再会
アラハバキことコウが北の地を旅立ってから数月……山を越え、谷を降り、平野を駆け続けたコウは様々な苦難を経てようやく出雲の地へと辿り着いた。
「ここに来るのも久しいな……ミズチは変わらずに過ごしているだろうか?」
青葉輝く山中を歩みながら、コウは親友の姿を思い浮かべる。
ミズチとは彼が神として幼い頃に出雲の川で出会った蛇の神で、互いによく遊び、よく学び、よく武の鍛錬を行った仲であった。
ここしばらくコウは旅に出ていた為、ミズチの詳しい近況は分からなかったが、どうやら出雲の地で周辺の神々を束ねる長となったらしい、という事を風の噂で耳にした。
「もし、噂が本当なら盛大に祝いをしないとな……」
久方ぶりに友と会う……その事を心待ちにしながらコウは歩みを更に早く進める。
すると、緑に閉ざされた視界が急に開け、大きな川が流れる河原へと出た。
「ここは……相変わらず変わらないな。……ん?」
以前にも来た馴染み深い場所なのか、コウはそう呟きながら感傷に浸る。
だが、それも束の間。
突如、何かを見てコウはその一点を凝視する。
そこには黒く長い髪を一本に束ね、蛇のようにその髪をなびかせる一人の男が居た。
男は水浴びをしていたのか、河原に濡れた裸体を晒し、日の光を浴びている。
「随分、平和になったんだな……この地は」
「ん? この声は……まさか、コウか!?」
「久しいな、ミズチ」
ゆっくりと歩み寄るコウの声を聞いたミズチは急に起き上がり、彼の姿を見るや否や喜んで近付いてきた。
「あぁ、久し振りだな。というよりも、よくこの場所が分かったな?」
「半生以上も過ごせば離れていても憶えているものだ。……お前がよくここに来る事もな」
「まぁ、半生以上もここに遊びに来れば自然と癖も付くしな……」
頬を軽く掻きながらミズチは河原を見渡す。
ここはコウとミズチが共に遊び場として使っていた場所で、事あるごとに落ち合っていた待ち合い場所でもあった。
たとえ居所が分からなくても、ここに来れば必ずどちらかが居る……そんな事が当たり前と化していたので、出雲に着くなりコウはまず始めにこの場所を訪れたのだった。
「と、そんな事はともかく……よく来てくれたな。コウ」
「あぁ」
「互いに話したい事は多くあるが……ここじゃなんだ。お前も長旅で疲れているだろうし、我の住む洞窟へと場所を変えようじゃないか」
「あぁ、そうだな」
ミズチは置いていた自身の衣を掴み、肩に掛けると山の方を指し示す。
「洞窟は向こうだ。そこに着いたら一杯やろう。良い酒が出来たんだ」
「大酒飲みが過ぎて、いよいよ自分から作り始めたか。だから、蟒蛇なんかと言われるんだ」
「ははは、我にとってそれは褒め言葉にしかならないぞ?」
笑い合いながら洞窟を目指して歩き始めるコウとミズチ……しかし、そんな和やかな雰囲気も束の間、突然ミズチが真面目な口調で尋ねてきた。
「……で、旅をしてお前の探しモノは見つかったのか?」
「…………いや、まだ見つからない」
「…………お前の両親を殺した奴、一体何者なんだろうな。どこへ行ったのかも分からないんじゃ、探すのも難しいだろう?」
「実は、それについて少し手掛かりを手に入れた。と言っても、素性だけだがな」
「本当か! 一体、どこの誰だ!?」
「落ち着け。まずは洞窟の中に入ろう。……続きはそれからだ」
そう言って、コウが顎でしゃくった方にはポッカリと大きな口を開けた洞窟があった。