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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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神と人間の共闘

「くっ……万事とは上手くいかぬものよ。ネネ、策は失敗した。今はお前だけでも……」


「嫌です!」


 構えるコウとポイヤウンペを見たショウシはせめて己の娘だけでも逃がそうとこの場から離れるようネネに伝えたが、ネネはそれを頑なに拒み、代わりに獣の牙で出来た小刀のようなものを取り出し、戦う意思を見せる。


「ここに来る前、私は命を賭すことを決めました。その覚悟をここまで来て捨てろというのですか! ……相手は神がいるとはいえもう一人は人間の子供、先程は不意を突かれましたがもう遅れは取りません!」


「言ってくれるじゃねぇか……良いぜ、ならおれの相手はあんただ。オジキ、あのデカい奴は譲るぜ」


「あぁ。……クジはここから離れて長達の所に戻るんだ。そしてアイヌラックル……いや、オキクルミに人間達へ指示を出すよう俺が言っていたと伝えてくれ。こんな時に上手く人々を使えるのはあいつしかいない」


「うん、分かった。……コウ神様、ポイヤウンペ君気をつけてね」


 クジはそう声を掛けると長やヤタ達がいる方へと走る。

 それを見送ったコウはようやく肩の荷が降りたような気がした。


「さて……これで存分にやれるな」


「ナメおって……なら、同じ国津神の流儀にて相手をしよう」


 ショウシはそう言うと眼を黒から灰色へと変化させる。娘のネネも同様だ。

 そして、彼らは二手に分かれてゆっくりとコウとポイヤウンペの周りを歩き始めた。

 すると、彼らの身体が二重になって見え、次第にそれは完全な二柱に分かれる。


「……なるほど、分身わけみか」


「オジキ、こっちもだ」


 ポイヤウンペの声に目を向けるとネネの姿は三柱に分かれていた。

 それを確認し再びショウシを見ると彼は四柱に……更に数を増やしている。

 分身とはまたの名を分霊ぶんれいとも言い、神の神霊を無限に分けることを指す。

 分身によって生まれた神々は元の神より劣ることはあるものの、その姿や神力をそのまま受け継ぐ。

 本来は上位に位置する神々のみが使うことの出来る神技だが、ショウシ達はそれを己の荒御魂によって再現しているらしい。

 その証に彼らは分身を五体までしか生み出さなかった。


「鼠は小さく弱い存在だが、その恐ろしさは力にあらず数にあり……」


「どれほど強大な者でも数に呑まれればそれまで……私達の攻め、受け切れますか?」


 こうしてそれぞれ五柱ずつに姿を分けたショウシとネネは円を描くようコウとポイヤウンペを取り囲む。

 彼らは互いの死角を補うように背中合わせとなってショウシとネネに対峙した。


「ほう……随分と増えたな」


「だが、おれ達を相手にするには少しばかり数が足りないぜ……なぁ、オジキ?」


「フッ……そうだな」


 追い込まれたような状況にも関わらずコウとポイヤウンペは口元に笑みを浮かべる。

 それを見たショウシとネネは自分達が追い込んでいるにも関わらず、追い込まれたかのような感覚に襲われた。

 顔に冷や汗が流れる。


「減らず口を……行くぞ!」


 五柱のショウシはそう言うと手に持っていた獣の牙が幾つも連なった縄を彼らに向かって投げた。

 縄は周囲の五方向から放たれ、コウとポイヤウンペの頭上に蜘蛛の巣の如く張り巡らされる。


「こっちも行くぜぇ!」


 それを見て最初に動いたのはポイヤウンペであった。

 彼は地を蹴り、目の前に居る一柱のネネに向かって走り出す。


「あまり先走るなよ!」


「大丈夫だって!」


 コウの注意を聞いてか聞かずか軽く返事をしてポイヤウンペはクトネシリカを構える。

 すると、周囲にいた他の二柱のネネが左右から飛び出し、ポイヤウンペは縄の包囲をくぐり抜けたものの瞬く間に一人で三柱の相手をすることとなった。


「……言わんこっちゃないが、まぁ大丈夫だろう」


「お前は逃げなくて良いのか? 我の縄がお前を捕らえるぞ?」


「逃げる必要はねぇ。俺は年長者のやり方でいく」


 太刀を構えたコウは僅かに前に出て、始めに正面から来た縄を手元に絡め取るとそれを筆頭に次々と縄を絡め取っていく。

 そうして五本の縄がコウの太刀と両手を縛るように絡め取った。


「わざわざ捕らわれたのか?」


「いや“捕らわれた”のはお前の方だ」


「なに?」


「暴れ者相手にこのような捕らえ方は……利口じゃないな」


 馬鹿にしたように笑っていたショウシが訝しげな表情になった途端、コウは縛られた状態の手元を頭上へと高く掲げ、身体全体を動かすように勢い良く回し始めた。

 それに釣られて、縄を持っていたショウシ達の身体も動き始める。

 一方、ポイヤウンペの方は一柱のネネの目の前に来ると足を前に出し、身体ごと滑り込ませてネネを転ばそうとしていた。


「その程度!」


 ネネはそれに対し跳躍してポイヤウンペの頭上を通り避けようとするが、彼女がポイヤウンペを飛び越えた瞬間、彼は持っていたクトネシリカを地面に刺してそこを軸に向きを反転させ、着地しようとしたネネを転ばせた。


「くっ!」


 転んだネネは勢い良く地面に叩きつけられるが、それと入れ替わるようにようにして今度は左右から飛び出していた二柱のネネが襲い掛かる。

 ポイヤウンペはそれを見てすぐさま起き上がり、突き刺したクトネシリカの柄を足場にして宙へ高く飛んだ。

 二柱のネネの牙の小刀がポイヤウンペが先程いた場所で交差する。


「うおっ、危ねぇ……!」


 宙で見下ろすようにその光景を目の当たりにするポイヤウンペだったが、彼は咄嗟に何かに気付いて周囲へ気を配る。

 安心したのも束の間……まだ残っていた二柱のネネが宙に浮いているポイヤウンペ目掛けて来たのだ。


「もう身動きは取れない筈……」


「覚悟!」


 それぞれ小刀を突き出すネネ達だが、そんな彼女達に対して彼は不敵な笑みを浮かべて足を突き出し、襲ってきた内の一柱のネネを下に向かっていち早く蹴り落とした。


「かはっ!?」


 そうして蹴った反動で身体を回しながら小刀を躱し、もう一柱のネネを捕らえた。

 蹴り落とされたネネは先程下で襲っていた二柱のネネに向かって墜落する。


「なっ!? なにを―――」


「こうするんだよ!」


 全てを言い終わらない内にポイヤウンペはネネを掴んだまま身体を勢い良く回して地面に向かって投げつけた。

 目を回す三柱のネネに向かって、更にもう一柱のネネが追い討ちのように叩きつけられ、四柱のネネ達は言葉も出ない悲鳴を上げてその場から消え去ってしまう。


「くっ……分身が……!」


「やっぱり、最初に攻めて来たあんたが元か……どうりで他は動きが単純だった訳だ」


 地面に降り立ったポイヤウンペは始めに転ばせたネネを見る。

 ネネは悔しそうにポイヤウンペを睨みつけるもすぐに立ち上がった。


「いいねぇ。そうこなくっちゃな、つまらねぇ遊びは終わりにして……そろそろ本気でやろうぜ?」


 ポイヤウンペとネネとの戦いが一旦の区切りを見せた頃、コウは未だにショウシ達を回し続けていた。

 この頃にはもうショウシ達は宙で旋風のように舞い上がり、コウの周りにも実際に風が巻き起こっていた。


「おらおらおらッ! どうした!」


「くそっ……なんという力だ! 抑えることが出来ん!」


「むっ? ポイヤウンペはもう分身を倒したか……なら、こちらも戯れは終わりとするか」


 コウは回しながら自身の手元と太刀を縛っている縄の上に更に紡糸を巻くように重ね、宙でショウシ達を一つにまとめる。

 そして、太刀の刃を縄に当て、それを切るとショウシを投げ飛ばした。


「ぐわあぁぁ!!」


 投げつけられたショウシは強く地面に叩きつけられ、その衝撃で彼の分身も娘同様に煙のように消える。

 それを見たコウは手元で縛られている縄を力を込めて引き千切った。


「すぐに縄を離せば良かったものを……分身の宴は終わりだ」


「ッ……! お前こそ、そうやってすぐに縄を解けば良かったものを……」


「言った筈だ。俺は年長者のやり方でいく、とな……さて、まだやるか?」


「フッ……これくらいで引き下がると思ったか? 甘いぞ!」


 そう叫びながら短くなった縄を持ち直し、立ち上がるショウシを見てコウもまた静かに太刀を構えた。


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