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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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古の輪廻

 ヤタとセキレイにトヨタマヒメとタマヨリビメを任せ、コウは一柱……ワタツミが居るであろう謁見の間へ向かった。

 シオツチは死んだ国津神の亡骸を弔う為、海宮の者達と共に今この場にはいない。

 謁見の間の前に来たコウはその扉を開き、中へと進んでいく。

 中の玉座にはワタツミが座っていた。


「来たか。そなたには世話になってばかりだな、コウ」


「そんなことはどうでも良い。説明してもらおうか……」


 コウは向かい合う形でワタツミと対峙する。


「なぜ、天津神であるワタツミ殿が国津神にしか使えぬ荒御魂を使えるのか」


「……良かろう」


 ワタツミは玉座に座ったまま言葉を続けた。


「そもそも、そなたはなぜ荒御魂が国津神にしか使えぬと思う?」


「それは……古くから国津神は内にある荒魂あらたまを自身の中に宿し続けたからだ。そして、天津神はそれに呑まれぬよう荒魂を別の者に変えて自身から排してきたからじゃないか?」


「うむ。そしてそれが、今でも続く天津神の儀礼ともいえることだが…………ならば、考えてみよ。その荒魂を内に宿したままの天津神がいてもおかしくはあるまい?」


「なっ!? そんな……では、ワタツミ殿はその儀礼を受けていないのか!?」


「うむ。受けていない」


 荒魂を宿す天津神……そんな神がいるなどコウは聞いたことが無い。


「そもそも、その荒魂を排する儀礼というものは母上様……つまりイザナミ様が存命であった頃には無かったものだ。あの頃は誰もが自身の内なる闇を受け入れていた。それが母上様が死に、我が父上様が黄泉から戻ってきた際、その荒魂を排するということが推奨されたのだ」


「つまり―――」


「そう。父上様が独りで生み出した神々……三貴子を含む後の神々のみが荒魂を取っているのだ。わたしが生まれ、カグツチが母上様を殺すまでに生まれてきた神々は皆、荒御魂を使うことが出来る。……そう考えると、今の国津神の状態は以前の天津神と同様といっても過言では無い」


 そして、その国津神が後に生まれた天津神と敵対しているとは何という因果だろうか。

 だが、そんな中でも疑問は残る。


「一体なぜ黄泉から戻ってきてからイザナギ……様は荒魂を排するようになったんだ?」


「わたしにもそれは分からない。ただ、黄泉で何かを知ったということは確かだ。それも荒御魂に関する何かをな……」


 荒御魂に関する何か……イザナギは一体何を知ったのか?

 しかし、その答えもまた高天原にあるとコウは感じていた。


「コウよ。そなたは高天原に行く前に会いたい者達がいるそうだな? それは今の国津の長、ミズチか?」


「いや、違う。ある人間の少女だ。厳寒の地と呼ばれ、神々でさえ見捨てた地で懸命に生きる少女だ。俺はその子といつもまた会う約束をしているんだが……今度ばかりはどうなるか分からないからな」


「そうか……出立は明日であろう?」


「あぁ」


「今日はもう遅いから休むといい。そなた達には迷惑を掛けたからな。その土地の海までわたしの神力をもって送り届けよう」


「……良いのか?」


「構わない。わたしの娘達を守ってくれたのだ。これくらいでもまだ足りない」


「……ならば、一つ頼みを聞いてくれないか?」


「なんだ?」


 そしてコウはワタツミにあることを頼み込んだ。




 ※※※※※※




 翌日……傷付いたミズキやガザミ、ワタツミ達の見送りを経て、コウ達は船に戻り出航した。

 その直前までトヨタマヒメとタマヨリビメは自分達を助けてくれたセキレイに懐き、別れることを嫌がったがワタツミの説得もあって涙ながらに見送った。


「随分と懐かれたな」


「はい……別れるのは少し寂しいですが、仕方ありません」


「ところで、コウ様。ここは昨日の海とは少し違うみたいですが……」


「あぁ。ワタツミ殿の図らいで東北の海まで連れてきてもらったんだ」


「ワタツミ様の治める海でしたら、海宮はどこの海にでも現れますからな。ところで、コウ殿……この地は?」


「俺のもう一つの故郷だ」


 コウはそう言って船を岸に付けた。今までの土地とは違い、吹き晒す風がとても冷たい。

 ここは厳寒の地……コウにとっては思い入れが深い場所だ。


「岸から山を一つ越えた所に俺の世話になった集落がある。そこに行こう」


「久し振りにクジさんに会えますね……あ、コウ様! お待ち下さい!」


 ヤタの制止も聞かず、コウは山の向こうにある集落を目指して歩き出した。

 ヤタとセキレイも慌てて追い掛ける。

 ―――よっぽど会いたかったのだろう。

 シオツチも皆まで言わずあとに続いた。

 海岸にはゴツゴツとした岩が山のようにそびえ立っており、周りには人家も無い。

 しかし、コウが通る道はどこか手が加えられており歩きやすい。


「この周りには人家が無いようですね」


「あぁ。この地の海岸は特に冷たい風が吹きやすく、大きな津波も多いからな。人間達の命を守るためには山を一つ越えた所に住処を作る方が良い。風もそんなに吹かないし、雪も多く降らないからな」


「なるほど……」


 暫く山の中を歩いているとどこからかほのかに良い香りが漂ってきた。

 少し先の方では白い煙も上がっている。


「煮炊きの煙だ。近いぞ」


 コウがそう言うと間も無くして、川沿いに小さな集落の一帯が見えてきた。

 ここが、目的地であろう。


「さてと……じゃあ早速、クジの家に向かうか」


 コウはそう言うと少し高台にある小さな民家を目指し、歩き始めた。

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