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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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曇った鏡職人

 翌日、朝餉あさげもそこそこにコウと野衾のネネはアマテラスの神殿へとやってきた。

 日が昇る寸前に一足早くアマテラスに挨拶を済ませ、彼女が神殿の外にて八百万の神々へ姿を見せて戻ってくるのを待つ。

 だが、その姿を見せるのもほんの僅かである為、それほど長く待つ訳では無い。

 そしてアマテラスがその務めを終え、戻ってきたと同時にコウは彼女へ尋ねた。


「で、今日はどうすればいい?」


「そうねぇ……昨日はタケミカヅチがちょうど来てくれたから良かったけれど、今日はまだ何も無いものね……」


 そう言って暫く何事か俯きながら考え込んだアマテラスはふと、何かを思い出したように顔を上げた。


「そうだわ。それじゃあ、今日は顔合わせも兼ねて私の依頼を受けてちょうだい」


「つまり、補佐としての務めか?」


「まぁ、似ているけれど……今回は私の務めでは無いし、どちらかというと御使いかしら?」


「使いか……分かった。それで内容は?」


「実は前々から私が頼んでいた鏡と勾玉の首飾りを取ってきて欲しいの。本当は侍女の女神達に取りに行ってもらう予定だったけれど、少しでも多くの神々に顔と名を覚えてもらう為に今回はあなたに行ってもらうわ。それに……その二つを作る神々とは私の装飾を作るうえで今後も付き合いがあると思うから……」


「分かった……取りに行く場所は?」


「鏡を作っている伊斯許理度売命イシコリドメノミコトは天安河の近く……忌服屋の近くの小屋にいるわ。勾玉の方は―――」


「あぁ、そっちの場所は俺が自分で探してみる。神の名だけ教えてくれ」


「そう? でも…………分かったわ。神の名は玉祖命タマノオヤノミコト、多分名前を出せば誰かが知っている筈よ」


「分かった。それじゃあ……行ってくる」


「いってらっしゃい。くれぐれも壊さないようにね」


「あぁ」


 アマテラスの見送りを受けながらコウは神殿を出ると取り敢えず天安河を目指して歩き出した。

 昨日行った天金山に比べると幾分かは近い。

 けれども、その道中で道行く神々がコウに向かって視線を投げ掛けている。

 昨日はそれほど気にならなかったが、意外にも多くの神々がこっそりと目を向けながら何かを話していた。


「……なんだか、良い気分がしませんね」


「仕方ないだろう。国津神で、ましてや高天原に来て早々に数々の問題を起こしてるんだ。不安を抱かない方が変わっている」


「でも、昨日の二柱の方々はそれほど気にしていなかったようですが……」


「アマツマラとカナヤコか? そりゃあ、あの時はツクヨミやタケミカヅチが傍にいたからな。俺が独りでいる時はこの反応が当然だ」


「……気にならないのですか?」


「こうなることも覚悟のうえだ。でも、務めを果たすのに支障をきたすようであれば少しは考えないとな」


 神々の視線をその身に受けながら高天原の“まち”を抜けたコウはそのまま天安河に到着した。

 そうして、取り敢えず見知っている忌服屋の前まで来る。


「アマテラスの話しだとこの近くに小屋がある筈だが……」


「……あ! コ……じゃなかった、アラハバキ様! あれじゃないですか?」


 袖の中にいるネネの指し示す方に顔を向けるとそこには確かに小屋が一軒建っている。

 忌服屋に比べると少々小さいがそれでも立派な小屋だ。


「そうだな……よく見つけてくれた、ネネ」


 ネネに礼を述べながらコウは小屋に近付き、その戸を叩く。

 すると、中から一柱のけだるげな女神が顔を出した。


「はい……」


「いきなり訪ねて来て申し訳ない、俺はアラハバキ。本日、我が主である天照大神の命により頼んでいた鏡を取りに来たんだが……」


「鏡? あ~……アマテラス様が以前に頼んでいた鏡ですか……そのぅ、実はまだ……」


「出来ていないのか?」


「はい……申し訳ありません……はぁ~……」


「……出来ていないのなら仕方がないが、どうしてそんなに元気が無い?」


 体調が優れないのかと思いもしたが、それにしては高天原の主宰神の依頼した物を作る意欲があまりにも感じられない。

 これは何か理由があるのではないか、とコウは感じた。


「はぁ~……聞いてくれます?」


「まぁ……話しぐらいならな」


「それではどうぞ……お上がり下さい」


 女神に促されるままコウは小屋の中へと入る。

 小屋の中には幾つもの瓶に入った水と大量の岩石と鉱石、大小様々な鉄の槌でひしめき合っていた。


「どうぞ……適当に座って下さい……」


「それじゃあ……失礼する」


 コウがその場で腰を落ち着けたのを見た女神はようやく自らの素性を語り始めた。


「ワタシは伊斯許理度売命と申します。適当にイシコリドメとお呼び下さい……アマテラス様から聞き及んでいると思われますが、ワタシはここで鏡を作っています……」


「……これらは全部、鏡の材料なのか?」


「はい……ワタシは岩石を金床にし鉄を打って、鏡を作ります。今回、アマテラス様から鏡を作るよう命じられた時も、そりゃあもう張り切って良い素材の物をかき集めました」


「集めたってことは素材はもうあるのか?」


「……正しくは“あった”と言った方がいいでしょう。今はもうありません……」


「失敗したのか?」


「いえ、素材である岩石と鉱石が壊されてしまったのです……しかもアマテラス様の弟君であるスサノヲ様に……です」


 スサノヲ……その名を聞いた途端、コウは心の中がざわついた。

 そして同時になんだか嫌な予感と大変な一日になりそうだ、ということをひしひしと感じ取っていた。

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