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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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贖罪

 煌めく刃はミズキとガザミの首……ではなく、彼らの目の前の空を斬った。


「……どういうつもり?」


 コウの取った不可解な行動が理解出来ずミズキは彼に尋ねる。


「……どうもこうもない。命を差し出して責を取るのは真の責の取り方ではないと思ったまでだ」


 コウは二柱へ背を向け、今度は謁見の間の隅で震えている人間達の方へ歩み寄る。

 その彼の後ろでミズキは自身の神衣かむその袖から細い針を取り出す。一方、その針が何かを知るガザミは何を思ったのかミズキを一時制し、コウへ尋ねた。


「……一つ聞きたいことがある」


「なんだ?」


「お前は出雲に居た頃、ヤタ達を救う際に我が同胞達を殺したと聞く。なぜ、ワレらだけ助ける!? 力があるからか! そのような情けなどいらん!」


「勘違いするな」


 激昂して叫ぶガザミを止めるようにコウは静かに語った。


「力があるから助けたんじゃない。お前達も出雲で俺が手に掛けた連中も全く大差は無い」


「ならばなぜ!」


「俺自身もお前達によって気付かされたからだ」


 そう言ってガザミを見るコウの目には一点の曇りも無い。


「ガザミ、お前の言う通り…俺もさっきまではお前達を殺すつもりでいた。この琉球の平穏を乱し、心の中にいる友を利用された怒りによって……事実、俺は今までも荒御魂の力に頼り、殺めることでしか何事も解決出来なかった。それにより多くを救ってきたつもりだったがそれよりも多くの者達の命を奪ってきた……それを幻の中の友に責められ、俺の心は淀んだ。だが、そんな俺を救ってくれたのは俺を頼りにし、信じてくれた仲間達だ。それに本来の友の言葉……『どんな者でも必ず必要としてくれる者がいる。だから自ら命を消すことはしてはならない』……これは俺のみならず他の者にも言えることだ。だから、俺はお前達を許しはしないが、生かすことに決めたんだ。俺自身も気付かなかった自身の過ちを気付かされてくれた貸しとして…だから言っただろう? 『思ったまでだ』と」


「だが、生きた所で殺めたという咎は消えない……それを消す方法でもあるのか?」


「消す方法は無い……だから、生き続けるんだ。俺もお前達も……」


「……なに?」


「奪った者の命の分まで生き、その者が行おうとした何かを救うこと……それも継いで生き続けるんだ。幸い、お前達にはそれを容易く行うことが出来る力がある。それが生きている俺達が行う償いだ」


 コウはそう言うと再び人間達の方へ向かって歩き始める。

 彼の言葉を聞いたガザミは暫く何事か考えるとミズキへ目を配り、まだ健全な方の手でミズキの袖に入れた腕に触れる。

 ミズキは一瞬驚いたようにガザミへ目を向けた。


「完敗だ……あの神はワレらの慕うミズチ様とは違う何かを持っている……」


「っ! でもッ!」


「コウは自らの過ちを認めた……そして、ワレらがこれからも存在していくことを認めた……ならば、ワレらは己の敗北を潔く認めるしかあるまい……」


「っ……!」


 未だにコウを襲う機会を伺っていたミズキだったが、やがてガザミの言い分にも納得したのか悔しそうな表情を浮かべ、細い針を再び神衣の中に仕舞い込んだ。

 そんな二柱のやりとりを知ってか知らずか、コウは未だに怯える人間達の元へと来るとその場で膝を折って座り、手を床について頭を下げた。


「すまなかった……」


 神が人間に対して詫びる……通常なら有りもしないことに人間達はおろかミズキやガザミまで驚き、静かになる。


「この騒ぎ……俺の住んでいた国の連中のしでかしたこと…どうか許して欲しい。中には大切な者を失った者もいるだろう……神に対し恐れを抱いた者もいるだろう。その決して癒えぬ傷を負わせてしまったことは本当に申し訳ない……だが、これだけは忘れないで欲しい。お前達のことをキミテズリもシネリキヨもアマミキヨも家族同然に大切に思っている…そして、命を賭して守ろうとした。俺のことはどう思おうと構わない……だが、琉球の神々のことはどうかこれからも信じて欲しい……本当にすまなかった」


 深く頭を下げるコウにその場には静寂が漂う。誰もが何と言って良いのか分からないのだろう。

 だが、そんな中……一人の人間の女がコウに近づいて来た。

 それはミズキに囚われ、コウに救い出され、謁見の間の外へ置かれたあの人間の女だった。


「頭をお上げ下さい。来訪神様」


 女はコウの目の前にしゃがみ込むとそっと声を掛ける。


「ご安心ください。シネリキヨ様とアマミキヨ様のことは何があっても皆信じております。こんなことで断ち切れる程、私達の絆は細くありません。それにあなた様のことも……まだ会って間もないですが皆もう信じております。あなた様ももはや私達と同じ家族です。家族のことを悪く思う者がこの中にいますでしょうか? ですから、どうか頭をお上げ下さい」


 女の言葉を聞いてコウはようやく頭を上げる。

 そこには、コウへと笑みを向ける琉球の人間達がいた。

 その顔にはもう恐怖や怯えといったものは無い。


「皆……ありがとう……」


 その力強い姿を見たコウは自らも力強くその場から立ち上がった。


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