一挙両得
タマノオヤの見つけた黒岩の元へ二柱は近付き、まじまじとそれを観察する。
黒のような灰色のようなその大岩は触るとゴツゴツしており、硬さもかなりあるようだった。
「これは……よさそうだな」
「そうッスね。これなら、金床にするにも十分だと思うッスよ!」
タマノオヤも納得し、どうやってこれを動かそうか思案するコウはその周りを歩く。
すると、その岩の根本になにやら翠色の混じった岩石があるのを見つけた。
「ん? これは……タマノオヤ! ちょっと来てくれ」
「なんスか? …………ん? こ、これは! 翡翠の原石じゃないッスか!? しかもかなり大きいッスよ!」
コウの見つけた岩石を見てタマノオヤは興奮の声を上げる。
彼が興奮するのも無理はない。なぜなら、その翡翠の原石は片手で収まるような代物ではなく、両手で抱えなけば持てないほど大きな物だったからだ。
コウもこれほど大きい物は見たことが無い。
けれども、問題はそれのある場所であった。
「しかし……見事に黒岩の下敷きになっているな」
「多分、増水した時にうまく下に嵌まったと思うんスよ……確かにこんな所にあったんじゃ見つけられないッス」
「……取れそうか?」
「流れにまかせて嵌まっただけなんで取れると思うスけど……取ったら恐らく、この黒岩がぐらついて転がると思うんスよ」
もし、翡翠の原石を取り出したとしてもその弾みで黒岩が動き、下手をすれば自分達が下敷きになる。
しかし、こうも求めている物が両方見つかるのもそう無い。
二柱はなんとかして両方手に入れようと一計を案じ始めた。
「……この黒岩を動かした後に原石を取り出した方が良いな」
「でも、この川の斜面じゃ、岩を動かした拍子にそのまま下流の方まで転がって行っちゃうッスよ?」
タマノオヤの言う通り、川沿いはなだらかではあるものの僅かな斜面になっており、岩を少しでも転がすと勢いでそのまま転がり落ちそうであった。
その場合、岩を運ぶ手間は省けるが下流の方に誰かがいた場合、大変なことになる。
もし、それが華奢な女神や幼い子供神ならば大惨事になりかねない。
そうなると、自分達の手で運べば良いことになるが……この辺りは大小様々な河原の石や岩々が点在しており、足場としては非常に悪い。
少しでも足を滑らせたら自分達が岩の下敷きになり、それも大惨事となる。
「やっぱり、諦めてもっと上を探してみるッスか……もしかすると、他にもあるかもしれないッスから……」
やや落胆気味のタマノオヤの言葉を聞きながらコウはジッと川の流れを下まで辿っていく。
川の流れは急ではないもののそこそこの勢いはあり、流れの中から水の中にある岩がときおり顔を覗かせる。
その岩の顔から流れが別れ、再びぶつかり渦を作っている。
そうしてコウは先程、タマノオヤが語った天安河の成り立ちを思い出して、彼にあることを尋ねた。
「……なぁ、この川はどこの川だ?」
「えっ? どこの川って……天安河ッスよ?」
「いや、そうじゃなくて……さっき言っていた“まち”と天香具山と天金山、その中のどの川になる?」
「あぁ、なるほど……そういうことッスか。それなら、ここは天香具山の川になるッスよ。“まち”の近くで実際の天香具山には遠いッスけどね。因みに天金山の川は湯なんでここは違うッス」
「天香具山か……よし、分かった」
コウは何事か思いついたのか、タマノオヤの話しを聞くと急に黒岩の背後に回り込み、岩を力強く押し始める。
「ちょっ……なにしてるんスか!? そんなことしたら転がっちゃうッスよ!」
「良いんだよ、転がして……ただし……転がすのは……川沿いじゃなく……川の中……へだけど……な!」
身体全体を使い、渾身の力を岩へ解き放つコウ。
その瞬間、岩はぐらつき……川の中へと入り始める。
そのお陰で岩の下敷きになっていた翡翠の原石は姿を現すことが出来た。
「よし……タマノオヤ。お前はその石を持って天安河原まで来てくれ。俺はその間にあの岩を運ぶ」
「運ぶって……て、あれ?」
もう岩を止めることは出来ない……そう思っていたタマノオヤであったが、川の中へ入った岩はゆっくりと川の流れと共に転がりながら下流へ流れていく。
「もし、あれが脆い岩なら水の流れや、水底の石にある石に削られて壊れただろうが……思った通り、頑丈みたいだな。それじゃあ、タマノオヤ。また落ち合おう」
「え……ちょっと、アラハバキさん!?」
タマノオヤの声を背にコウは流れ始める岩の傍まで水しぶきをあげながら駆け寄ると岩の行く先が狂わないように寄り添う。
これで、お互いに目的の物を手に入れることが出来た。
だが、コウの場合はここからが本番だ。
「……さぁて、気を張らねぇとな」
そう呟いたコウの目の前には川の流れの中から顔を出す岩達が立ちはだかっていた。




