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ジンダイ  作者: 吉田 将
第二章 逃避行
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シオツチの苦悩

 コウが人間達と塩作りをしている頃、シネリキヨの元を訪れたシオツチはアマミキヨを含めた彼ら二柱と対面していた。


「おぉ、シオツチ。よく来たな!」


「ほっほっほ……お久しぶりですなぁ、シネリキヨ殿、アマミキヨ殿」


「お久しぶりです。シオツチ殿、此度もよく来て下さりました」


 互いに挨拶を交わす三柱の神々……シネリキヨは挨拶を終えると酒を持って来るよう、傍に居る者に命ずるが、シオツチはそれを制した。


「儂はこれから務めがあるので、此度は……」


「む? そうか…………それで、シオツチ。本日は如何用いかように参った?」


 シネリキヨは残念そうな顔をした後、シオツチへ用件を伺う。


「はい。実はですな……ワタツミ様よりとあるめいたまわった次第で……」


「とある命……ですか?」


「はい。シネリキヨ殿、アマミキヨ殿……この琉球の地で知勇に優れ、この地より外へ行きたいと思う神はいないでしょうかの?」


 いきなりの突飛な申し出に琉球を治める夫婦神は面食らって驚いた。


「いきなり何を言い出す!?」


「やはり……そういう者はおりませんか……」


「一体、どういう事ですか?」


 アマミキヨの問いにシオツチはゆっくりと事の顛末を話し始めた。


「……お二方は今の中つ国の状況を存じておられますか?」


「うむ。確か今、本土の方では国津神と天津神の対立が激しくなってきていると聞くが……」


「はい。そして、その激しさは日に日に炎のように増して、今……天津神側は甚大な神不足となっております」


 聞くと、現在……天津神達の居る高天原では国津神との争いやアマテラスの弟神である建速須佐之男命タケハヤスサノヲノミコトの横暴に対する為、神々が不足しているという。

 このままでは国津神達に呑まれる……そう危惧した天津神達は中つ国へと降りた天津神であるワタツミに有能な神を高天原へ連れて来るよう、頼んできたのだ。


「……スサノヲ様か。ワタツミ殿に海を任せた挙げ句、高天原で横暴をするとは……」


「確か、元はスサノオ様が海を治められる筈だった……のですよね?」


「えぇ、それをスサノオ様は黄泉に居られる母君に会いたいが為に、毎日泣いて海をお治められ無かったのです。それを知ったイザナギ様がお怒りになってスサノオ様から天津神の称号を剥奪し追放しました。そして、イザナギ様はそれを契機に淡海おうみ多賀たがへと移り、隠棲いんせいされたのです」


 淡海とは後に近江と呼ばれる中つ国の中央に位置する地である。

 一見するとイザナギは国津神達の火中へ行ったと言われても過言では無い。

 しかし、このイザナギ隠棲の件についてはワタツミや一部の天津神しか知らない秘匿の件であった為、国津神側はおろか大部分の天津神達でさえ知らないことであった。


「その後、スサノヲ様は姉君であるアマテラス様へ挨拶も兼ねて会いに行ったのですが、アマテラス様はスサノオ様が高天原を奪いに来たのでは、と勘違いをなされ、異心いしんが無いかを確かめる為に誓約うけいを行ったのです」


 誓約とは占いの一種であらかじめ神(天)に誓いを立てて二つの掟を決め、神にどちらか一つを選んでもらうものである。

 例えば、男神が生まれたら勝ち、女神が生まれたら負けという誓いを立てて掟を決め、どちらかが生まれても神の意とする賭け事に近いものだ。

 だが、アマテラスとスサノオの場合……ある問題が起こってしまった。


「ですが、御二方共……誓約による誓いと掟を決めずに行ってしまいました。双方は互いの持ち物から神々を生み始め、結果……アマテラス様は男神を、スサノヲ様は女神をそれぞれの持ち物から生み出しました。それを見たスサノヲ様は自らの心が潔白故に女神が生まれたのだから、と勝ちを譲らなかったのです」


「ううむ……そう、なのか?」


「誓いと掟をお決めにならなかった以上、分からないのでは?」


「そうなのですが……それでも、スサノヲ様は勝ちを譲りませんでした。やがて、アマテラス様も負けを認め、それに気を良くしたスサノヲ様は乱暴狼藉を働き始めたのです」


「……なるほど。確かにそれでは天津神側も頭を抱えるな。だが、シオツチ。残念ながらこの琉球を離れたいと思う神はおらん……ましてや、暴れるスサノヲ様の居る高天原に行かせようなどと……」


「やはりそうですか…………せめてスサノオ様も今日、海辺で出会った若い神のようになって頂けたら……」


「若い神……もしかして、アラハバキのことか? 奴はなかなか良い神だぞ。自ら様々な所に赴き、人間や他の神と共に働くからな。女や子供、人間達から慕われておる。まるで、ヒヌカンが戻ってきたかのような……」


「ほぅ……シネリキヨ殿がそこまで話されるとは……」


「ですが、あの方は旅をしておられる身……シオツチ殿の頼みを聞いて下さるかどうか……」


「いえいえ、アマミキヨ殿。流石に儂でも若者の歩みの邪魔は致しません。若い内にしか出来ぬ事もある…………あの者にはもっとこれからも自由な時が必要です」


 シオツチの顔には未来を担う若者への喜びと同時にせっかく見つけた逸材を手放す惜しむ感情も伝わってくる。

 それを見たシネリキヨはシオツチの肩を軽く叩いた。


「ぬしも大変だな。まぁ、酒は飲まなくても今はゆっくりしていくと良い。……なに、案ずるな。きっと、ぬしの頼みを聞いてくれる者はいる」


 そう言うとシネリキヨは傍にいる者に食事の用意をするよう命じる。

 シオツチはそれを聞いてまたもや務めを理由に断ろうとしたが、今度のシネリキヨはそれを譲らない。アマミキヨもそんな夫を咎めようとはしなかった。

 琉球ならではの客を元気付けるもてなしなのだろう。

 それを悟ったシオツチはシネリキヨとアマミキヨの厚意を受けることにした。



 だが、そんな彼らのやりとりを物陰から見ている存在に三柱は全く気付いていなかった。


「……そろそろか?」


「えぇ。この琉球の地に滞在し、幾百年……ようやく、準備は整ったわ」


「長かった……遂にシネリキヨとアマミキヨを殺し、この地を支配することが出来るのだな!」


「あのアラハバキという神やシオツチという老いぼれは居るけど…………所詮は無名の神と老体神、取るに足らないわ」


「我ら二柱の国津神の力……奴らに見せてやろうぞ!」


 今、灼熱の光が照らす琉球の地を黒き闇が迫って来ていた。

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