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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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始まる籠殿戦

「何事だ!?」


 突然起こった不気味な出来事にシネリキヨは驚きの声を上げる。

 そんな彼の問いに応えない内にコウが真っ先に謁見の間を出る。

 ヤタもそんなコウの考えを読んでいたのか共にその場を離れた。


「一体、どうしたのでしょうか? あの国津神達はもう戦う意思を無くしたというのに……」


「……実は戦っている最中、一つだけ気になっていたことがある」


「なんですか?」


「あの黒き者達のことだ。奴らは謁見の間にはいなかった……もし、ミズキとガザミがあの黒き者達を従えて襲ったのなら、なぜアイツらは俺に対して黒き者達を使わなかったんだ?」


「そういえば……このヤタはてっきりアラハバキ様が倒したものとばかりに思っていましたが、そうなると話しはだいぶ違ってきますね」


「それにあの黒き者達はどこからともなく急に現れた……もしや、それと何か関係があるのかも知れない」


 そう話すコウとヤタの目の前には外への出口が見える。だが、その時……何者かが御殿の中に入り、二柱の目の前に立ち塞がった。


「お待ち下さい! アラハバキ様! あなた!」


「セキレイ!? それに隣に居るのはシーサー殿か!」


 コウ達の行く手を塞いだのはヤタの妻であるセキレイとコウの琉球での最初の友であり獅子神の息子、シーサーであった。

 二柱共、身体の至る所が傷つき汚れている。


「アラバキ! 今外に出るのは危険だよ!」


「どういうことだ?」


「あの黒き者達が大群となって押し寄せてきました……そこまでは良かったのですが、劣勢に追いこまれたと感じたかの者達は突如、集まって一つの存在となりました。その存在は様々なものに姿を変え、他の神々の神力を喰らい、自らの糧としています」


「神力を喰らう…つまり神力による攻めは連中にとっては餌を与えることと同じか……」


 神々にとって神力とは力の要…それを封じられたも同然な状況ではもはや人間と変わらない。

 けれども、攻める手立てが無くなった訳ではない。


「アラハバキ! 一体、どうしたのだ!?」


 コウ達がセキレイ達から話しを聞き、攻める手立てを考えている最中、遅れてシネリキヨ達が合流してきた。

 シオツチも一緒だ。


「黒き者達が姿を変え、攻めてきたようだ。神力を喰らう為、生半可な神々の攻撃も効かないらしい……」


「な、なんだって! んじゃあ、どうするのさー!」


「狼狽えるな。取り敢えず、琉球の民達と力の弱い神々を安全な場所へ……」


「それは心配には及びませんぞ、アラハバキ殿。謁見の間には儂が先程、塩の結界を築き上げましたからな」


「塩の結界?」


「またの名を“盛り塩”などと申しましてな。悪しき者や邪な者が手出し出来ない結界となっております。塩には邪気や悪気を退ける力があるのです。ですが、いささか脆いのが難でしてな。そう長くは持ちませぬ」


 今の状況で逆に御殿の外に人間や神々を出したら襲われる危険がある。なんせ今は漆黒の闇が支配する夜……黒き者達にとっては逆に都合が良い。

 シオツチの言葉に隠された意図を瞬時に理解したコウは腹を決めた。

 ここで決着をつけるしかあるまい―――と。


「なるほど……つまり、ここで奴らを倒すしか手は無いということか…」


「そういうことになりますな」


「だが、倒すといってもどうするのだ? 連中には神力が通用せぬのだろう?」


「あぁ、だから神力以外の力をもって奴らを倒す」


 コウはそう言うと太刀を握り、皆に見せて自身の考えを伝える。


「なるほど、神力ではなく武力か……争いは好まぬが、国の大事と連中が相手なら心の陰りも無く喜んで使える!」


 シネリキヨの言葉に各々は自身の使い慣れた武器を手にした。

 ここにいる者達の思いは一つ……もはや言葉は不要であった。


「シネリキヨ、まずは俺が最初に出て様子を伺う。相手の手の内が分からない以上、下手に大勢で掛かるのは無謀だ」


「なっ!? それではお前が!」


「案ずるな。こういうことには慣れている。それにお前が最初に行き、何かあったらこの琉球はどうなる? だからお前達は後から来てくれ」


「……分かった。すまない」


 異を唱えるシネリキヨだが、コウの言葉にも一理あると感じたのか渋々ながら承諾する。

 シネリキヨの言葉を続ける者はいない。

 それを同意したと捉えたコウは頷くと自ら勢いよく御殿の外へと繰り出す。

 各々がコウの無事を祈る中、ただ一柱の神だけはその様子を鋭い眼差しで静観していた。


「………魚の神、コウ殿。あなたのこと見定めさせて頂きますぞ」


 鋭い眼差しで静観している神、シオツチは誰にも聞こえないような小さな声でそう呟きを漏らした。


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