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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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紡ぎ集う絆

 ミズキは驚くコウ達に不敵な笑みを浮かべるもすぐに真剣な表情となる。


「今よ! ガザミ!」


 アマミキヨが先程、キミテズリの名を叫んだように今度はミズキがガザミの名を叫ぶ。

 すると、その問いに応えるようにミズキの後ろから蟹の腕をしたガザミが御殿の柱を担いで現れた。


「あの神に腕を一本折られたが……十分だ!」


 苦笑いでコウを一瞥したガザミだったが、その瞬間に担いでいた柱をキンマムン目掛けて投げつける。


「ガハッ!?」


 投げつけられた柱は胴を穿ち、その衝撃でキンマムンは激しく息を吐く。

 その口から発せられる激しい風圧を受け、キミテズリは全身全霊の力を込め、太刀を引く。

 すると太刀はようやくキンマムンの口から抜け、宙を回転しながら飛び、コウの元へと向かってくる。

 彼はそれを受け止め、軽く振った。

 キミテズリは引いた反動で地面へと落ち、身体を打ち付けるもすぐに起き上がる。

 一方、キンマムンは地面に叩きつけられたかのように墜落し、その巨体を横たえた。


「皆、すまない……ところで、どうしてお前達まで俺達を助けてくれるんだ?」


 一同に礼を述べるもコウはなぜミズキやガザミが自分達を助けてくれるのか疑問に思い、尋ねる。


「私は……別にあなたを助けようなんて思って動いたわけじゃないわ。ただ……その……ガザミがどうしてもって言うから……」


「……フッ。あぁ、そうだ。ミズキはワレの頼みを聞いてくれたのだ。お前から受けた恩をそれなりに返そうと思ってな……」


 そっぽを向くミズキを見て、ガザミはおかしそうに笑みを浮かべ、そう話す。

 長い間、人や神を見てきたコウはミズキとガザミがもう自分と戦った時のような野心を抱いていないことを悟った。

 しかし、その内に秘めるものに関しては分からない。

 ただ、異心や何かの意図が無いことだけはなんとなく感じることが出来た。


「そうか……何はともあれ、助かったことは事実だ。礼を言う」


 警戒されていないことに今度はミズキとガザミが僅かに驚くものの、コウはそんな彼らよりもまず目の前にいるキンマムンの方に警戒する。

 巨体を横たえたキンマムンは隙だらけだ。

 だが、コウはすぐに動こうとはしなかった。

 なぜなら、彼には一つの疑念があった。


(俺の拳は当たった、シネリキヨやアマミキヨ、シネリキヨやミズキ達の攻撃も当たった……だが、なぜ太刀で斬っても奴は倒れない? それどころか姿を変えて攻めてくる……だが、痛みは感じているみたいだ……この違いは一体……)


 打つことは出来ても斬ることは出来ないのだろうか?

 その違いが分からない限りは下手に手を出すことは出来ない。もし、手を出したら先程までと同じ結果になるだろう。


「アラハバキ、何をしている!? 好機だぞ!」


 そんなことを考える中、シネリキヨがコウへと呼び掛ける。


「……シネリキヨ。奴は触れることは出来ても斬ることが出来ないんだ。その原因を探らない限り……迂闊な手は出せない」


「ぬぅ……確かにそうだが、ではどうするのだ? このまま何もせずに黙って見ているというのか?」


「アラハバキ殿の言う通り……あの者を倒す手段が無い以上、余計な手は出さない方がよろしいでしょう。ですが、シネリキヨ殿の言う通り、このままただ黙って見ているだけでは埒が明きません。…………御殿であの者とアラハバキ殿の話しを聞いた限りでは、あの者は自らを“死命の神”……すなわち生と死を体現する神と称しておりました。すると、もしかしたらあの神を殺すことは出来ないかも知れませんな」


「そんな……」


 コウとシネリキヨの言葉に対し、シオツチは自身の長年の経験を踏まえ意見を述べた。

 そんなシオツチの言葉にアマミキヨとキミテズリは絶句してしまう。


「殺すことが出来ないのならば……では、どうすれば良いのだ!」


 シネリキヨが悲痛に似た叫びを上げる最中、動けずにいた筈のキンマムンがゆっくりと立ち上がる。

 それを見たコウはシオツチにあることを尋ねた。


「……シオツチ、一つ良いか?」


「なんでしょう?」


「奴は神力を喰らい、触れたら俺達も力が抜けてしまうが……そんな奴に神力を使った場合、すぐにその神力は失われるか? それともゆっくりと失われるか?」


 コウのその問いにシオツチは「ふむ」と少し考えた後、すぐに答える。


「ゆっくりと……まるで塩が水に溶けるように儂の場合は失われました。どうやら、一気に喰らう訳では無いようです」


「そうか……分かった」


 それを聞いたコウは何かを思いついたのか、太刀を両手で握り直し、立ち上がってきたキンマムンに対峙した。


「俺に策がある……皆、力を貸してくれ」


 そうは言われたものの、コウ以外の者達はどうすればキンマムンを倒せるのかが分からない。

 だが、そんな中でもキンマムンは一同を待たずに襲い掛かって来る。

 それを見て最初に動き出したのはキミテズリであった。


「アラハバキ、一体どうするのさー!」


「奴の動きを止めてくれ、そこに俺が一太刀入れる!」


「でも、奴は斬り倒せないんじゃ……」


「そこから先は俺に考えがある……頼む!」


「……分かったさー!」


 コウの迫力に押されるものの、それは強い自信の表れでもある……そう感じたキミテズリは頷くと先陣を切ってキンマムンへ向かっていく。


「愚カナ!」


 そんなキミテズリに対し、キンマムンは鋭い牙を見せて噛み付こうとする。

 キミテズリは咄嗟に自身のヌンチャクをキンマムンへ投げつけた。

 風を切りながらヌンチャクはキンマムンへと飛んで行くが黒き獣の神はそれを一撃の名の元、牙で噛み砕く。

 だが、それがキミテズリの狙いだった。

 キンマムンの口が閉ざされたのを見たキミテズリは素早く顔の前まで来て、上顎と下顎を両手で力強く押さえる。


「――ッ!?」


「これでお前の牙は封じたさー!」


 力が抜ける中……キンマムンの激しい抵抗の中……キミテズリはあらん限りの力を込めて、口だけを押さえることに集中する。

 けれども、キンマムンの脅威は牙だけでは無い。

 今度は両の爪を振り上げ、邪魔なキミテズリを切り裂こうとする。

 だが、その爪は振り下ろされたもののキミテズリまでは届かなかった。


「――ッ!」


「ワシらの家族には……」


「爪はおろか手すら出させません!」


 左右の爪がキミテズリに届く前にシネリキヨが旋棍で……アマミキヨが棒でその凶爪を防いでいた。

 これで、獣の姿になったキンマムンの武器は封じられた。

 誰もがそう思った時、キンマムンの姿が歪み始める。


「なんだ!?」


「恐らく姿を変えて難を逃れるつもりでしょう。逃がしてはなりません」


 シネリキヨの疑問に素早く答えるシオツチ……その瞬間、キンマムンの腹に無数の針が刺さり、その歪みが消える。


「逃げちゃ駄目よ。フフフ……」


 針を刺してキンマムンの変身を止めたのは妖艶な笑みを浮かべるミズキ。

 更にそんな彼女の頭上からは再び柱を片手で担いだガザミが現れた。


「……大人しくしろ」


 一言だけ無慈悲にそう言い放ったガザミは持っていた柱をキンマムンの背に強く叩きつける。

 その衝撃にキンマムンは四足の足を僅かに折り、よろめく。


「今ですぞ! アラハバキ殿!」


 今が潮時――。

 コウはシオツチの言葉と共に高く飛び上がり、キンマムンの首筋に太刀を突き刺した。

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