鍛冶依頼
「それで、アラハバキ。ここまで足を運び、一体どうしたのだ?」
「あぁ、実は……俺とツクヨミの武器を直してもらいたいと思ってな……」
コウはそう言って持ってきていたツクヨミの矛と折れた自身の太刀をアマツマラ達に見せた。
それらを受け取ったアマツマラはしげしげとその有様を眺めた後、静かに口を開いた。
「この矛は柄の部分が壊れ、刃が錆びている……こちらは明日にでも直せるが、しかしこっちの太刀は損傷が酷いな……」
「……それほどか?」
「あぁ、少なくとも五日……もしくは直せないかも知れない……」
「だが、矛の方はすぐに直るようだ。良かったな、ツクヨミ」
「うん……でも、キミの太刀が……」
「ん? これは二つともアラハバキの物じゃないの?」
コウとツクヨミの言葉を聞いたカナヤコがそう尋ねる。
彼女の問いに頷きながらコウは答えた。
「あぁ。矛はツクヨミの……太刀は俺の物だ。もし、鍛冶を行う際に何か必要な物があれば言ってくれ。なんとか工面する」
「分かった。だが、この太刀を直すとなると普通の玉鋼では無理だ」
「そうなのか?」
「うむ。中つ国の太刀を見るのは初めてだが……ここまで幾層にも何重に鋼を打った太刀は初めて見る」
「……高天原じゃ、剣は強靭で薄く長い物が主だからね」
「あぁ……そういうことなら初めて見るのも無理はない。それは俺が知り合った人間達が打ち、俺にくれたものだ」
「人間が!? これを!?」
コウから話しを聞いた一同は改めて彼の太刀を眺める。
決して長くは無いが厚さがあり反った刀身は綺麗に輝いていた。
「鍛冶をする者から教わった訳でも無いのに皆で考え、何本も失敗した末に唯一まともに成功した一本を俺にくれたんだ。俺にとっては大切な物でな……思えば俺が今ここにいるのも皆の思いが具現したこの太刀が守ってくれていたからなんだろうな」
コウの言葉を聞いたアマツマラとカナヤコは黙り込むが、やがて互いに顔を見合わせ何事か頷いた後、同時に彼の方へ向き直った。
「アラハバキ。お前の太刀……このアマツマラとカナヤコが責任を持って打たせてもらう!」
「……出来る限り、持てる力を使って!」
アマツマラとカナヤコの目には強い決意の光が宿っている。
コウもそれを見て頷き、両者に自分の太刀を預けることに決めた。
「分かった。頼む……じゃあ、俺達は……ッ!」
言い掛けたコウは懐に妙な違和感を感じ、それを取り出して思わず放り投げてしまった。
コウが感じた違和感……それは急に懐が熱くなってきたことであった。
しかも段々にではなく、急にである。
その為、彼は咄嗟に思わずそれを放り投げたのだ。
コウが放り投げたもの……それは天金山の火口で見つけた太陽のように紅く輝く鉱石であった。
だが、あの鉱石はひんやりとしてとても冷たかった筈……そう思い、手を伸ばし触れるコウであったが鉱石はなぜか手も触れられない程に熱くなっていた。
「あつッ!」
まるで、太陽そのものがそこにあるかのように熱い。
素手で掴むことを断念したコウの様子を見たアマツマラはその辺りに置いていた何かの動物の皮で鉱石を包み、皮の上から掴んで拾い上げる。
「この石は?」
「天金山の炎の湖で拾った石だ。湖へ行く道中の洞窟じゃとても冷たかった筈なのに……今は太陽そのもののように熱い……」
「今は熱く、洞窟では冷たかった……か。恐らく、それは熱を通しやすいのだろう。熱しやすく冷めやすい……玉鋼を始め、鍛冶に使う鉱石はそれが特徴だ。恐らく、アラハバキが炉に近付いた為、その熱を受けたのだろう。だが、炉に近付いただけでこれほどの熱を持つ鉱石など聞いたことも見たことも無い」
だとしたら、あの時……火口で石を拾ったネネは大丈夫だったのだろうか?
コウがそんな心配をする中、アマツマラはカナヤコと共にまじまじとその石を眺めた。
「なんとも、不思議で綺麗な石だ……初めて見る。もしかしたら、これを使えばアラハバキの太刀を直すことが出来るかも知れない!」
「……うん、やってみよう。これなら、もしかしたら……」
「アラハバキ、すまないがこの石を使わせてもらって良いだろうか?」
「あ、あぁ……構わない。どうせ、どう使えば良いのかさえ分からなかったからな。俺の手で余すよりアマツマラ達に使ってもらった方が良いだろう」
珍しい石をとって眺めるよりも何かに使えればそれに越したことは無い。
コウはそう考え、二柱に鉱石と太刀を改めて託した。
一方、アマツマラとカナヤコは初めて見る鉱石をどう使うか考え始めている。
そんな様子を見たコウ達は彼らの邪魔にならないようひっそりとその場から離れた。
「……ボクの矛、ないがしろにされなきゃ良いんだけど……」
「それなら、案ずることはありません。彼らはああ見えても務めはしっかりする方ですから」
「さて、これで憂いの一つは済んだ。俺はまた戻って家造りの続きをするかな」
各々、口々に言い合った後、コウとツクヨミとタケミカヅチは別れてそれぞれの場所へと散っていった。




