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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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浮かぶ疑問

「はぁ~……」


 スサノヲの名を口にしたイシコリドメは盛大な溜め息を吐いた。

 心が相当に参っているらしいのは一目瞭然だが、毎度溜め息ばかり吐かれるとこちらの気も滅入ってしまうし、何より話しが進まない。


「……辛いことを思い出させてすまないと思うが、続けてもらっても良いか?」


「あぁ……はい……すみません…………ワタシの作る鏡の素材の岩石はこの近くを流れる天安河の川上にある堅石を用いていまして、もう一つの材料である鉱石は天金山のものを用いています」


「天金山……というと玉鋼を使うのか?」


「いえ、そこまでの代物は……ワタシは使うのは金山の麓にもある普通の鉄鉱石です。……というより、お詳しいですね?」


「ちょうど昨日、その天金山に行ってきたところだからな」


 詳しいも何も現地まで行き、しかも頂上まで行ってきたのだ。

 何の縁かは知らないが、どうやら昨日の依頼から天金山関連で繋がっているらしい。


「炎の湖を見て、玉鋼を採ってきて……それを使って太刀を直してもらうようアマツマラに頼んだばかりだ」


「えぇっ!? そんな所まで登って、しかもアマツマラ殿のお知り合いなのですか!?」


 ここにきて今まで活気を無くしていたイシコリドメにあからさまな変化が現れた。

 その変化もそうであるが、コウにとっては彼女がアマツマラを知っていることに驚く。


「いや、そっちこそ……知り合いなのか?」


「はい。よく槌を貸し借りしている仲です。一緒にいるカナヤコさんとは旧知の仲です」


「そうか……」


 不思議な縁もつくづくあるものだ、とコウが感じ入っている中……イシコリドメは急に何事か考え込み、そして顔を上げた。

 この状況、コウには覚えがある。

 アマテラスが今日の務めを思いついた時と同じ状況だ。

 つまり、イシコリドメも何かを思いついたということだろう。

 そして、話しの流れから察するに内容は安易に想像がつく。


(……材料を採ってきて欲しいっていう流れになりそうだな)


「あのぅ……そのぅ……今、お手すきだったりします? いえ……しないですよね……忙しいですものね……」


「……俺に出来ることだったらその素材を取りに行っても良いぞ」


「本当ですか!? というか、どうして分かったんですか!?」


「いや、分かるだろう。この流れから考えて……」


「それじゃあ、お願いしちゃっても……良いです?」


「俺は万神だから構わない。それに採りに行かないと鏡も出来そうにないしな……」


「ありがとうございます!」


 気だるげな雰囲気から一変、気持ちが高まったイシコリドメは歓喜のあまり床に何度も頭をぶつけて礼を述べた。

 しかも、勢いが強すぎるあまりか額に傷がついて血が飛び散っている。


「お、おい……そこまでしなくてもいい……」


「あ、あぁ……そうですよね……ただでさえ、お忙しいのに……急がないと、ですからね……」


「いや……別にそういうことじゃ……」


 血を流しフラフラとしながらも笑みを浮かべるイシコリドメの姿に流石のコウも戸惑いを隠せない。

 けれども、彼女はそんな反応など気にせず話しを進め始めた。


「それではアラハバキ殿、改めて事情をお話しします。事の発端は三日前になります……ワタシはアマテラス様から姿見の鏡を作って欲しい、と頼まれまして材料である金床の岩石と鉄の元となる鉱石を集める為に駆け回っておりました。普通の鏡ならばまだしも、姿見の鏡となるとより大きな岩石を金床とし、より多くの鉄が必要となります。ワタシは知り合いの神々にも助力を乞いながら何とかそれに見合う素材を手に入れることが出来ました。そうして、鏡を作るためにより大きな槌を借りる為にアマツマラ殿の所に行ったのですが……槌を借り、この小屋に戻ってきたら…………金床として使おうとした岩石は砕けており、鉱石も砕け散っていました」


「もしかして、この小屋の中にある岩石と鉱石は……」


「お察しの通り、それらの成れの果てです」


「だが、それにしてはよく小屋が無事だったな? そんな有様なら小屋も壊されてもおかしくは無いが……」


「素材は全て小屋の外に置いていたので……なんせ、金床の岩石は神一柱分の大きさの物でしたから、小屋の中になんてとても入れることは出来ません」


「一柱分……かなり大きいな」


 姿見の鏡を作るとなるとやはり土台もそれ相応に大きいのだろう。

 金床の岩ならと思っていたが、想像していたものと随分違うようだ。


「そんな物をよく運んでこられたな」


「知り合いに高天原一の力の神がいるもので……」


「しかし、それを壊したのがスサノヲ……様とはどういうことだ? 壊す所を見たのか?」


「いえ、見てはいませんが……きっとそうに違いありません!」


 証拠も無いのにやけに自信満々に語るイシコリドメを見てコウは訝しげる。

 何か恨みでもあるのだろうか……そう思う彼の心中を察してかイシコリドメはその理由を語り始めた。


「アラハバキ殿はこの高天原に来てまだ日が浅いので存じていないと思いますが……スサノヲ様の狼藉はそりゃあもう酷いものです。アマテラス様が手ずから作っている田の畦をめちゃくちゃにしたり、溝を埋めたり……挙句の果てには神殿の中を糞をして廻る始末……」


「なんだそりゃ? 悪ガキのすることじゃないか……」


「全くです。正直、アラハバキ殿がスサノヲ様を殴ったと聞いた時は皆は心中で恐ろしい神が来たものだ、と思ったでしょうが……一方で心のどこかではスッとしたと思いますよ。なんせ、鬱憤が溜まっていたのですから……スサノヲ様がアマテラス様の弟君ということで皆、それを口にしなかっただけです」


 そう聞くとアマテラスの立場というのがいかに大変なのかがよく分かる。

 彼女が頭を悩ませるのも無理はない。

 だが、スサノヲはなぜそんなことをするのか?

 イシコリドメに遠回しに称賛されたことにも気付かず、コウはそんなことを考えていた。

 それに彼にはもう一つ考えていることがあった。

 果たして本当にスサノヲが壊したのか?

 何かが引っかかり、それが気になって仕方がなかった。

 けれども、考えているだけではどうしようもない……コウは気持ちを切り替えた。


「なるほど、事情はよく分かった……鉱石に関しては昨日、天金山で採ってきたものが幾つかあるからそれでも代わりになるか?」


「見てみないことには分かりませんが……あの金山の鉱石はどれも鉄を含んでいるので使えると思います」


「よし。じゃあ、それは今から俺の小屋に行って持ってこよう。そうなるとあとは……金床となる岩石だな」


 そう言って、コウは立ち上がるとまずは自身の小屋に置いている鉱石を取りにイシコリドメの小屋をあとにした。


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