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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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少年英雄の戦い

「父上! ッ……ここに居ては父上に迷惑が……」


 コウと対峙するショウシを見たネネはポイヤウンペを一瞥すると突如、燃え上がる高倉の中へと入っていった。


「どこに行きやがる! 待ちやがれ!」


 それを見たポイヤウンペも突き刺さっていたクトネシリカを抜き、炎に包まれた高倉の中へと入っていく。

 すると、入り口で待ち構えていたネネが中に入ってきたポイヤウンペに向かって牙の小刀を使い、襲ってきた。


「っと、いきなり手荒い歓迎だな!」


 寸での所で避けながらポイヤウンペは倉の奥へと移動しネネに対峙する。

 ネネは出入り口へ陣取り、ポイヤウンペを倉の中へ閉じ込めるように向かい合った。


「それで閉じ込めたつもりか?」


「いえ、でもここなら父上の邪魔をせずあなたと戦える」


「それについちゃ、同感だ。おれもここでならオジキの邪魔をせずにあんたとやり合える」


 炎の熱気が彼らの戦いに更に熱を注ぎ、空気を熱くする中……燃え尽きた倉の材木が一つまた一つと崩れ始める。

 そんな状況にも関わらずポイヤウンペは集中力を欠くことなくネネを睨みつけ、彼女もまた無言のままポイヤウンペを睨みつけた。

 そうして、少しの間睨み合いが続いた中、彼らは同時に動き出した。


「はあぁぁ!!」


 ネネはポイヤウンペに近付くと小刀を突き出し、胸元を狙う。

 彼はそれを躱し、クトネシリカを振るがネネは見切っているのか巧みに避ける。

 そんなやりとりがほんの僅かに続いた後、ネネはポイヤウンペのクトネシリカを持つ腕をその刀の刃が届く前に自身の腕で防ぎ、小刀を彼の額目掛けて突く。

 しかし、ポイヤウンペも咄嗟にネネの腕を掴み、額にその切っ先が届く寸前で止めた。

 それを見た彼女は防いでいただけの腕を返し、ポイヤウンペの腕を掴むと自ら床に向かって背を付け、彼を後ろへ投げ飛ばす。


「いっ……!」


 小さく呻きながら寝転がり、起き上がろうとするポイヤウンペだがそうはさせないとばかりに小刀を持ったネネが上から襲い掛かってきた。

 彼はそれを見ると起き上がるのをやめ、横へ一瞬転がって小刀を避ける。

 すると今度は反撃とばかりにそのまま身体を転がして戻し、ネネの顔目掛けて蹴り込んだ。


「きゃっ!」


 蹴られた衝撃で壁の隅へと飛ばされるネネ。

 ポイヤウンペはこの機を逃さないよう、すぐさま起き上がり彼女へ向かっていく。

 ネネも起き上がり、瞬時に周りを見渡すと自分に逃げ場がないことを悟る。

 だが、彼女はなぜか壁に向かって走り出した。


「もう逃げられねぇぞ!」


「ですが、諦めません!」


 あと僅かでポイヤウンペが追い付く……そんな時、彼女は足に力を入れ込み、壁に向かって飛んだ。そして、今度は壁を蹴り込んで後ろから来た彼の頭上を飛べ越えて逆に背後を取る。


「なっ!? 逆におれの後ろを……!」


「追い詰められた鼠は何をするか分からない……覚えていたほうが良いですよ?」


 驚きながら後ろへ視線を移すポイヤウンペにそう言うと、その背に向かって小刀を突き出した。

 形勢逆転―――そう思ったネネであったが、小刀が届く前に今度はポイヤウンペが彼女同様に床を蹴り込み、壁に向かって飛ぶ。


「なっ……ですが、私の背後を取った所で―――」


「おれはそんな小細工はしねぇ! 真っ正面から相手してやるよ!」


 ネネの言葉を遮ったポイヤウンペは身体を後方ではなく、角に隣接している壁に向かうようにして蹴り、次はその壁を蹴って無理矢理方向転換した。

 その後、背後を取ったネネと正面から向き力強く彼女を蹴り飛ばす。


「きゃあぁぁ!!」


 完全に油断し、防ぐ暇も無かったネネはそのまま飛ばされ、倉の中にある穀物の入った瓶を壊しながら床に倒れ込む。


「はぁ……はぁ……どうだ!」


 流石に疲れの色を見せ始めるポイヤウンペ。だが、それはネネも同様で口端から血を流し、荒く息を吐きながらもゆっくりと立ち上がった。


「はぁ……はぁ……人間の……子供にしては……はぁ……やりますね。仕方ありません……」


 暫くして息を整えたネネは眼を黒から灰色へと変え、荒御魂を解放しポイヤウンペを睨みつける。

 すると、彼女の身体全体が短い毛で覆われ、尻には長くて太い尾、更に両腕から両足に掛けて薄い膜のようなものが現れた。


「な、なんだそりゃ!?」


「私が解放した荒御魂の恐ろしさ……存分に味わうといい!」


 ネネはそう言うと高く跳躍してから両手両足を広げ、薄い膜を張ると太い尻尾を伸ばしそのままポイヤウンペ目掛けて滑空してきた。

 彼は転がりながら避けようとするもあまりの速さに遅れてしまい、その風圧によって飛ばされ壁に強く打ち付けられてしまう。


「がはっ! ……っ……くそっ! 思ったよりも速ぇな」


「まだまだ!」


 ネネはポイヤウンペが起き上がらない内に倉の中にある太い柱を難なく登り、梁に乗って陣取る。


「チッ!」


 舌打ちしたポイヤウンペはようやく起き上がると倉の中央へと移動して逆手にクトネシリカを構える。

 梁の上にいたネネはそこから飛び降り、再び膜を張ってポイヤウンペに襲い掛かった。


「今度はそうはいかねぇ!」


 ポイヤウンペは迫り来るネネに対してクトネシリカの刀身を見せた後、高く跳躍してネネの頭を打ち据えるように刀を振った。

 だが、ポイヤウンペに手応えは無い。見るとネネは伸ばしていた尻尾を下に降ろし、一時的に宙に留まってポイヤウンペの一撃を避けている。


「残念でした」


「ッ……クソがぁ!」


 大きく空振りし、隙だらけのポイヤウンペに向かってネネは滑空を再開して彼の懐目掛けて勢い良く突進した。


「かっ……はっ……!」


 大きく息を吐き出され、突き飛ばされたポイヤウンペは強く壁に叩きつけられてその場に座り込む。

 ぶつかった衝撃で倉全体が軋み、それに呼応して燃えている倉の骨組みが幾つか落ちる。


「この倉と共に命を散らしなさい」


 薄く笑うネネに対し、歯を食いしばりながらポイヤウンペは睨みつけた。

 そしてゆっくりと立ち上がる。


「……まだやる気?」


「当たり前だろうが、ようやく楽しくなってきたんだ。おれの不甲斐なさで終わらせてたまるかよ」


 口の中に溜まっていた血を無造作に吐き捨てたポイヤウンペはなぜか近くにある太い柱に向かって走り出した。

 それを見たネネもすぐさま柱を登る。

 一歩、二歩、三歩と太い柱を飛ぶように駆け上ったポイヤウンペは三歩目で大きく跳躍し、片手で梁を掴む。そうして、そのまま腕に力を込めて一回転すると梁の上に乗った。


「さぁ、来いよ」


 登ってきたネネと対峙したポイヤウンペはそう言うとクトネシリカを逆手に構えた。

 その様子にネネは訝しげるものの、満身創痍な彼の状態を見てすぐに跳躍して膜を広げ、滑空して行った。


「これで終わりよ!」


「まだ終わりじゃねぇ!」


 ポイヤウンペはネネに向かって梁の上を駆け出す。

 距離は徐々に狭まる……このまま突っ込むか、それとも一時留まり様子を見るか。

 考えを巡らせるネネだったが、ポイヤウンペの目の前まで来た瞬間……彼が身体を大きく後ろへ引いたのを見て考えをまとめた。

 ―――刀を振る。

 そう判断し、咄嗟に尾を下にして宙で留まるネネ。

 ポイヤウンペはネネの髪を掠めて目の前でクトネシリカを振る。


(もらった!)


 決した、と思ったネネは襲撃の準備を再開するもその瞬間、彼が笑みを浮かべていることに気付いた。

 ポイヤウンペはネネが襲い掛かる寸前に振ったクトネシリカを縦にして梁に突き刺した。


「なっ!」


 図られたことに気付いたネネであったが、もう止められない。

 そのまま刃に当たらないよう柄に向かって突っ込んだ。


「ぐっ……!」


「そのまま斬るつもりだったんでしょうけど……無駄よ!」


 追突した衝撃でクトネシリカを持っているポイヤウンペの身体が宙に浮き上がる。

 けれども、彼の狙いはネネを斬ることでは無かった。


「残念だったな。これはお前を斬る為じゃねぇ……こうする為だよ!」


 そう叫んだポイヤウンペは柄を持っている手に力を入れ、浮いていた身体を戻すとそのままネネに向かって膝による蹴りを打ち込んだ。


「がはっ……!」


 打ち込まれたネネが体勢を崩したのを見たポイヤウンペは梁に着地すると跳躍してネネを床目掛けて蹴り落とした。


「ぐっ……はぁ!」


 床に叩きつけられたネネ目掛け、ポイヤウンペは梁に突き刺していたクトネシリカを抜くとそこから飛び降りて刀を振り降ろす。

 ネネは軽がりながら辛くもそれを避けると立ち上がった。

 その直後、クトネシリカを抜いた為か梁に亀裂が入り始める。

 けれど、ポイヤウンペはそれを気にせずクトネシリカをネネに向かって振った。

 彼女はそれを当たる寸前に防ぎ、そのままポイヤウンペの腕を掴むと引き伸ばして肘目掛けて思いっきり手を打ち付ける。


「クッソ……!」


 疲労と打たれた衝撃により思わずクトネシリカを離すポイヤウンペ。

 ネネはその落ちていくクトネシリカを思いっきり蹴飛ばした。

 蹴られたクトネシリカは回転しながら火事で脆くなった倉の壁を突き破り、外へと放り出される。

 すると、それが最後のきっかけとなったのか亀裂の入った梁は完全に折れ、倉は崩れ始めた。

 その間にポイヤウンペはネネの首元に蹴りを入れ、怯んで彼女が腕を離した隙に離れると外に放り出されたクトネシリカ目掛けて駆け出す。

 ネネもそれを見て駆け出し、彼らが倉の外に出た瞬間……高倉は音を立てて崩れ落ちた。




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