アイヌモシリへ
「族長、族長!」
東北より遥か北の地……周囲を海と山で囲まれた海辺の集落に人間の青年の声が響き渡る。
「何事だ?」
そんな青年の声に応じ、集落の中にある一際大きな家から赤毛の髪に無精髭を生やした男が出てきた。
彼の着る着物の裾は焦げており、持っている刀の鞘尻からは火が吹き出ている。
「族長、大変です! 本土から来た神がいきなり族長に会わせろ、と……」
「ふむ……その神は一体どんな者だ?」
「それが変わった者でして……金色の髪を持ち、頭の頂と後ろ、そして左右の髪を短く結った者で、身体の方は細身でありながらもたくましく、何事にも物怖じしない者で…………我々が取り囲んでも臆したり、睨んだりせず堂々としておりました」
それを聞いた男はもしや、と思い、青年にある事を伝えた。
「……分かった。その者と会おう」
「よろしいのですか!?」
「構わん。お前達が行った所で、あの方には敵わないからな……。俺が行く。皆とその者にはアイヌラックルが行くと伝えてくれ」
「分かりました」
族長……アイヌラックルはそう青年に伝えると、訪ねてきた者を迎える準備を始めた。
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「すまない、急に訪ねてきて……」
「いえ、こちらこそ若い人間達が失礼を……」
「いや、詫びることは無い。それに意気が良いのは悪いことじゃない……これからはああいう者達の力が必要となってくるだろう」
「そう言って頂けるとありがたいです。どうぞ、こちらに……」
一通りの準備を終えたアイヌラックルは訪ねてきた者……コウと対面し、自身の住まいへと招き入れた。
「狭い所ですが、くつろいでいって下さい。コウさん」
「ありがとう。だが、悪いな。今はゆっくりしている暇は無いんだ。それに今の俺はコウじゃなくアラハバキと名乗っている」
「名を変えて……何かあったんですか?」
「あぁ、実はな……」
コウは今まであったことをアイヌラックルへ話した。
自身が国津神の長になったこと、面の者に襲われたこと、友を殺した嫌疑で追われていること、そして……再びカグツチについて調べる為、旅をしていることを話した。
「そんな……コウさんが…………」
「まぁ、状況は悪いな。前のように自由では無くなった訳だ。だからこそ、それを破る為に動いている……頼む、アイヌラックル。もう一度俺にカグツチ……いや、アイヌに居たカムイツチについて詳しく教えてくれ」
アイヌラックルはコウの言葉を聞いて、自身の焦げた着物の裾と火が吹き出ている鞘尻を見る。
だが、暫くそれを眺めた後、意を決したように口を開いた。
「……正直、あの神については思い出したくも無いが…………恩師である他ならないコウさんの頼みだ。分かりました」
そして、アイヌラックルはカグツチについて語り始めた。




