出航
キンマムンが御殿でコウ達に新たな力を見せた後、琉球はその力によって更に急速に復興されていった。
彼女の生み出す木々は琉球の民の家々を更に強固とし、作物も瞬く間に生み出され……襲撃から十四日も経たない内に琉球は以前と変わらない日々に戻っていた。
いや、厳密には変わっていた。
黒き者達の襲撃が無くなり、これまで以上に豊かとなったのだ。
コウ自身ももはや自分達の助けは不要だろうと思った。
しかし、シネリキヨやアマミキヨ、更にはキミテズリやキンマムンまでなかなかコウ達を帰そうとはしない。
せめてあと一日、あと一日……という間にいつの間にか一月ほどの月日が経った。
そろそろ旅立たねば……高天原へコウを連れて行くシオツチの心情を痛い程よく感じていたコウはいよいよ旅立つことを決心した。
「色々と世話になったな。すっかり長居してしまった」
「いや、世話になったのはわしらの方だ。アラハバキとその従神達、そしてシオツチには大きな借りを作ってしまった」
「ほっほっほ、儂はそこまで大層なことはしておりませんぞ」
「我らもです。なぁ、セキレイ」
「はい。全ては琉球の皆様方の努力によるものでございます」
琉球の海岸……木で出来た立派な船の前にはコウ達の他、シネリキヨを始めとする琉球の神々や人間達が集まっていた。
コウにとってはこれほど盛大な見送りはクジのいる場所を離れた時以来である。
「すまない、キンマムン。これほど立派な船まで貰って……」
「礼には及びませんよ。アラハバキ殿が私にして下さったことに比べれば大したことはありません」
「次はどこに行くつもりさー?」
「目的地としてはオノゴロ島という所に行くつもりだが……その前に会っておきたい連中がいる。そいつらに会って話しをしてからその島へ改めて向かうつもりだ」
「オノゴロ島ですか。本来、あの島の周囲は強い潮の流れが渦を巻いている危険な海ですが……潮の海路を司るシオツチ殿が一緒なら大丈夫でしょう」
アマミキヨの言葉を得て、コウは改めてシオツチを見る。
この好々爺と出会ったことにより、コウの指針は定まりつつある。
次なる地は天津神達の座する高天ヶ原……強い覚悟を持っていかなければならない。
もし、万が一にも元国津神の長であることがバレたら殺されることは確実……殺されなくてもそれ相応の仕打ちは必ずあるだろう。
今度は敵地の渦中……味方は誰もいないのだから。
だが、行かなければならない。
そこに自身の追い求めている真実があるのならば、どんな場所にも行く。
コウとはそんな神だからだ。
「あぁ。頼りにしている」
「アラバキ! 次はいつ来るの?」
そんな中、この琉球で一番最初にであった神、シーサーは無邪気にコウへと尋ねる。
その姿は以前、北の地でコウが旅立つ時のクジとどこか重なって見えた。
だから彼は言った。
「いつこの地に来られるか……それは俺にも分からない。だが、約束しよう。必ずまたここに来る! 絶対だ」
「うん! あ、そうだ! アラバキにこれをあげるよ!」
シーサーはそう言ってコウに動物の皮で作られた小さな包みを一つ手渡した。
「これは?」
「別に大した物じゃないよ。船が出たら開けてよ」
「分かった、貰っておく。ありがとう」
コウはそう礼を述べてから船に乗り込み、ヤタやセキレイ、シオツチと共に出航する。
「またこの琉球に来い! ぬしらならいつでも歓迎だ!」
「シネリキヨ、ありがとう! また必ずこの地に来る!」
琉球の神々、人々の姿が見えなくなるまで四柱はそれぞれ琉球を眺める。
やがて、船が進み。琉球が見えなくなるとヤタは思い出したようにコウへと尋ねた。
「そういえば、コウ様。シーサー殿から一体何を頂いたのですか?」
「おぉ、そういえば船が出てから開けろと言っていたな」
シーサーの言葉をようやく思い出したコウは貰った包みをそっと開いてみる。
すると、そこには純白の砂のような物が入っていた。
「おや、これは塩ですな」
傍から見ていたシオツチは軽く口を挟む。
琉球の人間達と共に作った塩……コウが塩に関心をもっていたことをシーサーは忘れていなかったのだ。
「……ありがとう。大切に使わせてもらう」
その場の誰に言った訳でもなく、そう呟くとコウは空を見上げる。
天は快晴、波は穏やかで海風は元気よく吹き回り、帆を靡かせていた。
旅立ちとしてはこれ以上申し分ない。
コウ達を乗せた船は琉球を離れ、中つ国の海へと向かった。




