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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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岩清水の引水

 ツクヨミが材料を取りに行き、ようやく独りとなったコウは竹を削りながらネネを袖から出し、彼女に土瀝青を集めてくるように頼んだ。

 袖の中から今までの話しを聞いていたネネは依頼を聞くと野衾の姿のままどこかに飛んでいく。

 そうして、各々に頼み事を終えたコウは竹の節取りに集中した。

 朝から行っていた為、残りの節は僅かであり、意外にもワカヒルメが戻ってくるまでにそれは終わった。


「よし、あとは……」


 空洞になった竹筒を岩場に持っていき、その口を清水が湧き出ている所に当てると水は竹筒の中を通り、出口であるもう一方の竹の口から出てきた。

 更に余っていた竹を竹筒の下に高低を付けて二本配置し、近くの木に巻き付いていた蔓を引きちぎって、結びつけて固定する。

 水量はあまり変わらないもののこれで少しは水を得やすくなった。

 手を岩に押し付けただけでは掬うのに限界があるが、これならば幾分まとまった水が手に入る。

 コウは竹筒から出てきた水を手で掬い、一口含む。

 素材に青竹を使った為か水に青臭さが僅かに混じる、けれどもどこか爽やかだ。


「初めてにしてはまぁまぁか……」


「あーッ!」


 コウが竹筒の出来をしみじみと評価していると少し離れた所からツクヨミの声が聞こえた。

 彼女は多くの竹を無数のかずらの蔓で巻き付けて背中に背負い込んで戻ってきた。


「自分だけずるい!」


「ずるくは無い。これは俺が仕事を終えた結果だ」


「ボクにも一口飲ませろー!」


「もちろんだ。一口と言わずに存分に飲んでくれ」


 そう言って、コウは斜めに切った小さな青竹の筒をツクヨミに差し出した。


「何、これ?」


 大量の竹を背中から下ろし、青竹の筒をまじまじと眺めるツクヨミ。

 その筒の底は節によって塞がれている。


「中つ国を旅していた時、人間達が若い竹を切っているのを見つけてな。何をしているのか聞いたら竹の中に溜まっている水を採っているって聞いたんだ。それで、俺も一緒に竹を切ってその水を飲んだんだ。それがとても美味くてな。竹そのものも丈夫だから器代わりに良かったんだ」


「なるほど、多分それは神水じんすいだね」


「神水?」


「うん。春先のうまの刻に降った雨が竹の節に溜まったもので、この水で薬を作るとよく効くって聞いたことがある。神々はその水で薬を作るんだ。でも、なかなか取るのが難しいんだよ」


「詳しいんだな」


「いや、あくまでそう聞いただけだからね。ボク自身、その水を飲んだこともそれで薬を作ったことも無いから」


 そう言って、ツクヨミは竹筒で流れ出たばかりの水を汲むとすかさず、んぐんぐと喉に流し込む。

 よほど喉が乾いていたのか、一息に水を飲み干してしまった。


「随分と喉が乾いていたんだな」


「ぷはぁ~……そりゃあね! というか、三貴子の一柱を仕事に使ったのはキミが初めてなんじゃないかな?」


「で、どうだ? 三貴子殿?」


「うん。水に竹の香りと少し甘みのようなものを感じる……でも、美味しい水だよ」


「すごいな。一気に飲んでそこまで分かったのか?」


「舌はかなり肥えているからね」


 胸を反らして自慢するツクヨミにコウは少しばかり疑いの眼差しを向ける。

 そんな中、今度は織物の切れ端を持ってきたワカヒルメと野衾のネネが戻ってきた。

 ネネはワカヒルメに見つかる前にコウの肩に素早く上り、そっと耳打ちする。


「土瀝青は洞窟と森の間に置いてきました」


「ありがとう。ネネ、お前も水でも飲んで休んでくれ」


「アラハバキ様、もらって来ました」


「ありがとう。ワカヒルメも水でも飲んで一息入れてくれ」


 コウは竹筒に水を汲みワカヒルメに差し出す。

 ワカヒルメはそれを受け取りながら感嘆の声を上げた。


「まぁ! これはアラハバキ様がお作りになられたのですか?」


「あぁ、中つ国を旅していた時に見つけたものを見よう見真似で作ったんだ」


「美味しいよ」


 ツクヨミはワカヒルメにそう促しながらちらりと水が出ている竹筒に視線を移す。

 その水が流れ出る下では野衾となっているネネが大胆にも行水していた。


(良いなぁ~気持ちよさそう……)


「そうなんですか……では、頂戴致します」


 丁寧に受け取り、ツクヨミとは対照的にゆっくり飲むワカヒルメ。

 そして、飲み終えて一息吐いた後、彼女も感想を述べた。


「とても涼しげな味ですね。竹特有の香りとほんのりとした甘み……とても美味しいお水です」


「おぉ……ツクヨミと同じか」


「……あのさ、キミはボクをなんだと思っているの?」


「いや、適当に言ったものだと……すまない、許してくれ」


「そう素直に謝られると怒る気にはなれないんだけど……でも、彼女の方の言葉を信じるというのに釈然としない……」


 不平を言うツクヨミと頭を掻くコウを見てワカヒルメは笑みをこぼす。

 その顔を見た二柱も次第に笑顔になり、三柱と一匹となっていた一柱は互いに声を上げて笑った。

 そうして一頻り笑った後、コウ達は夕方まで蔓と織物を使った籠作りを仲良く行った。


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