琉球の守護神、君手摩
南国特有の暑き風が流れる浜辺で二柱の神はそれぞれ相対する。
「では、改めて……いらっしゃいませー《メンソーレ》!」
追い返すと言いつつ、口では「ようこそ」と言いながらコウへと向かうキミテズリ。
一方、コウは言葉の意味が分からない為、それを聞き流して構える。
「……来い」
キミテズリはコウに近付くと飛び上がってヌンチャクを振り回す。
コウはそれを器用に避けていくが、やがて避けきれなくなると腕でヌンチャクを防ぎ始めた。
だが、防いでいるにも関わらず、ヌンチャクはコウの顔や腹、肋を打ち、衝撃と痛みを与える。
なぜ、防いでいるにも関わらず、攻撃を受けるのか?
それは、ヌンチャク特有の独特な形状にあった。
(……紐で繋がっている分、片方の棒を防ぐともう片方の棒が空いた所に入ってくるな)
ヌンチャクは振り回す力を利用して打撃の威力を上げたり、その反動を利用して持っている木の棒を回転させ、相手の空いた所に打ち込む武器である。
本土である中つ国では剣や弓や矛といった武器が主流だが、琉球では打撃武器と格闘術を合わせた武術が主流だ。
自然に溢れ、鉄より軽く同等の固さの木々が豊富な琉球だからこそ、発展した戦術であろう。
事実、琉球はこの独自の武術で本土から攻めてきた神を幾度も撃退している。
初見では確実に不意を突き、多くの勝利を納められるからだ。
実際、コウも攻撃をまともに受けている以上、不意は突いているのだろう。
「そらそら! どうしたのさー! アラハバキ!」
だからこそ、キミテズリは自身の武に自信を持っていた。
もはや、慢心に近いと言っても過言では無いだろう。
それ故に彼は気付かなかった。
コウが普通の神々とは違うことに……踏んで来た場数、経験が圧倒的に違うことに……。
「……気は済んだか?」
「……は?」
「守ることにも飽きて来たんでな。そろそろ俺もやらせてもらう」
「へっ! やれるものならやって……」
キミテズリはヌンチャクを振り、コウはそれを腕で防ぐ。
ここまでは同じ……だが、そこから先は違った。
コウは空いている所に入ってきた木の棒を片手で掴み、あっさりとキミテズリからヌンチャクを奪う。
「なっ!?」
キミテズリは空いている所にヌンチャクを打ち込んだ後、その反動で戻ってきたヌンチャクを素早く受け取って、また打ち込むという戦術を得意としている。
それはあまりにもヌンチャク捌きが早い故に出来る芸当であった。
だが、そのヌンチャクが打ち込んでいる最中に相手の手に触れたらそれは厄介なことだ。
なぜなら、打ち込んでいる最中はヌンチャクはキミテズリから離れている……すなわち、相手に投げ渡しているのと同じことなのだ。
「はあぁぁぁぁ!!」
ヌンチャクを手にしたコウは動揺して隙を見せているキミテズリに向かって高速で打ち込む。
しかも、キミテズリとは違い、膝や腕にあえて打ち込み翻弄する。
そして、とどめにキミテズリの首をヌンチャクの紐で絡め取ると、彼を足元の砂目掛けて投げつけた。
「痛い《アガー》!」
痛みに悶えるキミテズリだが、すぐに立ち上がって殴り掛かってくる。
コウはそれをしゃがんで避けるとキミテズリの足を払い、宙に浮いた彼に向かって蹴り込む。
「がぁ!」
飛ばされながらも、何とか起き上がってコウを見るキミテズリ。
が、しかし……彼の目に映ったのはコウではなく、風を切って飛んできた自身のヌンチャクであった。
「がっ!」
ヌンチャクを頭に受け、短く呻き声を上げたキミテズリはその場に倒れ込む。
「何度でも起き上がってくるその気は良い……が、調子に乗るようじゃまだだ」
コウの的を射た助言も彼との実力も……気を失い、目を回しているキミテズリには届かなかった。
「……このままにしておくのもなんだな。おい、お前」
倒れているキミテズリを肩に担ぎ、コウは近くにいる少年に声を掛ける。
少年は二柱の戦いを間近で見ていた為か、コウの声に身体をビクリッと震わせる。
「コイツを介抱するから手伝ってくれ」
そんな事には気にもせず、コウは守護神と共に少年の元に歩み寄った。




