再びの旅立ち
辛くも出雲を脱出して数日の月日が流れた。
コウは現在、北の地へと舞い戻り、クジを含めた人間達と共にアラハバキの名を再び使って静かに暮らしていた。
相も変わらず、北の地は暮らすに厳しい所だったが、それ故に国津神の追っ手もなかなか来れず、日々を過ぎ去るには丁度良かった。
それにここならコウを迎える人間達も温かい。
このまま、ここで暮らすのは過酷であったが悪くは無かった。
しかし、コウはただ耐え忍ぶだけの者では無かった。
彼にはやらなければならないことがあったのだ。
「さて……これからどうやって、あの面の者を探したら良いのだろうか……」
人間達と共に仕事を終えたアラハバキことコウはその一休みの最中、これからの行動について考えていた。
養父母を殺した敵もそうだが、友を殺して自身に無実の罪を着せたあの面の者も捨て置くことは出来ない。
だが、コウはその面の者に対しある考えを抱いていた。
(あの面の者……天津神が持つ十拳剣を使っていた。確か、俺が聞いたカグツチも天津神だった筈だ……俺が追っているカグツチがアイツなのか? だが、そうだとしたら奴はなぜ再び出雲に来た? ミズチの首が狙いだったのか? ……面の者とカグツチ、俺はどっちを追えば良いんだ?)
様々な偶然と出来事に混乱するコウ。
そんな悩んでいる彼に対し、同じく休憩していたクジが近づいて来た。
「……コウ神様、大丈夫?」
「……ん? ああ、大丈夫だ」
「何か考え事?」
「あぁ、考え事といえば考え事だな……少し迷っている」
「ふーん……あのね、何かに迷っているなら少し前に戻って、自分が本当に今必要なものを思い出してから選んだ方が良いよ」
「……どちらも今、必要なことなんだ」
「そっかぁ……じゃあ、自分が分っているものから選んだら?」
「分っているもの?」
疑問に思って尋ねるコウにクジは頷く。
「うん。自分が少しでも詳しかったり、自信のあるものから選んだ方が確実だと思うよ?」
何気ない子供の一言にコウは少し考える。
面の者はまだ会ったばかりで分っているのは特徴的な外見や武器ばかり、一方カグツチについては素性は分かるが、外見などは分からない。
だが、カグツチに関しては提供してくれた情報源も分かる。
(アイヌモシリ……ここより更に北の厳寒の地……あそこならカグツチについてもう一度詳しい情報が得られるかもしれない。それに追ってくる国津神の脅威も無いだろう……)
コウは頭の中で考えをまとめると、徐ろに立ち上がりクジに礼を述べた。
「クジ、ありがとう。お陰で俺の中に満ちていた雲が晴れたみたいだ」
「良かったね、コウ神様! でも、それじゃあ……また居なくなっちゃうんだね……」
「そう、落ち込むな。確かに寂しい思いはさせてしまうが、きっとまた戻って来る。……約束だ」
「…………うん、そうだね。コウ神様は約束を破らないもん。きっとだよ!」
「あぁ」
こうしてコウは再び旅へと出た。
目指すは中つ国よりも更に北にあるアイヌモシリの地。
アイヌモシリは中つ国の北に位置するが実際は繋がっておらず、コウが現在居るこの東北の地とは海によって隔てられている。
その上、寒さもより厳しく容易く行くことが出来ない。
そして、その地に住むアイヌ一族は天津神はおろか国津神とも関わりを持たず、独自の文化を有していた。
故に、アイヌモシリは中つ国の中で唯一、中つ国を外から見ることが出来る地となっている。
コウはそんなアイヌモシリでカグツチの情報を手に入れたのだ。
(前に会ったアイヌラックルは元気にしているだろうか? 久し振りに様子を見てみるか……)
アイヌモシリで出会った知人を思い浮かべながら、コウは北へと赴いていった。




