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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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玉探しの神

 コウが川の中へ入り、近付くと川底を漁っていた男神は彼の水を掻く音に気付いて作業している手を止めた。


「あれ? アンタ、誰ッスか?」


「いきなりすまないな、俺はアラハバキという者だ。こんな所で何をしているのか気になってな」


 コウが自身のことを簡単に語る中、男神は彼の姿を一頻り眺める。

 そうして、真っ直ぐにコウを見るように向き直った。


「アラハバキ……というと、アマテラス様の従神の?」


「あぁ」


「……もしかして、今日受け取る物を取りに来たんスか?」


「受け取る? 何をだ?」


「あれ? 確か、勾玉の首飾りは今日じゃ……って、そうか……アンタはおれのこと知らなかったッスね。おれは玉祖命タマノオヤノミコトッス。タマノオヤでいいッスよ」


「お前が……タマノオヤ!?」


 予想外な出会いにコウは流石に驚く。

 まさか、金床となる岩石を探している中でもう一柱の神に出会うなど思いもよらなかったからだ。


「なんでそこまで驚くッスか? だって、おれに会いにここまで来たんスよね?」


「いや、確かに探す予定ではあったが……今、探しているのは別のものでな。だが、会えて良かった。探す手間が省けた」


「別なものを探している? 何をッスか?」


 タマノオヤが疑問を抱く中、コウは彼にイシコリドメから金床となる岩を探すよう頼まれ、今はそれを探している最中であることを伝えた。


「なるほど……そういえば、イシコリドメは随分と気落ちしていたッスからね」


「という訳で今はまだ首飾りを取りに行けないんだ。すまないな」


「いや、良いッスよ。どうせ、おれも今は持っていませんし……それにちょうど良いんで、おれも手伝うッスか? この辺りは詳しいッスよ?」


「良いのか? 今、何か務めをしているんじゃないのか?」


「いやいや、まだしてないッス。おれは今、翡翠の原石を探していたんスよ」


「翡翠?」


 翡翠と聞いてコウはようやくタマノオヤがどうして川底を漁っていたのかを理解した。

 翡翠は神々の間で神力を高める道具として好まれる。

 特に女神はそれを首飾りや耳飾りにして、装飾品として重宝している。

 中つ国でもそれは同様でコウのいた出雲でもよく川に入ってその原石を探している所をよく見かけた。


「おれの務めはぎょくを加工することなんで……その材料を探していたんスよ。だから、一緒に翡翠を探してくれるんならおれも岩石探しを手伝うッスよ」


「そういうことか……すまないな、ありがとう」


 こうしてコウとタマノオヤは揃って川の中を歩きながら上流を目指す。

 その道中で川底と周囲の岩々に目を凝らすが、双方ともになかなか見つからない。


「…………意外と見つからないな」


「この辺りはほとんど採り尽くしたッスからね……山から流れてくるのを期待したんスけど、やっぱりもっと上に行かなくちゃ駄目か……」


 溜め息を吐きながら進むタマノオヤにコウはふと思い出したように尋ねた。


「そういえば、どうしてこんな所で探しているんだ? 翡翠なら海辺に行った方が良いものが採れるだろう?」


 コウの言う通り、翡翠は川で採れるものより海で採れるものが綺麗である。

 それは海岸に流れ着くまでに翡翠についている砂や岩が波や川の流れによって削られ綺麗になるからだ。

 しかも、海中ともなれば川より見分けがつきやすく採りやすい。


「アラハバキさんも意外と詳しいッスね」


「これでも出雲にいたからな。たまに手伝ったりしてたんだ」


「そうだったんスか……まぁ、でもこの高天原じゃまず無理ッス。なんせ、海がありませんから……」


「確かに……海はこの高天原の下にあるんだったな。じゃあ、この川は最後にどこに行き着く?」


 コウの度重なる疑問にタマノオヤが高天原の河川について語り始めた。


「天安河は天香具山と天金山、高天原の“まち”から出ている支流がそれぞれ合わさるんス。源流は天香具山。そこから高天原の“まち”から神々が井戸などから掘って使った水が水の神によって浄化され、その時に出来た川が源流と合流するんス。そして、次に天金山から出てくる湯の川が合流し、“まち”の外れにある天安河原になるんス。合流した川は神州ヶ原にてまた幾つもの小さな支流に分岐し、最後には雨となって中つ国に降り注ぐんスよ。……まぁ、それなら中つ国に降りて海辺で探せば良いんスけど、おれは中つ国についてはあまり詳しく無いんスよ。しかも、今じゃ国津神と戦をしていますからね……」


 それを聞いてコウは内心で多くのことに驚いていた。

 中つ国の雨は高天原の水……それによって中つ国の山々や森、人々は生かされている。

 その反面で高天原には海が無く、天津神達はそれを羨ましがっている。

 もし、双方が互いの利点を使い交易を行えばどんなに平和になるだろうか。

 だが、交易をしようにも国津神は天津神を敵としか見ていず、聞く耳を持たない。

 コウはそれが悲しかった。

 そんな悲壮感がコウの心を覆う中、タマノオヤが声を上げた。


「あ! アラハバキさん、あの岩とか良いんじゃないッスか!?」


 コウは声を上げたタマノオヤの指す方を見る。

 そこにはかなり大きな黒い岩肌がまるで待っていたかの如く立ち塞がっていた。

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