深まる謎
「死んでいる……だと……? それに俺達が生まれてくる前とはどういうことだ!?」
まるで掴み掛かるような勢いでコウはアイヌラックルに詰め寄る。
「俺が聞いた所によると、カグツチというのは本土の創造神であるイザナミ、イザナギの間に生まれた子らしいです。俺も詳しくは聞かせてもらえなかったんですけど、カグツチはどうやら生まれた直後に父であるイザナギに殺されたらしいです」
「殺された? なぜ、父が子を殺すんだ?」
「さぁ……俺達には計り知れない天津神ならではの習わしかも知れませんが…………俺が今知っているのはここまでです」
「そうか……」
話しを聞き終えたコウは落ち着きを取り戻し、詰め寄っていた身体を元に戻した。
「思い出したくも無かっただろうに……すまなかった」
「いえ……それよりもコウさんはこれからどうするんですか?」
「……そうだな。また始めからやり直しだろう……何せ、俺の追っているカグツチが真か嘘か分からなくなってしまったからな……」
詳しい情報を改めて聞くことは出来たが、自身の仇が本当にカグツチなのか、それともカグツチを名乗る別の神なのか、分からなくなってしまった以上、下手に憶測で探し出すことは出来ない。
だが、仇がカグツチというのは変わらない。
「また各地を巡って情報を集めるさ。そうすれば、自ずと真実が見えてくる筈だ」
「……真実、ですか。やっぱりコウさんは俺が初めて会った時と変わらないな……覚えていますか?」
「あぁ、よく覚えてる。確か……お前が自分の妻を救い出す時に会ったんだ」
「はい。あの時、俺は敵の手により目が見えない状態で……その時、コウさんは見ず知らずも無い俺を目を治してくれる女神の元まで護衛してくれたんですよね」
「俺はそこまで大層なことをした覚えはないが……どうだ? あれから夫婦仲は……」
「お陰さまですこぶる良好です。だから……今の俺の幸せを守ってくれたコウさんには是非とも恩返しをしたいんです」
アイヌラックルはそう言うとその場から立ち上がり、どこかへと向かう。
そして、暫くしてから木の板のような物を手に持ち、戻ってきた。
「本来、俺達アイヌの一族は他の者には関与しないんですが……今回ばかりはそうも言ってられない……コウさん、もしもっと情報を集めたいのであれば、今度は俺の言う所に行ってみませんか?」
「……どこだ?」
「ここより遥か南……出雲の地を更に西に行った所にある中つ国の最南端、琉球です」
アイヌラックルは持ってきた木の板をコウへと渡す。
その板にはコウが見たことも無い犬のようなものの絵が描かれていた。
「琉球……行ったことがないな」
「琉球は俺達アイヌと同じく本土から独立した一族です。周囲を海に囲まれた島にあり、気候もこことは真逆です。そこに描かれているのは琉球の神の一柱らしいので、その者を訪ねてみると良いでしょう」
「動物の神……俺と同じ部類の神か……」
コウはアイヌラックルから板を受け取ると彼に礼を述べた。
「ありがとう。お前の言う通り……次は琉球を目指すとしよう。どのみち、行く宛は無かったから丁度良い……」
「そうですか、お役に立ててよかった。なら、今日はこの地で休んでいって下さい。琉球までの道は遠いですから英気を養う、ということも兼ねて……」
「あぁ、そうだな。そうさせて貰おう……世話になる」
こうして、コウはアイヌラックルの家で一晩過ごした後、翌日には琉球の地を目指して旅立ったのであった。




