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ジンダイ  作者: 吉田 将
第四章 万神アラハバキ
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鋼石を求めて

 神殿を出た後、コウはタケミカヅチに先程アマテラスから聞いた件を受けたことを伝える。

 それを聞いたタケミカヅチは喜んだ。


「おぉ! アラハバキ殿が受けてくれるのならありがたい。これ以上頼もしいことは無いだろう」


「お褒めに預かり光栄だが……俺にその鉱石が採れるかは分からんぞ?」


「いや、案ずることは無い。アラハバキ殿なら容易く採れるであろう」


 タケミカヅチのコウに対する信頼は大きいように感じる。

 恐らく先のスサノヲの一件によるものであろうが、コウとしては複雑な心境だ。

 取り敢えずコウは目を細めながら詳細を尋ねた。


「……それで、その布都御魂剣に使われている鉄とはなんだ?」


玉鋼たまはがねと呼ばれるものだ。この高天原では玉鋼石ぎょくこうせきとも呼ばれている。その昔、天金山が火を吹いた時に山の砂鉄が溶けて混ざり合い、強靭な鋼の石を生み出した……これが玉鋼だ。この石は山の中腹から頂上付近にあるものだが……そこまで上に行かずとも採ることが出来る。この高天原においては上質な物だ」


「上質か……特徴は?」


「とても硬く……そして黒い。更には普通の鉱石よりも重い……これが皆があまり取りに行けぬ大きな理由だ」


「なるほどな……」


 コウは少ししか天金山を見ていないが、あれほど急で崖の多い山では登るだけで一苦労だ。

 更には採ってきたとしても重い為、帰りはもっと難儀であろう。


「アラハバキ殿なら大丈夫だと思うが……くれぐれも山の頂上まで無理して行かないことだ」


「なぜだ?」


 タケミカヅチの言葉にコウは疑問の声を出す。


「一度、何者かが天金山の頂上まで行こうとしたのだが……そこには全てを溶かさんばかりの炎の湖があったそうだ。しかもその湖からは時折炎の波が踊るように噴き上がり、とてもじゃないが近付けないらしい」


「炎の湖……そんなものがあるのか」


 それを聞いたコウは平静を装いつつも内心好奇心に揺れた。

 中つ国を旅してはいたものの、今まで炎の湖とやらは一度も見たことは無い。

 コウはそれを見たくなった。


「あぁ、どうやらそうらしい。このタケミカヅチはまだ見たことは無いが…………まぁ、そういうことなのであまり無理はしない程度に玉鋼を採ってきて欲しい」


「分かった」


「それじゃあ、アラハバキ殿。よろしくお頼み申す」


 タケミカヅチは深々とコウへ頭を下げた。

 コウはそれを受け頷くと早速、天金山目指して歩き始めた。




 ※※※※※※




 高天原の“まち”から天金山まではそう遠く無かった。

 天安河を抜け、コウは天金山の入り口へと立っていた。

 大きな岩肌と切り立った崖がまるで立ち塞がっている。


「うわ~……こんな所を登るんですか?」


 コウの袖から野衾となって隠れていたネネがひょっこりと顔を出しながら尋ねる。


「仕方ないだろう。ここしかまともに登れそうな場所が無いんだ」


 分かっている、と言わんばかりにコウが答えた。

 そう、色々な所を旅し渡り歩いてきたコウでさえこの山は険しいと感じている。

 その証拠にコウは山に着いてからはすぐに登ろうとはせず、手間ではあるものの登りやすい場所を探して回っていた。

 しかし、どの場所も岩が脆かったり、掴む場所が無かったりといった状態であった。

 そうした結果、コウはこの場所を選んだ。

 目の前は崖だが、辛うじて足場となる場所が所々に点在している。


「あの一足分の足場を上手く使えば登れる筈だ」


「ですが……どうやって?」


「こうするんだ」


 コウはそう言うと周囲に誰もいないのを確認してから眼を蒼く染めて紡糸を出す。

 そうして今度はその糸を僅かな足場の上に付けた後、糸を引っ張り自身の身体を浮かせた。


「なるほど!」


「まだだ」


 ネネが感嘆の声を上げる中、コウは僅かな足場に片足を乗せると次の足場へも同様に紡糸を付けて飛び上がる。

 こうして、次から次へと足場を移動していったコウは少し広い足場に着地すると下を眺めた。

 今まで片足のみ触れた足場は脆かったのか、いつの間にか崩れ落ちて無くなっている。

 けれどその分、山の中腹まではもう少しだ。


「おぉ! 結構早く着きそうですね!」


「あぁ、上手くいって良かった」


「でも足場が崩れちゃいましたね……帰りはどうするんですか?」


「……まぁ、その時にでも考えるさ」


「……それもそうですね」


 僅かに沈黙をした後、二柱は気を取り直す。

 そして、コウは玉鋼を求めて再び紡糸で岩から岩へ飛び移り始めた。




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