ぎきれず、勢い良く吹き飛ばされ高倉近くにあった家屋を破壊しながら突っ込んだ。


「フンッ、どうだ!」


 誇らしげに鼻を鳴らすショウシの先には壊された家屋があり、土埃に覆われている。

 やがて土埃が晴れ、中からは身体中傷だらけとなり木片が至る所に刺さったコウが姿を現した。

 木片が刺さった部分からは血が流れている。


「ぜぇ……ぜぇ……っ……随分なものをくれたな」


「気に入ったか? ならば、もう一度くれてやる!」


 ショウシはそう言って今度は燃えている高倉に向かって息を吸い始める。


「なら……やってみろよ」


 コウはそう言うと自身も荒御魂を解放し、眼を蒼色へと輝かせながら身体中を無数の魚鱗で覆い始めた。

 息を吸い続けるショウシの頬はどんどん大きくなる。

 そうして暫く息を吸い続けたやがて息を止めると自身の頬を両手で押し潰した。

 その途端、再びコウを襲った突風が彼に向かって迫り来る。

 今度は木片のみならず火事場の空気も含んでおり熱風と化していた。


「今度のは熱いぞ!」


「それがどうした?」


 ショウシの言葉を冷たく返したコウは家屋の中から水の入った瓶を見つけ、それを神力の紡糸に付けると瓶を自身に引き寄せて頭で割り、上から水を被った。


「水で冷やしただけでは耐えられぬぞ!」


「……冷やすのはテメェの頭だ」


 突風が当たると思われた直前、コウの姿がその場から瞬時に消えてショウシの背後に現れる。

 ショウシは目を動かす前に気配でその存在を知るが、驚きの声が出る前に身体中に激しい痛みが走るのを感じた。


「がっ……ガハッ!」


 ようやく、息を吐く間だけ許されたショウシであったが気付いた時には自身は宙に浮いており、その周りには倒壊した時に生まれた木材がまるで突き刺すようにショウシを待ち構えている。


「い、いつの間に―――」


「黙れ」


 皆まで言う前にショウシの下に現われたコウが自身が持っている一本の紡糸を力強く引っ張った。

 すると、それが合図であったかのように配置された木材は一斉にショウシを打ち、彼は声にならない叫びを上げて落下する。

 そんな彼を冷たい目で眺めたコウは再び紡糸を使い、ショウシを打った木材の内一本を手元に引き寄せるとそれを掴んで頭上で回した。


「うおぉりゃ!」


「ぐおぉあ!」


 回転を利用し、落ちてきたショウシを強く打ち飛ばすコウ。

 打たれたショウシは倒壊した高倉へと突っ込んだ。

 何も言わず無言のままそれを見つめるコウであったが……その瞬間、倒壊した高倉の中から一本の縄が放たれ、コウの首に巻き付いた。

 更に首に巻き付いた縄には獣の牙が付いており、縄が首に絞まる程にその牙が食い込む。


「くっ!」


「かはぁ……はぁ……はぁ……ごはぁ!」


 縄の先には頭から血を流し、口から血を吐くショウシの姿があった。

 コウは先程消した太刀を出そうとするも首の絞まる息苦しさと食い込む牙の激痛により意識が揺らぐ。

 ショウシもやっとの思いで立っているのか、その足は震えている。

 先にどちらが倒れてもおかしくない……そんな状況の中、燃えている高倉が突如として大きな音を立て始める。

 続いて、その中から一本の刀が飛び出してきた。

 ポイヤウンペの持つクトネシリカである。

 更に高倉がその形を保てなくなり、大きく崩れ始めた瞬間……その中からポイヤウンペと荒御魂を解放したネネが飛び出してきた。

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