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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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手伝う者達

「……さて、初めてにしてはこんなところか」


「上手くいって良かったですね。コウ様」


 ツクヨミ、タケミカヅチと別れて自身の住処に戻る道中……コウは袖の中にいるネネと本日の依頼の出来について語り合っていた。

 万神として初の正式な務めにしては些か危険な所もあったが、それはコウ自身が自ら望んで行った為に起きたこと……タケミカヅチを咎めるなんてことは出来ない。

 それを除けば、タケミカヅチの言った通りなんてことは無い内容であった。

 恐らく、今後もこういった依頼が来るのだろう。


「あぁ、こういうことなら俺でも出来るな。ん? あれは……ネネ、隠れていろ」


 ネネとの会話の最中、コウはあるものを見て彼女を袖の奥へと押し隠した。

 小屋の前に誰かいる。

 見るとその者はコウが前に出会ったワカヒルメであった。


「ワカヒルメじゃないか。どうしたんだ? こんな所で……」


「あ、アラハバキ様……」


 声を掛けられたワカヒルメはコウに気付き、彼の元へ近付く。


「こちらに居を構え始めているとタナバタヒメ様から伺ったもので……あの、私に何か出来ることは無いでしょうか?」


「手伝いに来てくれたのか? わざわざすまないな……まぁ、まずは中に入ってくれ。とはいえ、もてなしたくても出せる物はまだ何も無いんだが……」


 苦笑いを浮かべながら小屋へ招こうとするコウであったが、ワカヒルメは慌てて首を横に振った。


「いえ、そこまでなさらなくても……ここで結構です。ところで、何か私に出来ることはあるでしょうか?」


「すまないな、本当に……」


 再びワカヒルメに詫びを入れた後、コウは少し考え込む。

 家造りとはいえそのほとんどは本来、男が担うべきものである。

 しかし、ワカヒルメがこうして来てくれたのは素直に嬉しい。

 何か華奢な彼女に出来ることは……そう考えていたコウはふと小屋の中にある削り途中の竹に目を留めた。

 今日の朝に岩から出ている清水から水を引く為にと作りかけていた物である。

 それを見て、コウは思い出した。


「そうだ。ワカヒルメ、忌服屋でいらない織物はないか?」


「いらない織物……ですか?」


「あぁ。と言ってもそんな大きなものではなく、神衣に仕立てる際に出る切れ端程度のものだ」


「ありますが……それをどうするおつもりですか?」


 いらないものとはいえ用途が気になるのか、ワカヒルメは不思議そうに尋ねる。

 そんな彼女にコウは小屋の中にある竹を指さした。


「あの竹は今、中にある節を取って岩から出ている清水を引く為に作っている途中なんだが……あれを見て思い出したことがある。中つ国にいた頃、蔓や竹で編んだ籠に麻の織物を土瀝青どれきせいを使ってくっつけ、木の実などを入れる器を作っていたんだ」


 土瀝青とは粘度のある黒い土でその粘り気により土器の修復や漆の下塗りといった接着剤としてよく使われるものだ。熱すれば石の矢じりである石鏃せきぞくや骨のモリである骨銛こつせんといった細かいものの接着にも使える。(この土瀝青は遥か後の世で人々に“アスファルト”と呼ばれ、よく使われるようになる)

 採れる場所は限られるが、土を掘り起こせば簡単に手に入る……その為、別に珍しい物でもなんでもなかった。


「あまりに重い物や量の多いものを入れると破けたり、壊れたりするんだが直すのが簡単でな。よく作っていたんだ。だから、もし忌服屋に余っている何かの織物があれば分けて欲しい」


「なるほど……そういうことですか。分かりました、すぐに持って参ります」


 そう言って納得するとワカヒルメは忌服屋に行く為にその場を離れる。

 すると、今度は入れ違いになるような形でツクヨミが小屋へとやってきた。


「やぁ、手伝いに来たよ」


「それはありがたいが……大丈夫なのか? 夜も務めがあるのに……」


 日中に天金山へコウを迎えに行って、その後に夜の務めもある……昨日の忌服屋へ神衣を仕立てに依頼した時もそうだが、ほとんど寝ていないのではないか?

 そうコウが心配する中、ツクヨミはあっけらかんとした様子で答えた。


「大丈夫大丈夫。夜は皆ほとんど寝ているからそんな大事なんて起こらないよ。ボクが本当の務めを果たす時は夜でも有事が起こりそうな嵐の日とか吉凶を占うことが出来る日とかだから……」


「じゃあ、それ以外の時は務めをしていないのか?」


「夜はボクの治める国……そうは言っても姉様のように大勢の者達が務めに励んでいる時じゃないからね。ほどほどに手を抜いているんだよ」


「……サボっているのか?」


「いやいや、変なこと言わないでよ!? ちゃんとやってはいるよ。ただ何も無い時はお飾りみたいなものってことさ。それにボクは寝ていても何か起こった場合、すぐに分かるから」


「そうやって過信していると手痛い目に遭うぞ?」


「もうキミの時に遭っているよ……って、あーうそうそ! 冗談だからね! それに別に過信している訳じゃないさ、適度に余裕をもって務めに臨めばいつでも冷静にいられるだろう?」


「物は言いようだな……まぁ、でも暇ならちょうど良い。近くの森で竹や蔓を取ってきてくれ」


「うん、分かった」


「それが終わったら多分、ワカヒルメが織物の切れ端を持ってきてくれるから……そうしたら、一緒に籠を編んでくれ。その後は土瀝青を籠に塗って織物を貼って完成だ」


「…………なんか全部やらせようとしてない!?」


「この際、作り方も覚えとけ。俺は別のことで手が回らないから頼んだぞ」


「やれやれ……ま、面白そうだから別に良いけどね」


 小屋の中にある竹を手に取り、削り始めるコウを見ながらツクヨミは苦笑いを浮かべ、近くの森へ材料調達へと向かっていった。



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