御佩刀の嵐舞
「さては……お前は天津神だな」
「いや、違う」
コウに剣を向ける四柱の国津神達……けれど、落ち着いているのは彼らではなくコウであった。
「隠しても無駄だ」
「元より隠しているつもりは無いが……お前らがそう言うならそれでも良い」
「なに!?」
「……結局、行き着く先は同じだろう? 俺が天津神でなければお前らは納得しない……なら、それで良い。つまらん言い合いで時を稼ぐな。来るならさっさと来い」
「ふざけおって……なら、望み通りにしてやろう!」
国津神達の内、一柱がコウに迫って剣を振るう。
それに対し、コウは身体を僅かにずらして剣を避けると下から斬り上げるようにして太刀を振った。
迫ってきた国津神は身体から血煙を上げ、その場に倒れる。
あまりにも一瞬の出来事に国津神達だけでなくヤタ達も驚いて言葉を失ってしまった。
「……さぁ、次は誰だ? それとも、全員で来るか?」
「頭に乗りおって……! ならば、お前から先に裁いてやる」
三柱の国津神達は剣をちらつかせながら、一斉に襲い掛かる。
コウはそれを見て太刀を正面に向け、構える。
そして、最初に来た者の剣を太刀の柄で弾くとその出来た隙を逃すまいと太刀を横に振り、斬り捨てる。
「がぁ!?」
更にそのまま、次に来た者の剣を太刀で受け止めると円を描くように上から下へと回して動かし、剣を弾き上げた。
無防備となる国津神……コウはそんな彼を斜めに斬り伏せる。
「ぐほぁ!」
最後に残った国津神はやけになりながら剣を振るうが、そんなものが当たる筈も無く……逆に剣を叩き落とされた挙げ句、コウが放った跳躍からの太刀の振り下ろしに敢えなく散ってしまった。
「ぎゃあ!」
声を上げ、力なく倒れる国津神……今、この場に立っているのはコウとヤタとセキレイのみとなっていた。
「す、凄い……あの神々をたった一柱で……」
「あなた様は……一体……」
恐る恐る尋ねるヤタにコウはフッと笑いながら、答えた。
「俺は……お前やこいつらがさっき言っていたミズチの友、魚の神の虹だ」
「なっ!? じゃあ、新しい国津の長になられるあの………とんだご無礼を!」
コウの正体を知り、慌てて平伏すヤタとセキレイ。
だが、本当に慌てたのはそんな二柱を見たコウだった。
「おい、よせ。俺は頭を下げられる程の奴じゃない。それにそんな事をしたら痛みに障る……良いから楽にしろ」
「しかし、助けて頂いた上にそのような態度を取るわけには……」
「武の要は無道を討つにある……武とは本来、道を切り開く為のもの…それを道を閉ざす為に使ったこいつらを裁いただけの話し、礼を言われる筋合いは無い」
毅然とした態度で言い放つコウにヤタとセキレイはそれぞれ見惚れたかのように、動かなくなる。
「……セキレイ、と言ったか?」
「は、はい」
「ヤタは良い奴だ。自身を省みず、与えられた任を行おうとする者はそうはいない。だが、いつかその任の重さに耐えきれず、挫ける時もあるだろう……そんな時はお前が常に傍に居て見守ってやるんだ。それだけでも、十分な支えになる。……間違っても、囚われたからといって自分が非力だ、とは思うな」
「……っ! はい!」
口元を押さえ、涙ぐむセキレイを見たコウはその肩を優しく叩き、二柱に背を向けた。
「……夫婦共々、末永く健やかにな」
「お待ち下さい! ここまでして頂いて、何もしないまま帰す訳にはいきません!」
だが、そんな背に向かってヤタが叫ぶ。
そんな状態のヤタをセキレイが支えた。
「私ども、夫婦は鳥の神……コウ様が助けたと思わなくとも私どもが恩義を感じたのならば、礼をする……それが鳥の神です」
「……ならば、その恩は取って置いてくれ。俺はすっかり酔いが醒めたからまた飲み直しに戻る……まぁ、また何かあったらいつでも訪ねてきてくれて構わない、遊びに来る分でもな……」
ヤタ達の誇りを尊重しながらも、あくまで恩を売ろうとしないコウを見たヤタとセキレイは去って行く彼に対し、その姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。
「ありがとうございました」
「……この御恩、決して忘れません」
そんな二柱の見送りに対し、コウは頭を掻きながらその場を去って行った。