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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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変わり果てた友

 宴も終わり、すっかりと静まり返ったワタツミの海宮……その外ではコウが難しい顔をしながら庭園を見つめていた。

 美しい庭園とは裏腹にコウの心は暗い。

 行く宛てはあるが、目的となる者がいない……複雑な事情を抱えたコウは悩んだ。

 今、ヤタとセキレイは休んでおり、シオツチは自身の務めをしている。

 このような自身の悩みは単身で考えるに限る。コウはその為にもただ一柱でこの場に来ていた。

 しかし、そんな彼に何者かが近付いてきた。


「あぁ、すまない。今戻る―――」


「あら、そんなに急がなくて良いわよ?」


「久し振りだな、コウ」


 海宮の者かと思い、言い掛けながらコウが振り向くとそこにはりゅうきゅうで出会ったミズキとガザミであった。


「おぉ、お前達か。久し振りだな。そういえば、今はワタツミ殿の下で働いているんだったな」


「あぁ、トヨタマヒメ様とタマヨリビメ様のお守りを仰せつかっている」


「あの姫神のか……よく付けたな」


「魚の神のコウに更正された、とシオツチが話したら一瞬でね……随分親しいのね、天津神の海神と……」


「だが、会ったのは今日が初めてだ」


「……嘘でしょ?」


「本当だ。とはいえ、向こうが俺のことをそう思ってくれているならありがたいことだ。……で、どうだ? その天津神の海神の下で働く気分は?」


「……言い難いが悪く無い。正直なところ、ミズチ様よりもワタツミ様の方が徳が高い。……お前もそう思っただろう?」


「あぁ」


 ガザミとは違い、コウは臆することもなく言い放つ。

 それを聞いたガザミは笑った。


「全く……相変わらず躊躇いも何もないな」


「だからこそ、私達はあなたの所に来たのよ」


 二柱の真意が未だ分からないコウは首を傾げる。

 そんな彼にガザミは安心させるように言った。


「案ずるな。別にワタツミ様を裏切り、お前の所に行く訳ではない。ミズチ様のことについて伝えに来ただけだ」


「ミズチだと? 何かあったのか?」


 コウは二柱を真っ直ぐから見つめ、先を促す。


「今思えばあの日……あなたが出雲を出た日からミズチ様は少しずつ変わってしまった」


「以前から過激なところはあったが、それよりも更に荒れてしまった。より多くの天津神の首と土地の確保に執着してしまったのだ。原因は恐らく、我らがミズチ様の言うことを聞かなかった為だろう」


「どういうことだ?」


「あなたが出てからミズチ様はあなたの潔白を皆に説いていたわ。けれども、私達はその話しに聞く耳を持たず……ついにはミズチ様も他の国津神達から煙たがれた。ただでさえ、私達国津神は一柱一柱が荒くれ者の存在……全てを完全に統べることは出来ない。各々が自由に動き始める中……ついにミズチ様の何かが外れた」


「力による屈服……ミズチ様はそれを身内に対して行ったのだ。ミズチ様の意向に背く者は殺され、更なる恐怖が出雲を支配した」


「そんな……あいつがまさか……」


「一部の者はそうなった原因がお前にあると思って未だお前を探している。だが、ワレらはそうは思わない……コウ、今は中つ国に近付くな。国津神達の起こす戦禍に巻き込まれるぞ」


 コウは友のあまりの変わりように言葉を失ってしまったが、すぐにあることに気付いた。


「待て……ならば、お前達はどうなる? ワタツミ殿の方に寝返ったのはミズチも知っているんだろう?」


「あぁ。恐らく、刺客が送り込まれる筈だ」


「最も、私達もタダではやられないわ。持てる限りの抵抗をするだけよ」


 二柱の覚悟を知ったコウはそれ以上は何も言わなかった。

 ただ一つ……今までミズチの為に琉球までも襲ったミズキとガザミに対する仕打ち、そのことにコウはかつての友に憤る。

 だが、同時に自身のせいで友が変わってしまったことに悲しみも感じていた。

 もし、あのまま出雲に残り囚われていたらミズチは変わらずに済んだのだろうか?

 そんな想いまでもが心の奥底から湧き上がる。

 けれども、そんな感傷は突然消えてしまった。


「……なんだ?」


 海宮の中の方に何かの気配を突如感じたコウは目つきを鋭いものへと変える。

 なんだか分からないが海宮の中に入ってきたようだ。

 かなり小さな気配……だが、その中に僅かな神気を感じ取ったコウは意識を集中させる。

 もし、これが陸の上ならコウも気が付かなかっただろう。

 だが、ここは海の中……しかも配下の魚達が多い中なので普段以上の実力を出せる。


「どうした?」


 ガザミの言葉など耳に入らないかのようにコウはその場から離れ、近くを泳ぐ魚に海宮の中を探索するよう命じた。



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