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ジンダイ  作者: 吉田 将
第一章 事の始まり
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敗北の代償

「……もう一度聞く。お前が、カグツチなのか?」


 一呼吸置いた後、コウは自身を見据える面の者に尋ねた。

 だが、面の者は答える気が無いのか……コウを見据えたまま動かない。


「…っ、答えろ!」


 普段はあまり情を出さないコウだが、今回は状況が状況なのか珍しく憤りを見せ、面の者に素早く近付いて太刀を振るう。

 しかし、面の者はその太刀筋を見極め、持っている十拳剣で太刀を受け流すとコウの横を通り過ぎてスイへと向かった。


「スイ!」


「大丈夫だ、コウ! 逆に狙い射るよ!」


 心配するコウに応えたスイは面の者を自身に引き付けてから力強く引き絞った矢を放つ。

 だが、面の者は当たる寸前で上体を後ろへ倒し、矢を避けると、上体を戻す反動を利用してスイを下から上へと斬り上げた。


「ぐっ……はぁ…!?」


「スイィーッ!!」


 自身の目の前で二柱の友を斬られたコウは激昂し、猛然と面の者に迫ると跳躍してその背目掛けて太刀を振り下ろす。

 けれでも、面の者は振り向くこと無く振り下ろされたコウの太刀を片手で掴み、動きを制した。


「なに!? くっ……!」


 コウは掴んでいる手ごと面の者を斬り伏せようとするが、太刀はピクリとも動かない。

 力をいくら入れても手から太刀を離すことが出来ない。

 そんな中、コウは面の者の掴んでいる手が鉄のように黒く染まっていることに気が付いた。

 そして、その者が十拳剣に火を付け、手負いのスイを貫こうとしていることにも……。


「っ! スイ逃げろ!」


「……はぁ……っ……すまない、コウ。もう……動くことが出来ない……」


 うずくまるミズチとスイを見たコウはその眼を蒼く染め、身体中に魚鱗の鎧を纏う。

 だが、時は僅かに遅かった。

 コウが荒御魂を解放するより早く、面の者の紅蓮の凶刃がスイを貫いたのだ。


「ごはっ……」


 貫かれたスイは口から大量の血を吐き、倒れる。

 刀身が炎に包まれた十拳剣はスイの血と身体を焼き、洞窟内は鉄と肉が焦げるような臭い、そして黒い煙にみるみる包まれた。


「テメェ!!」


 怒気を込めるどころか溢れんばかりの怒号を放ちながら、コウは面の者を強く蹴り付ける。

 面の者はその瞬間に握っていた太刀を離す。

 だが、蹴られたにも関わらず……面の者は全くその場を動かない。逆に蹴った筈のコウが後ろへと下がってしまった。


(なんだ、コイツの身体は……重い…いや、固い)


 予想外のことが立て続けに起こるも、今のコウは驚きよりも怒りが強く、その考えを熟考して対応する冷静さが無かった。

 面の者はスイに刺した十拳剣を抜き、炎を纏わせたまま今度はコウに迫る。

 コウもそれに応じる為、太刀に魚鱗を纏わせた。

 そして、互いに近付いた際……両者は同時に剣を振る。

 コウの太刀は見事に面の者の脇腹を捉え、斬りつける。しかし、なぜか太刀は弾かれ、コウは大きな隙を作ってしまった。

 声を上げる間もなく、コウは面の者が放った横薙ぎの炎の斬撃を受ける。

 しかし、コウも魚鱗の鎧を纏っていた為、鱗が剣を防ぎ、事なきを得た。

 コウと面の者は互いの身体に刃を当てながら組み合うように対峙する。

 そんな中、コウが先に面の者から太刀を離し、代わりに指を一本……何かをなぞるように動かした。


「炎よ、走れ!」


 なぞるように動かし、そう唱えると面の者の十拳剣に宿っていた炎がその者目掛けて襲い掛かる。

 面の者も流石にその光景に驚いて、炎を振り払おうとするが、炎は瞬く間にその者を包み込んでしまった。


「いくら神力で身体を固くしようとも、これは関係ねぇだろ?」


 コウはそう言うと、太刀を握り直して面の者を斜めに斬りつける。

 今度はちゃんと感触もあり、太刀も弾かれない……が、面の者からは赤い血潮は出なかった。

 代わりに身体は溶けた鉄のようにグニャリと曲がり、斬った場所からは血ではなく半ば黒ずんだ銀色の玉が無数に飛び散った。


「ぐっ……!?」


 その飛び散った玉は近くに居たコウを襲い、魚鱗の鎧をいとも簡単に砕いて生身を貫いた。


「がはっ! がぁ……!」


 あまりの衝撃と痛み、そして熱した鉄を身体の中に入れられたかのような耐え難い熱さがコウを襲う。

 その為、コウは立っていることが出来ず、膝を着いてしまった。


「なんだ……これは……」


 正体不明の敵の攻撃に翻弄され、半ば混乱するコウ。

 そんな彼に面の者は近付き、十拳剣を振り上げる。


 ……俺もここで終わりか───。


 とコウが諦めかけたその時。

 どこからか蛇行剣が飛んできて、面の者の十拳剣を弾き飛ばした。


「コウ、今だ!」


 見るとさっきまでうずくまっていたミズチが何かを投げたかのように手を伸ばしている。

 友が生み出した僅かな好機……それを見たコウは一度は諦めかけていた気持ちを奮い立たせ、持っていた太刀を杖代わりに突き刺して立ち上がった。

 そして、面の者の腹に力強く拳を入れて怯ませると、面に向かって頭突きを放つ。

 面の者はそれによって後ろへ倒れる。


(今だ!)


 出来た隙を突いて反撃に出るのかと見ていたミズチは思ったが、意外な事に……コウは傷を負ったミズチを担ぎ、洞窟の外から自身の紡技を使ってツルを引き寄せ、それに掴まる。


「なぜだ、コウ! 今なら奴を……」


「奴は倒れただけに過ぎない、このまま組み合ったら深手を負っている俺達がやられるのが必然だ。ここは一旦逃げるぞ」


 そうこう言っている間にツルは勢いよく洞窟の外へとニ柱を導く。

 その最中、コウは面の者に向かって振り返った。

 面の者は既に立ち上がっていたが、コウとミズチを追う様子は無く、その場に立ち尽くしている。

 そして、その近くには無惨にも焼かれた、かつての友の亡骸があった。


「スイ……」


「……すまない、守ることが出来なくて……」


「クソ……クソッ! 天津の連中め!」


「ミズチ、恨むのは後だ。今はスイの分も生き抜くことだけを考えよう……」


 面の者とスイに対して様々な思いを抱いたニ柱は辛くも洞窟を脱出し、追っ手から逃れる為、取り敢えず河原へと向かうことにした。

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