達成
「おぉ! 流石はアラハバキ殿……もう玉鋼石を採ってくるとは……」
神殿に着いたコウとツクヨミはそこで番をしているタケミカヅチに玉鋼を渡した。
タケミカヅチはそれを見て、あまりにも早い仕事振りに驚くもその反面でやはり、といった様子で受け取る。
「さて、あとはアマテラス……様に帰還したことを告げるか」
「待て、アラハバキ殿」
アマテラスへ報告しようと神殿の中へ入ろうとするコウを突然、タケミカヅチが止めた。
それを受け、コウは彼の方を振り返る。
「このタケミカヅチに礼もさせないつもりか?」
「礼などいらない。もうとっくに貰っているからな」
コウは自身が脱走した時に庇ってくれた件の礼も含めてタケミカヅチの依頼を受けた。
けれども、タケミカヅチはそれでは納得しないらしく首を横に振る。
「いや、それは先にアラハバキ殿がスサノヲ様に無礼を承知のうえでナキサワメ殿を救ってくれたからだ。だからこれとそれとは話しが別だ」
「だがな―――」
「アラハバキ殿。己の志に従うのは結構だが、こういう時は貰っておくのがこの高天原での礼儀だ。……礼をさせてくれ。それはこのタケミカヅチが望んでいることなのだ」
タケミカヅチのきっぱりとした物言いと態度に流石のコウも何も言うことが出来なかった。
そうして、暫く考えた後……彼は何かを思いついたように口を開いた。
「…………ならば、一つだけ頼みがある」
「おぉ、なんだ?」
「俺はツクヨミとの戦いで太刀とこいつの矛を壊してしまった……その詫びをツクヨミにしたいんだが、なんせまだ高天原の神々についてはあまり存じていなくてな。どこか腕の良い鍛冶の神を紹介してくれないか? 武神であるタケミカヅチなら誰か知っているだろう?」
「確かに知っているが……良いのか? それで」
「充分だ」
「分かった。ならばアマテラス様に告げた後に行くとしよう。……ツクヨミ様も構いませんか?」
「ボクは別に構わないよ」
コウとタケミカヅチのやりとりを黙って聞いていたツクヨミはその問い掛けに対して頷く。
「分かりました。……アラハバキ殿、貴殿の申し出も承知した。だがせめて……これを受け取って頂きたい」
そう言うとタケミカヅチはコウに近付き、彼の手を取るとその中に何かを握らせた。
それは見る限り普通の石と何ら変わりは無い。しかし、握るとほのかにその石は妙な力を帯びているのが分かった。
「これは?」
「我が神力の雷をたまたま石に当てたらそれが出来たのだ。どういう訳か知らないが、鉄や雷を引き寄せる力を宿したようで小さな物から大きな物までどんな鉄でもすぐに集めて軽々と動かすことが出来るみたいだ」
「鉄や雷……でもどうしてこれを俺に?」
「万神は依頼した神から報酬を貰い、その一部をアマテラス様に献上するのだろう? ならば、せめて何か持っていかなくてはなるまい?」
「あぁ、なるほどそうか……ありがたく頂いていく」
タケミカヅチの言葉にコウはツクヨミがアマテラスに言った時のことを思い出す。
アマテラスへ物を献上するというのはコウが天津神達を倒したことによる償いなのだ。
「じゃあ、今からアマテラス……様に報告をしてくる。少し待っていてくれ」
様を付けた呼び方を慣れないのか、コウは所々で言葉を詰まらせながらも神殿の中へと入っていく。
ツクヨミはその間、タケミカヅチにコウが天金山の火口まで行ったことを話した。
それを聞いたタケミカヅチは驚きつつも、今度は半分呆れていた。
「全く……無茶をするものですな。アラハバキ殿は……」
「まぁ、でも咎めないでおくれよ? そこが彼の良い所であり面白い所なんだから」
「それはそうでしょうが……いささか心配ですな。いずれ身を滅ぼしかねません」
「確かにね……でもまぁ彼は大丈夫だと思うよ?」
「と、言いますと?」
「すぐにそれを止めてくれる“仲間”が傍にいるから……居なくてもその場ですぐに“仲間”を作ることが出来る。ボクやキミみたいなね……それがアラハバキが真に強い理由なんじゃないかな?」
ツクヨミの言葉を受け、タケミカヅチは頷いた。
新天地に来たとしてもすぐに仲間を作ることが出来る……その為、多少の無茶をしてもコウは幾つもの窮地を乗り越えることが出来た。
神力では無い……無意識によって生み出される才。
「……一体、どこでそんな才を身につけたのでしょうか?」
「才とは身につけるものじゃなく身についているものなんだよ。けれども、アラハバキのそれは少し違うように感じる……まるで何かを知り、そこから自然に生まれたような才……そう感じるな」
「自然に生まれた才……ですか」
タケミカヅチがツクヨミと共にそんなことを話していると神殿の中からコウが姿を現した。
彼は出てくるなり二柱の様子を見て尋ねた。
「何か話していたようだが……何かあったのか?」
「なんでもないよ。それより姉様はどうだった?」
「タケミカヅチから貰った石を半分と天金山で取れた石を幾つか献上した後、事情を話したら分かってくれた。今日の分の務めは終わって良いそうだ。あとタケミカヅチは暫く番から離れて俺とツクヨミを鍛冶の出来る神の元へ案内して、とも話していたぞ」
「すまない、アラハバキ殿。アマテラス様から許可まで頂いて……」
「俺は何もしていない。アマテラス……様が事情を聞いてそう言ったんだ」
「そうか。ならば、アマテラス様の御心遣いの為にもきちんと案内せねば……では、お二方参りましょう!」
タケミカヅチはアマテラスに感謝を込め、神殿の方へ頭を下げるとコウとツクヨミを自身が贔屓にしている鍛冶の神の元へ案内した。




