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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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ポイヤウンペの本気

 クトネシリカを逆手に持ったポイヤウンペに対して、コウは警戒する。

 太刀を振るにはあまりに困難で、中つ国本土ではあまり見られない構え……それ故に異質とも言えるが、異質なものほど何が来るか分からない。

 太刀を握る手に力を込め、ポイヤウンペが間合いに入って来た瞬間……コウは太刀を振り下ろした。

 ポイヤウンペはコウの太刀を避ける訳でもなく、先程と同じようにクトネシリカで受け止める。

 だが、コウはそれに違和感を覚えた。

 ポイヤウンペとの距離が先程とは違い、近いのだ。

 そして、それに気付いた途端……コウの腕に浅い傷が付いた。

 ポイヤウンペはいつの間にかコウの後ろへ来ており、彼に蹴りを入れる。

 その足は振り返ったコウの腹部を捉え、彼を海に向かって蹴り飛ばした。

 守る間も無く、蹴られたコウは水飛沫みずしぶきを上げながら海へ落ちる。


「コウ様!」


「なんと……!」


 見物していたヤタは思わず叫び、シオツチは言葉を失った。

 どんな相手に対しても僅かに遅れを取ったり、窮地に追い込まれたことはあったが、それは相手が複数の神々であった時である。

 そんなコウが人間の……しかも子供に背後を取られたことにヤタとシオツチは衝撃を受けた。

 これがアイヌ……中つ国の本土とほとんど関わりを持たない者達の力―――ヤタは彼らの力の一端を知り、息を呑む。

 そんな二柱の国津神とは違い、アイヌラックルは実に落ち着いていた。

 ポイヤウンペの力を知っているから、というのもあるがコウが彼に蹴飛ばされたことについても顔色一つ変えない。


「オキクルミ殿……随分と落ち着かれておりますな」


「えぇ、まぁ……ポイヤウンペの力を知っているというのもありますが、コウさんとの付き合いはそれ以上にあるので……」


 そう応えると共にコウが海から勢い良く顔を出した。その顔はどこか楽しそうである。


「本気になっているか、戯れているか……その違いが分かるんですよ。そして、ポイヤウンペはコウさんを本気にさせることが出来るのか……俺自身もそれを見たいんですよ」


「コウ殿の本気ですか……」


 コウの本気を見てみたい……それは暗にコウが本気を出せばポイヤウンペは必ず更生出来るとアイヌラックルは言っているのだ。

 確かに、今のコウからは琉球での戦いの際に感じたような殺気はなく、ポイヤウンペと遊んでいるようにも見える。

 そんなコウが本気を出せばポイヤウンペはどうなるのか?

 シオツチやヤタもアイヌラックルの言葉を聞いて、それを見てみたくなってきた。

 一方、そんな見物者を余所にコウはポイヤウンペのあの構えから考えを巡らせていた。

 守りに徹し、相手の懐に入りやすい逆手の構え……そして、痛みは無いものの人間の大人より体格の良いコウをあっさりと蹴飛ばす健脚けんきゃく……そこから導き出せることは一つ。


(確かめてみるか……)


 海水の中で持っている太刀を僅かに煌めかせるコウ。

 すると、太陽の光が太刀の刀身に当たり、反射した光は海水を通して照りつけるような光をポイヤウンペの顔に当てる。


「っ!」


 あまりの眩しさに顔を一瞬背けるポイヤウンペだが、途端に影が顔を覆ったことに気付いて目を開けた。

 すると、そこには今にも太刀を振り下ろさんとするコウが目の前にいる。


(なっ!? 速い!)


 ポイヤウンペは咄嗟にクトネシリカを振って受け止めるが、反応が遅かった為かかなり押された状態で組み合ってしまった。


「ぐっ……ぎ……!」


「よく気付いたな。流石だ」


 徐々に身体が後ろへ反れ始め、受け止めることすら困難になるポイヤウンペ。

 彼は咄嗟にコウの太刀を握っている腕目掛けて、もう一度蹴り込んだ。

 コウの腕に刃を合わせた時以上の重みと衝撃が走り、彼は思わずその手を離す。

 それを見たポイヤウンペはその隙を逃すまい、と再びクトネシリカを砂浜に突き刺し、それを支えに僅かに跳ねてコウ目掛け両足で強く蹴った。


「ぐっ……!」


 これにはさすがのコウも効いたのか、苦痛に顔を歪ませ後方へ飛ばされ倒れる。

 ポイヤウンペは刺していたクトネシリカを抜き、とどめの一撃と言わんばかりに倒れたコウへ飛び掛かって突き刺そうとした。

 しかしコウは身体を横へ転がし、寸での所でクトネシリカを避けるとその転がった反動で今度は戻り、拳の甲でポイヤウンペの顔面を殴りつける。


「がっ! ……っ~!」


 顔を押さえながらよろけるポイヤウンペを見ながらコウはようやく起き上がった。


「……弓でも剣でも拳でも無い。お前の本当の攻めは足か」


「へへ……おっさん、よく分かったな」


 手よりも足に力が入る、身軽な身体の動きに合わせた攻め……小柄な子供が大人を相手にするにはこれ以上の戦術は無いだろう。

 コウは密かに感心していた。ただの悪童ならともかく、ポイヤウンペっは戦において才がある。

 けれども、才とはあくまで磨くことにより光るのであって、多くの神々を倒して慢心しかけてはその優れた才も曇ってしまう。

 輝きとは汚れてから磨くことで更に輝きを増すもの……そして、才とは挫折と失敗を繰り返して伸ばすもの。

 コウは決心した。

 本気でやり、ポイヤウンペに挫折を教える……それが自身の務めであると。


「まぁな、長いことただ喧嘩や戦ばかりしていた訳じゃねぇさ」


「へぇ~、だけどそのワリにはおれに押されてるじゃんか」


「フッ……そうだな。じゃあ、お前が本気を出してくれた礼に……」


 そう言いながらコウは太刀を砂浜に深々と突き刺す。

 その行動にポイヤウンペは首を傾げた。


「なんだよ。負けでも認めるのか? ちぇ、せっかく楽しめそうだと思ったのに……」


「いや、代わりに……俺も敬意を称し、本気を出そう」


 その途端、コウの姿は太刀をその場に残したまま姿を消した。



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