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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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荒くれ者達の共演

 ポイヤウンペは自身の矢が躱されたことに納得がいかなかったのか、続けて何本もコウに狙いを定めて放つ。

 しかし、そのどれもが外れてコウとの距離は段々と短くなっていった。


「大した矢だな。当たれば、だが……」


「クソッ!」


 弓矢では太刀打ち出来ないと判断したのか、ポイヤウンペは弓を放り投げて腰に帯びているクトネシリカを抜いた。

 その刀身は銀色に輝き、見る者を魅了する美しさを持っている。

 だが、元の所有者であるコウはその刀身に魅了されない。


「お前の持つそれは子供には扱いきれない物だ。悪いことは言わない……今すぐ、それをお前のオヤジに返すんだ」


「はぁ? 扱いきれないだって? こんなエムシ誰でも使えるっての!」


「やれやれ……若い奴は恐れを知らないな。……まぁ、俺もそうだったから他人のことは言えないか……」


 溜め息を吐くコウを見てポイヤウンペは憤慨する。

 彼はコウが自分のことをバカにしたと思ったのだが、コウからすればポイヤウンペをバカにしたつもりは無い。

 寧ろ、ポイヤウンペの力を認め、いよいよ本番かと一息吐いたのだ。

 神は越えられぬ試練を人間に与えない。越えられる試練だからこそ人間に与える……それはどの神にも関わらず、全ての神が行う務めであり、コウも例外では無い。

 だが彼はその務めが苦手であった。

 人間と共に暮らし、人間と共に働く……いうなれば、一番人間と近しい位置にいるコウは人間の気持ちがよく分かるのだ。

 ―――なぜ、頑張っている人間に更に辛い試練を与えなければならないのか?

 神として人間と関わり始めた頃、コウはそう思っていた。

 そして、それが神にとって本当に助けるべき人間なのかを見極める為に必要なことだと後ほど知ったのだが、それでもやはりコウは“試練を与える”という務めが苦手であった。

 人間に恵みをもたらす力を持った神なら重要なことかも知れないが、コウの神力は“紡ぐ”もの……間接的な恩恵を与えるのではなく、コウ自らが直接手助けするものであるからだ。

 そんなコウが悩みを抱える人間の少年の試練として今、相手をしている。

 本来は更に頭を抱えるべき状態なのだが、今回ばかりは違っていた。

 まず、相手が強いこと。神をも下す少年……いや、人間が相手とはいえ、強いならば手を抜く必要は無い。

 そして、もう一つとしてそれが悪童であるということ……これだけで十分であった。

 相手が人間の子供であれ大人であれ、男であれ女であれ神であれ……認めたら対等に相手をする。それがコウの考え方だ。

 更に根本的に……国津神は争いを好む。その血が意識せずともたぎるのだ。


「久し振りの喧嘩だ。お互い派手にいこう」


「お前、バカにするのもいい加減にしろよ……行くぞ!」


 ポイヤウンペはクトネシリカを構えて猛然とコウに向かって行く。

 コウは内心で考えを巡らせるも取り敢えず、神力の紡技により手に太刀を宿らせてクトネシリカの一撃を防いだ。

 それを見たポイヤウンペは一瞬、苦い顔をするもすぐさま二撃、三撃とクトネシリカを打ち込む。

 その度にコウも器用にその刃を防いで、一進一退の攻防が繰り広げられた。


「守ってばかりで勝てるのかよ!?」


「そう言うお前こそ、そんな生温い攻めでよく国津神を倒せたな?」


「ロクに攻めても来ない奴に言われたくねぇよ!」


「なら望み通り、そろそろ攻めるとするか」


 そう宣言するとコウは振り下ろしてきたポイヤウンペのクトネシリカを受け流し、彼の背後に回り込んで横薙ぎに振る。

 だが、ポイヤウンペは振り下ろしたクトネシリカの切っ先をそのまま海岸の砂浜に刺し込み、身体を宙に浮かせてコウの太刀を受け止めた。

 そして、そのまま身体が戻る反動を利用して太刀を弾き返す。


(もらった!)


 太刀を弾かれ、ガラ空きとなったコウの胴体目掛けてポイヤウンペはクトネシリカを突く。

 けれども、コウは咄嗟に上がった腕を下げ、太刀の柄で辛うじて受け止めた。


「なに!?」


「……なかなかやるじゃねぇか。今のは少しばかり焦ったぜ」


 切っ先と柄をガチガチと鳴らしながら、顔を近付ける一人と一柱……その顔には笑みが見えていた。


「おっさんこそ……今のおれの攻めを受け止めるなんてな」


「……良い顔してるじゃねぇか。やっぱり、お前も俺も似たもの同士って訳だな」


 短い会話を終え、太刀を弾き合って互いに距離を取る。

 そんな彼らの戦いを神々は固唾を呑んで見ていた。


「す、すごい……」


「ほっほっほ! やはり若いとは良いですなぁ!」


「ポイヤウンペが笑っている……今まで怒ってばかりで暴れていたあの子が……」


 それぞれ思い思いの言葉を口にする神々だが、その声はコウとポイヤウンペには届いていない。

 彼らは戦いを楽しんでいた。


「へへっ、おっさんすげぇな! ここまで強い奴は初めてだ!」


「そうか、それはなにより……なら、お前の全てを俺にぶつけろ! その程度じゃ俺は倒せないぞ!」


「上等!」


 コウに応えて叫ぶポイヤウンペはクトネシリカを今度は逆手に持ち直し、再びコウへと向かって行った。


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