任命の真相
夕方になり再びツクヨミとワカヒルメと別れたコウはアマテラスに会う為、神殿に来ていた。
彼女との約束である朝と夕の挨拶の為である。
「どう? 初めての務めは?」
「あぁ。これぐらいなら俺でも出来そうだ」
玉座の間にて二柱は本日のことについて語り合う。
しかし、語り合うといっても主にコウが今日の様子を細かくアマテラスに報告しているだけである。
アマツマラの鍛冶小屋へ赴く前にコウはアマテラスにタケミカヅチから貰った報酬と自身が得た石を幾つか献上したのだが、タケミカヅチ達を待たせていた故に簡単な報告だけ済ませ、アマテラスにアマツマラの所を行く許可を得ただけであった。
その為、その依頼達成までの経過を報告していなかった。
といっても行くように促したのはアマテラスであり、彼女は別に怒っている訳でも無い。
詳細の報告はコウ自らの判断である。
「へぇ~……天金山にそんな炎の湖が……確かに“ある”という話しは噂程度に聞いていたのだけれど、真の話しだったのね」
「あぁ。しかし、些か無茶をしすぎたな」
「本当よ……あんまり無理はしないでね。自分の手に余るようであれば、やめても良いんだから……」
「だが、そうなると献上する貢ぎ物が……」
「別にツクヨミは一日に一つ……なんて言って無かったでしょう? あくまで依頼を受け、成功した場合に依頼した神から報酬をもらい、その一部を私に献上する……これには明確な期限も献上する物の詳細も無いのだから、あなたは好きな時に好きな依頼を受け、その辺りにある果実とかを依頼の報酬と偽って私に捧げることも出来るのよ?」
アマテラスの言う通り、ツクヨミが万神の説明した内容には報酬の期限と内容は明確に示されてはいなかった。
恐らく、これはコウを重んじて配慮した為であろう。
けれども、彼はそのことに疑問を覚えた。
「……だったらなぜ、お前はその条件を呑んだ? そこまで分かっているのなら、あの場でそのことを指摘し、もっと重い罪を挙げることだって出来た筈だ」
「確かに出来たでしょうね。でも……私には出来なかった」
アマテラスはそう言うと顔を曇らせポツリポツリと雨が降るが如く、呟くように話し出した。
「……本当はね、私だって分かっていたわ。全ての元がスサノヲによるものだって……あの時、私はあなたが肩身の狭い思いをするから、という理由で万神に任命した。でも、正直……万神に任命しなくてもあなたはそんな思いなんてしなかったでしょう? ……タケミカヅチから聞いたわ。あなたが皆の視線を一身に浴びる中、私が神殿から出てくるまでその正面で座って待っていたって……そんなことをするくらいだもの、皆から不安に思われても意に介さなかったでしょう? ……でも、私にはあの場で上手く収められる案が思いつかなかった。ツクヨミが言い出してくれたお陰で何の軋轢も起きず、終えられたの…………私は……本当は独りじゃ何も出来ないのよ……」
「……だから敢えて俺が有利になるような条件を呑んで、密かに咎無し……ということにしようとしたんだな?」
コウの言葉にアマテラスは悲しそうな顔で頷いた。
その様子を見たコウは目を閉じ、頭を掻きながら溜め息を吐く。
「ごめんなさい……私がもっと強かったら―――」
「そんな顔をするな」
アマテラスの懺悔の言葉をコウは遮った。
そして、彼女が言葉を挟む隙を与えないよう今度は自らが話し始めた。
「俺は自ら罪を償うと言ったんだ。無実を訴えているならともかく……それは野暮だ。それに俺もよく考えたんだが……その万神の内容には一つ決定的な……重大なことが抜けている」
「えっ……なに?」
「よく考えてもみろ。確かに好きな時に好きなだけ、しかも依頼の報酬を偽ることも出来る。期限も献上する物の細かい指定も無い……一見すると魅力ある務めだが、そこにある“期限”が問題だ。期限が無いということは俺が万神の任を解かれることも無い、ということだ」
「……あ」
「それに正式に任命された昨日、お前は俺にこう言った『依頼が無い場合は従神となって補佐する』と……つまり、貢ぎ物が無いということは依頼が無いということと同じだから……俺は苦手な補佐という役目をしなくてはならない」
「そ、そうなるわね……」
「それに、もう一つ付け加えるなら俺は今日……アマツマラとカナヤコに天照大神の従神、と堂々と名乗りを上げてしまった。もう自分から名乗った以上、今更すぐに任を解かれたらそれこそ肩身が狭い思いになってしまう……なって早々に任を解かれたなんて言われたらいい笑い者だ」
もはや相槌も打てず呆然とするアマテラスにコウは頭をなおも掻きながら「つまりだな……」と付け加えた。
「もう俺も後戻りは出来ないんだ。だから、期限が無いから命により今から任を解く……なんて血迷ったことは言うなよ? ……実際、お前の名前のお陰で俺は今、色々と恩恵を受けている状況なんだから…………自分が弱い、だなんて思うな。あの時のお前の判断で俺はここにいることが出来るんだから……」
「アラハバキ……ふふっ、ありがとう」
「礼を言うのは俺の方だ。……さて、話しが逸れたな。報告の続きをして良いか?」
「えぇ、話してちょうだい。楽しいから……」
こうして、日が沈みきった後もコウはアマテラスへ今日あったことをこと細かく語った。




