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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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別の来訪者

「コウ神様、また来てくれたんだね!」


「あぁ、約束は守るさ。クジも元気そうでなによりだ」


 集落に着いたその夜、コウ達はクジの家で休息も兼ねて滞在していた。

 訪問した時はクジもいきなりのコウの来訪に驚いていたが、すぐに彼らを中に入れて集落中の人々に知らせて回った。

 今夜はその人々がコウが戻ってきたお祝いとして、様々な貢物を持ってきたのでご馳走である。


「はりきって作るからね!」


 クジは先程から気合を入れて多くの料理を作っていた。

 粟や稗の穀物、獲れたばかりの鹿の他に山に実る様々な果実、麦を練って作られた物など……この山間では贅沢な物が並んでいる。


「クジ殿はこの家に一人でお住いで?」


「あぁ。クジの親はあの子がまだ赤子の時に亡くなってな……少し前まではこの地の長が育てていたんだが……」


「今はもう一人で大丈夫だよ! 私だって育っているんだから!」


 えへん、と言わんばかりに胸を張るクジが来た所でコウ達はようやく食事に手を付けた。

 そして、彼女にこれまでの経緯を話し、これからのことについても語った。


「……そっか、コウ神様はまた遠くに行っちゃうんだ」


「あぁ。だけどまたここには来るさ」


「うん、そうだよね。コウ神様は言ったことはちゃんと守ってくれるから……でも、コウ神様」


 クジはそう言葉を止めてからヤタとセキレイへ視線を向ける。


「コウ神様は一体いつになったらお嫁さんを連れてくるの?」


「ッ!? ゴホッ! ゴホッ!」


 水を飲んでいたコウはクジの言葉を聞いて咽せ込んだ。

 それにはヤタとセキレイとシオツチまでもが目を丸くする。


「いきなり何を言い出すんだ、お前は……」


「だって、コウ神様の周りの神様は皆、夫婦になっているのにコウ神様ときたら……作る気無いの!?」


「皆とはなんだ……皆とは……まだヤタ達しか見ていないだろう!?」


「ヤタさん達だけじゃないよ。この前だってこの土地にコウ神様を尋ねに夫婦の神様が来たんだから!」


 はて、とコウは首を傾げた。

 ヤタ達は確かにこの前ここを尋ねてきたらしいが、他にも誰か尋ねてきた者がいるらしい。


「クジ、誰なんだ? その神は?」


「えーっと確か……オキクルミさんっていう神様とその奥さん。コウ神様へはアイヌラックルが来たと伝えてくれ、って」


 オキクルミとは以前アイヌモシリで出会ったアイヌラックルのもう一つの名である。

 彼は中つ国に来た時や初めて会う者に対してはこの名を使うらしい。

 そのアイヌラックルがここに来たということは何か急を要することがあったのだろうか?


「アイヌラックル……いや、オキクルミは他に何か言っていたか?」


「うん。何か『もし、ポイヤウンペという少年が来たら知らせてくれませんか?』って言ってたよ」


「ポイヤ……ウンペ?」


 全く心当たりが無い……コウは内心、困惑していた。

 名前を聞く限りでは恐らくアイヌモシリの出身だろうが……アイヌ滞在中でもコウはそんな少年と会ったことは無い。


「知らないな……今、オキクルミはどうしている?」


「川を下って、海と交わる所に家を建てているよ。何でもポイヤウンペを見つけるまで帰れないんだって」


「ふむ。そうか……本当はクジに高天ヶ原に行く事を伝えたら出発しようと思っていたんだが……シオツチ、少し待ってもらっても構わないか?」


「ほっほっほ、構いませんよ。儂もアイヌの方とは一度話しをしてみたいと思っていた所です」


「そうか。すまない……では、明朝に会いに行くこととしよう」


 コウはそう言うと明け方アイヌラックルに会う為、クジの家でその日の夜を過ごすことにした。




 ※※※※※※




 翌朝、コウはヤタとセキレイをクジの所に置いてシオツチと共に川を下っていた。

 山を一つ越えただけなので河口は思ったよりも近い。しかし、道は昨日通った場所とは逆の方にあるので川縁に沿って歩く分、その早さは昨日よりも遅い。


「まさか……あいつが俺達のすぐ隣にいたとはな」


「まぁ、気が付かないのも無理はないでしょう……おや、コウ殿。あれではありませんか?」


 そうシオツチが指す方には一軒のふきの葉で出来た小屋があった。

 いかにも、最近建てたばかりというのが分かる。


「あぁ。間違いない……蕗の葉を屋根代わりにするのはよく野宿とかで最適だからな。お~い、アイヌラックル!」


 コウがそう呼び掛けるも何も反応は無い。

 すると、小屋の中からではなく、コウ達の後ろから声がした。


「あぁ、コウさん。お待ちしておりました」


 コウ達が振り向くとそこには今獲ってきたばかりの鹿と魚を肩に担いだアイヌラックルが立っていた。


「その方は?」


「この者はシオツチだ。訳あって今は共に行動している。……ところで、アイヌラックル。クジから聞いたんだが、ポイヤウンペとは何者だ? なぜ、見ず知らずの者を俺に尋ねる?」


「その辺りの事情は長くなりますので……どうぞ、中へ」


 コウの質問を止め、アイヌラックルは二柱に小屋の中に入るよう促した。

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