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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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対峙する荒神

「全滅……だと?」


「はい。ここから南へ行った所にあります岬にて大勢の国津神達が倒れているのを発見しました」


 ヤタからの知らせを受けたコウは言葉を失いつつも、その岬へと向かう。

 もし、国津神達が来たら戦うことは確実と思われていた矢先……まさか、全員が倒されるとは思っていなかったのだ。

 岬へはここからほど近い場所にある。

 幾度もの波に削られ、断崖絶壁となっている岬には遠くから見ても何柱もの国津神が倒れていた。

 ある者は斬られ、ある者は矢に当てられ……凄惨な有様となっている。


「……全員、死んだのか?」


「いえ……辛うじて息があるみたいですが、もう戦えないでしょう。一体何者が……」


 ヤタの問いにコウは内心で答える。

 ―――ポイヤウンペだ。

 どうやら、噂の悪童は思った以上に強いらしい。

 これは思った以上に骨が折れそうだ。


「コウ殿!」


 コウがそんなことを考えていると後ろからシオツチの声が聞こえてきた。

 彼には今回の策のことをアイヌラックルに伝え、連れてきてもらうよう頼んだのだ。

 その為、隣にはアイヌラックルが立っている。


「コウさん……これは一体……」


「俺達も今ここに着いたばかりだ……」


 コウ同様、あまりの光景に言葉を失うアイヌラックル。

 コウはそんな彼の肩を叩いた。


「とにかく、岬へ行こう。まだ、ポイヤウンペがいるかも知れない……」


「……ッ! いえ、コウ殿。どうやらその必要は無いみたいですぞ?」


 シオツチは何かを感じたのか背後を振り返ってコウに伝える。

 コウもそれに応えるように背後を見た。

 海岸の森から誰かが出て、こちらに近づいて来る。

 それは水色の髪をした少年であった。

 アイヌに伝わる民族衣装のアットゥシ(樹皮で出来た衣服)を身に纏い、頭にはマタンプシ(鉢巻)、首にはタマサイ(首飾り)を下げ、腰には見事な装飾が施された木目の鞘に納めた太刀と矢筒を帯びている。そして、手には弓を携えていた。


「ポイヤウンペ! お前、何をしているんだ!」


 それを見た瞬間、アイヌラックルは少年に向かって叫ぶ。

 どうやら、彼がポイヤウンペのようだ。


「何って……オヤジの言っていた本土サモロモシリカムイを探しに来たんだろうが」


「だからと言ってあんなに大勢の神を倒すなんて……」


「オヤジの言っていた神ならおれになんてやられる筈無いだろ? だから、おれは片っ端から神々を相手に戦い続けたんだ。けど、どいつもこいつも話しにならねぇ。やっぱり、オヤジや皆が言っていたようなカムイなんていなかったんだ……」


 ポイヤウンペとアイヌラックルのやりとりをコウは黙って見ていた。


「誰も本気でおれの相手をしてくれる奴なんていない…………皆は怖がり、オヤジはおれを止める時だけしか動いてくれない……おれは一人なんだ。だったら、アイヌモシリにはおれの居場所が無いのと同じだろ!? だから、おれは本土シャモに来たんだ。親父の言ってたカムイならおれの相手をしてくれるって……だけど、大して意味なんて無かった」


「ポイヤウンペ……」


 人間でありながら神さえも凌駕する人間……大人なら英雄とまで称される程の力は、まだ幼い少年が持つにはあまりにも強すぎることだろう。

 強さとは孤独……それは持つ者にしか分からない苦悩だ。

 アイヌラックルはポイヤウンペに何と言って良いのか分からず、声を掛けられずにいた。

 そんな中、静観していたコウはポイヤウンペの顔に落胆の色があるのを感じ取り、歩み寄る。


「コウさん」


「……誰だよ、おっさん」


「おっさん、か……俺もそういう風に呼ばれるようになっちまったか」


「誰だって聞いているんだよ!」


 興奮気味にポイヤウンペは持っていた弓を構え、矢筒から矢を一本抜くとコウに向かって放った。

 コウは臆せず、真っ直ぐにポイヤウンペを見つめたまま身体を僅かに反らして矢をかわす。


「なっ!?」


 躱されたことに驚いたポイヤウンペは思わず後ずさる。


「良い腕だ。だが、いきなり放つのは感心しないな」


「だ、誰なんだよ……お前は!」


「俺か? 俺は荒神だよ。ただのな……」


 そう言って、コウは口元に僅かな笑みを浮かべた。


「……止めなくてもよろしいんでしょうか?」


 そんなコウの様子を見たヤタは恐る恐るヤタとアイヌラックルに尋ねる。

 彼らはフッと軽く息を吐いた。


「やめろ、と言った所で止めないでしょう。それにコウ殿はどこか今回のことを楽しみにしていたように感じます」


「コウさんも喧嘩が好きですからね……何か通じ合うものがあったんでしょう。今は少し見守ってみましょう」


 そう言われたのでヤタも黙って見守る。

 一方のアイヌラックルは見守ると口にはしていたものの、止める気は全く無かった。

 寧ろこうなるであろうと心のどこかで思っており、同時にコウならポイヤウンペの苦悩を晴らすことが出来るだろう、と確信にも似た考えを持っている。

 アイヌラックルは自身の認めた神にポイヤウンペの相手を託した。



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