新生
途中でヤタ達と再会したコウは彼らも加えてシネリキヨの御殿へと向かう。
その向かっている最中、コウは先程シオツチと話して決めたことを二柱へと伝えた。
「そんな無茶な!」
「命を捨てに行くようなものです、コウ……いえ、アラハバキ様」
それを聞いたヤタとセキレイは無論、コウを止めるが……
「もう決めたことだ。それに黄泉へ行く訳では無いのだから……そこまで悲観しなくても良いだろう?」
当の本人は苦笑混じりに考えを変えるつもりが無いことを告げた。
ヤタとセキレイは互いに顔を見るが、やがて諦めたのか止めるのをやめた。
すると、その機会を伺っていたのか否か、コウ達の向かう御殿の方から誰かがやってきた。
息を乱しながらやってきたのはキミテズリだ。
「アラハバキ!」
「どうした?」
「はぁ……はぁ……い、今……シネリキヨ様から……眠っていたキンマムンが目を覚ましたって……」
「そうか。丁度良い、実は俺達も今から様子を見ようと向かっていたところなんだ」
「そ、そうか……良かったさー……」
思いの外、あまり驚く様子を見せなかったコウに少し落胆したキミテズリであったがすぐに元に戻り、彼らと共に御殿へと向かう。
「キンマムンの様子はどうだ?」
「いや、なんというか……なんか思っていたのと違うさー」
「違うとは?」
「ほら、戦っていた時は荒々しさがあっててっきりワンは荒神か何かの神と思っていたんだけど……どうやら違うみたいさー。まぁ、毒気が抜けているからそう見えるだけかも知れないけどさー」
「毒気が抜けている?」
「まぁ、会ってみれば分かるさー」
キミテズリの言葉に一同は首を傾げながらもやがて御殿に到着する。
彼の言葉から察するに今のキンマムンに敵意は無いようだが、やはりあれほど激しく戦った相手の為、内心ではほんの少し警戒してしまう。
そんな僅かな疑心を抱きつつもコウ達はシネリキヨ達のいる謁見の間の前へと着いた。
その扉の前ではコウに救われたあの人間の女が立っている。
「お待ちしておりました。アラハバキ様、シオツチ様、アラハバキ様の従神様方」
「お前はあの時の……もう大丈夫なのか?」
「はい、お気遣いありがとうございます。では、中へお入り下さい。シネリキヨ様とアマミキヨ様がお待ちです」
そう言って扉を開ける女に促され、コウ達が中に入る。すると、そこではシネリキヨとアマミキヨが純白の神衣に身を包んだ一柱の女神と何やら話しをしていた。
「シネリキヨ様、アラハバキ達をお連れしました」
「おぉ、アラハバキとその従神達。それにシオツチもよく来てくれたな!」
「シネリキヨ、念のために聞くが……その者は?」
「ぬしも存じている通り、キンマムンだ。……キンマムン、あの者がぬしを救ってくれたアラハバキだ」
「あなたがアラハバキ殿ですか! 話しは全てシネリキヨ殿から聞かせて頂きました。此度は私を救って下さり、ありがとうございます」
「あ、あぁ……」
キンマムンは爽やかにコウに礼を述べると満面の笑みを浮かべながら彼に歩み寄り、手を握る。
コウはキンマムンの変わりように戸惑いつつもそれに応じた。
「……しかし、私はどうやら大変な過ちを犯してしまったようですね」
だが、一頻り手を握った後、突如キンマムンは顔を曇らせた。
「人を救う立場の神が人を陥れようなどとは……何度詫びを入れても償えるものではありません」
「…………あの黒いモノになっていた時のこと、お前は何か覚えていないのか?」
「はい、残念ながら……しかし、その時に感じたことはあります」
「感じたこと?」
「はい。あの黒きモノとなった私の御魂は深い闇の中にいました。一筋の光すら入らない闇の中……己の手足すら見えず、存在そのものすら儚く消えようとしたそんな私の中に入ってきたのは人々や神々の憎悪、悲しみ、怒り、苦しみや痛みでした。それはとても耐えられるものではなく、いっそのことこのまま消えてしまった方が楽になれるのではないだろうか、と思う程のものでした」
コウはその話しを聞いて目を閉じる。
それは自身がミズキやガザミと戦った折りに友の幻を見た状況と重ねた為であった。
あの時の囁きとは少し違うが、あの時と状況は似ているだろう。
孤独な状態の中で永遠にも感じられる中、それを聞き続けたら狂うのも無理は無いだろう。
「もし、アラハバキ殿に救って頂かなかったら……どうなっていたのか分かりません」
「光明無き闇ほど、心を蝕むものはありませんからな……ですが、キンマムン殿はどうしてそのようなことになってしまったのですかな?」
シオツチの問いは最もである。
事実、ここに居る者達全てがそれを知りたかった。
「……それは、私がニライカナイへ行ったからでしょう。新たな力を手にする為に……」
「新たな力……?」
「お話しします。私の身に起こったことを……」
そして、キンマムンはニライカナイへ行った時のことをゆっくり語り始めた。




