力貸す者達
「消エロ……哀レナ神!」
キンマムンの鋭い爪がコウを引き裂こうとしたその時。
突如、何者かがコウとキンマムンの間に割って入り、キンマムンの爪を防いだ。
「ナニ!?」
「……全く、見ていて心が休まりませぬぞ。アラハバキ殿」
キンマムンの爪を受け止めたのは巨大な亀の甲羅……その甲羅はあまりにも大きく、甲羅の内側にいる者は隠れていて正体を知ることは出来ない。
しかし、その者と真正面から向かい合っているコウはその名を述べて礼を言う。
「……シオツチ殿、すまない」
「シオツチで結構ですぞ。ほっほっほ」
水色の眼を向け、笑うシオツチを見てコウは内心驚く。
眼の色の変化は荒御魂の証……コウはワタツミの配下だからシオツチも天津神だと思っていたのだが、この老体の神はどうやら彼と同様に国津神であったようだ。
「驚かれるのも無理はありますまい。儂はこう見えても元は亀の神でしてな……まぁ、その話しは置いておきましょう」
シオツチはそう言うとやや曲がった腰を浮かし、背を伸ばす。
すると、キンマムンの爪は弾かれ、その黒き巨体はよろめいた。
コウはその光景に眼を見開く。
一体この老体のどこにこんな力があるのか……そんな疑問を抱いたが、すぐさまあることに気付く。
「……シオツチ、大丈夫なのか?」
「何がですかな?」
「………いや、なんでもない」
そのたった一言を聞いたコウはそれ以上は愚問だろうと口を閉ざした。
シオツチが呆けていると思ったからではない。その言葉で全てを知り得たからだ。
コウは拳で一度キンマムンを殴っただけで、膝をつく程力を奪われた。
対して、シオツチは荒御魂を解放していた上にキンマムンにコウよりも長い時間触れていた。
それなのに平然と立ち上がったのである。
すなわち、これは―――
(俺よりも神力が強いか、あるいは神力を奪われないように何かをしているか……いずれにしてもこれがワタツミ従神、シオツチの力…!)
コウよりもその身に宿す神力が上回っている、ということである。
それを悟ったコウはゆっくりと立ち上がり、シオツチを見た。
その視線に気付いたのか、シオツチは笑う。
「ほっほっほ、アラハバキ殿。思い違いをしてはなりませんぞ?」
「……なに?」
「確かに儂はあなたよりも神力が強いかも知れませんが、それでもただ神力が強いだけという話し……全てを合わせればあなたの方が儂よりも強いでしょう。なんせ、儂は神力のみで武の方はからっきしでございますからな。特にこういう場合は儂は亀のように守りに徹することしか出来ません。あの者を倒すのは若いあなた方にお任せするとしましょう……ですが、この年寄りも出来る限りの助力は致しますぞ!」
シオツチがそう言うと彼らの左右から旋棍を持った男神と棒を持った女神が通り過ぎ、キンマムンの元へと向かっていく。
シネリキヨとアマミキヨだ。
それを見たキンマムンは両前足を上げるとそのまま二柱ごと切り裂くように鋭い爪を振り下ろす。
「うおぉぉぉ――ッ!」
大気を震わせる程の雄叫びを上げながらシネリキヨは両手に持った二本の旋棍を使い、その爪を受け止める。
その瞬間、シネリキヨの立っていた地面が沈み、屈強な腕が軋む。
「ぬぅッ!? な、なんという……力……これほど……とは……!」
地面が割れ、身体が沈み、シネリキヨの顔に汗と苦痛の表情が現れる。
恐らく、神力を奪われているのだろう。
このままではいずれ潰されてしまう。
そう思った矢先―――
「てやぁ!」
気の張った凛とした声が響き、キンマムンが打ち上げられた。
見ると、キンマムンの顎が棒に突かれている。
アマミキヨがシネリキヨとキンマムンとの間に出来た隙間から棒で突いたのだ。
しかし、キンマムンは依然としてコウの太刀を口に挟めたままだ。
「まだ、取れぬのか!?」
「キミテズリ!」
「はっ!」
狼狽える夫に代わりアマミキヨが周囲に響くような声でキミテズリの名を叫ぶ。
すると、ヌンチャクを持ったキミテズリが土を蹴りながらシネリキヨ達の元へと向かってくる。
それを確認したアマミキヨは自身の棒を僅かに後ろへ引き、駆け寄ってきたキミテズリの足の下に入れ込むと彼を打ち上げたキンマムン目掛けて勢いよく投げつけた。
投げられたキミテズリはキンマムンの開いた口を足場にして着地すると、素早く自身のヌンチャクの紐をコウの太刀の柄に絡めて力強く引っ張った。
「アラハバキの太刀を返すさーッ!」
だが、太刀は思った以上に食い込んでいる為かなかなか抜けない。
それどころか、口を足場にしているとはいえ、キンマムンに触れている為かキミテズリの身体から神力が奪われていく。
(マズイ、このままじゃワンまで……)
「離レヌ気カ? ナラバ、コノママ――」
――お前を食ってやろう。
そう言葉を続けようとしたキンマムンであったが、その突如……キンマムンの身体に何かが刺さる。
「……ナンダ?」
不思議に思ったキンマムンがその方を見ようと視線を動かすと御殿の入り口の方から細かい無数な何かが、キンマムンに迫ってきた。
「!? グアァァァ――ッ!」
その細かい何かはキンマムンの身体に刺さると耐え難い激痛をもたらす。
それを見たコウはその細かい何かの正体に気付いた。
「あれは……針か?」
「えぇ……私がいつも神衣に仕組んでいるものよ……」
その声を聞いたコウは驚いて、その声の主を見る。
釣られて他の一同もその者を見て思わず言葉を失った。
御殿の入り口に居たのはついさっきまで敵として戦っていた国津神のミズキであった。




