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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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再会する神々

 塩作りを手伝った翌日の夕暮れ、コウは単身……琉球の海岸に来ていた。

 今日の昼間は琉球中をシーサーと共に巡り、明日の明朝に旅立つことを今まで世話になった礼も兼ねて伝えに回っていた。

 琉球の人々や神々からは旅立つコウを惜しむ声も聞かれたが、彼はいつまでも留まっている訳にはいかなかった。

 今はまだ大丈夫だが、いずれコウを狙う国津神が現れてもおかしくはない……それにコウはカグツチを探すという目的がある。

 別れる日は必ず訪れるのだ。


(……琉球の人間や神はいつも陽気で元気な奴らだ。だが、その反面……他者を思いやる優しさもある。争いは滅多に行わず、楽しく皆で暮らすことをひたむきに考え、困っている者が居たら手を差し伸べる………………国津神や天津神もこのように出来ないのか? 中つ国や高天原もこうなれば…………)


 自身の育った本土の現状を思い起こしながら、コウは沈む夕陽を眺める。

 眺める先にあるのは中つ国……だが、琉球の者にとっては黄泉の国でもあるニライカナイがある方角だ。

 ここ最近、琉球に到着した時に出会った黒い者達の姿は見ていない。

 キミテズリもその事に疑問を抱きつつ、僅かながら安堵していた。

 だが、コウは何か胸騒ぎがしてならなかった。

 キミテズリ達に比べ、黒い者達と対したのは一度きりであったが、あの者達がコウが撃退した程度で諦める筈が無い。

 かの者達が姿を現さないのはまるで嵐の前の静けさのようであった。

 そして、それを暗示するかのようにニライカナイの方角……海上の空は不気味な黒い雲に覆われている。


「……今夜は一嵐来そうだな」


 誰に言う訳でもなく呟きながら、海へ背を向けるコウ。

 けれども、その時…………何かの気配に気付いたコウは周囲を見渡した。

 広い見通しの利く海岸に隠れられる所は無い。

 唯一、海岸に接している森の茂みからは何かが潜んでいる様子も無い。

 だとしたら、海の方である。

 コウは再び海の彼方を見た。

 すると、突如として一陣の烈風がコウのいる海岸を勢いよく走り、砂浜の砂を巻き上げながら天高く昇っていった。

 そして、コウが風の軌跡から視線を元に戻すと目の前に見覚えのある夫婦神が膝をつき、共に頭を垂れていた。


「お前達は……!」


「コウ様、ようやく見つけました!」


「私共、夫婦……あなた様の足跡そくせきを辿り、やっとお会いすることが出来ました!」


 コウの前に現れたのは以前、彼が出雲で国津神達から救ったヤタとセキレイの夫婦神であった。


「ヤタ、セキレイ…………他の国津神達から俺を討つように言われたのか?」


「滅相もございません! 我らはコウ様にあの時のご恩を返す為にやってきたのです」


「コウ様がミズチ様を襲ったという話し、私共は信じられません!」


「…………俺はお前達を助ける時にあの場に居た国津神達を殺した。そんな俺がミズチを絶対に襲わないという確証は無いだろう?」


「確かにコウ様は我々を助ける際に国津神を殺めました……ですが、コウ様は仰っていたではありませんか。武の要は無道を討つにある……と」


「そんなコウ様が己の利と欲の為だけにミズチ様を襲う筈がありません! ……何か訳があったのではありませんか?」


 ヤタとセキレイは自信があるとばかりにコウの言葉を否定し、見つめる。

 コウはそんな二柱に対し、自身の中にある真実を告げずに尋ね返した。


「…………俺がここに居ると誰から聞いた?」


「アイヌの地にてアイヌラックル殿から伺いました」


「俺は出雲を出る際、誰にも行き先を告げずに出た筈だが?」


「私共が各地でコウ様を探していた折、コウ様が北の厳寒の地に滞在しているとの噂を聞いたので、寒さが和らいだ頃に向かったのです。そこでクジさんという人間の女の子からコウ様がアイヌへ向かったことを聞いたんです」


「クジからか……なるほどな」


 コウは彼女から貰った琥珀の玉を見つめる。


「……コウ様、そろそろお答え下さい。一体、ミズチ様と何があったのですか?」


「………………お前達には関係ない。早くここから去れ。俺と一緒にいる所を他の国津神に見られたら、タダでは済まなくなるぞ」


「……もう私共もタダでは済みません」


「なに?」


「コウ様が出雲を出て行った後、国津神達は本格的に天津と繋がっている神々を滅ぼしに掛かってきました。高天ヶ原との伝令を担っていた我ら夫婦も今や追われる身です」


 コウはヤタの言葉を聞いて、口を閉ざした。

 彼らは自身達も狙われているにも関わらず、それでも尚コウを追いかけて来たのだ。


「無論、コウ様がここに居ることは誰にも話しておりませぬ」


 コウはヤタ達を巻き込まないよう、自分から遠ざけようとしていた。

 しかし、彼らもまた狙われているのなら一夜限りではあるものの国津神の長として任命されたコウは彼らを守る必要がある。

 それが、今のコウに残された唯一の務めだ。


「……そうか。すまなかった、俺は随分と酷いことを言ったな」


「いえ、気にしないで下さい。ところで、コウ様は今、アラハバキと名を変えておられるようですが……我々もそう呼んだ方がよろしいのでしょうか?」


「あぁ。そうしてもらえると助かる」


「分かりました、アラハバキ様。それでは手始めに何をすれば良いんでしょう?」


「そうだな……。まず、始めに…………お前達の馴れ初めから話しを聞かせてもらおうか?」


「えっ!? それはちょっと……」


 顔を紅くし、慌てる夫婦神を見てコウは笑う。

 だが、そんな時……突如、森の中から息を切らせ、本当に慌てた様子のシーサーが飛び出してきた。


「アラバキ、大変だ! シネリキヨ様とアマミキヨ様……それにキミテズリ様が!」


「どうした!?」


 日が暮れ、辺りが闇に包まれた時……コウの抱いていた胸騒ぎは現実のものとなった。

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